5月某日、千葉県市原市のスペシャルショップ・ベルエアーの代表・高畠さんから編集部に一本の電話が入った。
聞けばチャレンジャーをサーキットで走らせることになったという。しかも、ステアリングを握るのはドリキンこと土屋圭市氏というからただ事ではない!
もちろん断る理由などあるはずもないので、ぜひ取材させてもらうことに。
土屋氏といえば、これまで数多くのクルマをサーキットへ持ち込み、限界まで攻め込むことでテスト車両の素性を明らかにしてきた。
そして必ずや試すドリフト性能。だがダッジチャレンジャーをドリフトさせるのは初というから興味深い。くわえてベストモータリング世代の筆者には神様のような存在なのだから感慨深い。
日頃の取材で我々もチャレンジャーにはこれまでに何度も乗っている。だが、基本的には一般公道を中心とした通常走り。言ってみればチャレンジャーの持てる能力の10%から20%程度を使って走っているレベルに過ぎない。
だから今回の土屋氏の走りが一体どんなものになるのか?
舞台となる袖ヶ浦フォレストレースウェイは一周2436mのミニサーキットだが、フルパワーのチャレンジャーはどのようなパフォーマンスを見せてくれるのだろう。
で、もう一つの驚きが、今回のベース車はチャレンジャーSRTヘルキャットレッドアイワイドボディ。いわゆる797hpのチャレンジャー最強モデルである。
アメリカンマッスルカーの代名詞ともいえるダッジチャレンジャー。2015年に登場したヘルキャットの系譜はデーモンへと受け継がれ、最後の継承者として「公道最強」を目指して開発されたのが、このダッジチャレンジャーSRTヘルキャットレッドアイワイドボディである。
6.2リッターの排気量を持つV8エンジンにスーパーチャージャーを組み合わせることで797hpの最高出力を叩き出すのだが、2018年に登場した限定車・デーモンの840hpからすればディチューン版と記されることも多い。
だが、実際にはデーモンのパワー表記はスペシャルガソリンを使用した時のものであり、一般的な燃料を使用した場合には790hp程度とも言われているからレッドアイは最速のチャレンジャーと言っても過言ではない。
くわえてレッドアイはブレーキや冷却系統の容量が拡充され、公道での使用に対して十分なキャパが与えられているのも大きな特徴である。
さて土屋氏とチャレンジャーとのご対面。土屋氏が日頃目にする国産スポーツカーとは対極をなすビッグボディのアメリカンマッスルカー。
お決まりグリーンのレーシングスーツに身を包みチャレンジャーのコックピットドリルを受ける。そしてシートを合わせすぐさまコースイン。暖機運転&車両に慣れるためにしばらく流し、いよいよ全開へ。
さすがのドリキン土屋圭市! 797hpをモノともせず、タイトなコーナーで巨大なボディを振り回す。そして激しいスキール音。チャレンジャーでここまでの激しい走りは見たことない。
そしてホームストレートではV8パワーが炸裂、その雄叫びと共にスーパーチャージャーが放つ独特の過給音が共鳴する、と同時にフルブレーキングからのターンイン……。
アタックを終えピットに戻って来た土屋氏。開口一番「すげーっ!」と満面の笑顔を見せてくれた。
「やっぱり797hpはダテじゃないね。パワーも凄いけどトルクの太さもアメ車ならではだし。アクセルを踏み込んだ時の爆発的な加速も独特だね。スーパーGTの300クラスよりも確実に速いよ。直線では3速、4速でホイールスピンしちゃうしさ。
ドリフトに関してはいろいろ試してみたけど、クルマが横に向きそうな瞬間に電子制御が入って自動的にパワーを落としてしまうんだよね。クルマが〝これ以上はダメです!”って制御しちゃうんだ。これは横に向けたい人へのお仕置きタイムだね(笑)。
でも、一般の人にとっては安全だし、これだけパワーのあるクルマとしては正解だと思う。クルマを破綻させることなく797hpを使いこなすにはシビアな制御が必要になるってことだしね。
足回りはしっかりとロールしながらグリップの限界を感じることができる、バランスの良いセッティングだよ。ブレーキの容量は十分だけど、やっぱり2トンを越える車重は感じちゃうかなぁ……。
でも、こんなクルマが世の中に存在すること自体が嬉しいよね。もちろん797hpという魅力には自己責任が必要になるけど、安全性を追求した結果、“楽しくないクルマ”ばかりになった今の自動車業界に対するアンチテーゼでもあるような気がする。
こんなクルマが存在する時代に生きてて本当によかったよ!」
試乗を終えたドリキンが損得勘定抜きにしてレッドアイを高く評価していたのが本当に嬉しい。だって稀代のレーサーが本気で走って出した答えだから。
すなわち、走る喜び、操る楽しさを濃厚に漂わせるガソリンエンジン最後の猛獣は、究極のアメリカンマッスルカーに違いないのである。
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