2016年のフォード撤退は、5リッターV8マスタングの右ハンドル車の発表直前、3.5リッターV6ツインターボのエクスプローラータイタニアム発表の直後だった。後からわかったことだが、フォード日本法人の99%の方が寝耳に水だったという。
しかも、その頃の日本におけるマスタングやエクスプローラーは販売好調で、さらにもう一段も二段も上のレベルでの販売数が見込めた時期でもあったからなおさら驚いた。
「ご存知ですか、フォードジャパンが撤退してから、ある年の年間のフォード車の輸入台数(並行輸入)って500台を超えていたんですよ」と語るのはフォード茨城守谷店の鹿野氏。
続けて「500台もあれば、展開の仕方によっては正規輸入が可能なんじゃないかって思うんですよね」
だが、そんな話があるわけではない。もちろん酒席の話題に上ることはあっても、現実的な話があるわけでないのが事実だ。恐らく、「まさにこれから」という時のフォード日本撤退がよほど悔しかったに違いない。そんな思いを感じ取った。
鹿野氏が勤めているフォード茨城守谷店は、実は今はプジョーショールームとシトロエン、DSショールームに様変わりしている。だから、フォード車オーナーが「持って行きづらいな」と感じることがあるのではないか? そんな風にも思えてしまうし、実際「かつてのフォード店がジープやアウディ店に変わってしまって…」というオーナーさんの話を聞いたことがある。
だが。店舗撮影を行おうと外からプジョーショールームを眺めていると、マスタング、エクスプローラー、フォーカスといった旧フォードディーラー時の車両たちが次々と裏のサービス工場に入っていく。その光景に驚き鹿野氏に尋ねた。「あれって、売り物ですか?」
すると「いや、あれ、サービスに来たオーナーさんですね」という。取材日が土曜だったこともあり、何かしらの整備を受けにサービス工場に来たというのである。
詳しく聞けば「もともとのフォード茨城守谷店は、オートラマ守谷店として1987年に創業しています(鹿野氏はその翌年入社)。要するに34年の社歴があり、ざっと計算して撤退前までに29年間フォード車を販売しており、それだけの顧客数がいたのです」という。
しかも、フォード撤退後に間を置きプジョーショールームに様変わりするも、そうした雰囲気をあまり出さずにフォードオーナーに変化を悟られないような努力を積み重ねてきたという。例えば、車検や点検等の案内封筒をフォード時代のものを使ったり、フォードディーラー時代の電話番号を残したり。
わずかなことだが、そうした積み重ねが功を奏し、現段階において、サービス部門の6割(プジョー、シトロエン、DSを含め)を未だフォード車が占めているというから本気で驚いた。
確かに併設のサービス工場に行くと、プジョーにシトロエン、DSといった車両たちが止まっている中、整備待ちのフォード車がかなりの数止まっている。数えると軽く20台を超える。
「昔からの信用と付き合い、そして熟練のメカニックの存在、そう言った全てがまだ残っていての今ですね。非常にありがたいです。それと昔から、並行車両の整備もやっていましたから、今もそういった車両が入ってきます」
はっきり言って驚いた。これまで何度も旧フォードディーラーを訪ねたことがあるが、そのどれもが独自に並行車を輸入したり中古車の販売を行ったりすることで活気づかせていたが、この守谷店は昔からのフォードオーナー達によってまるで今もディーラーがあるかのごとき雰囲気を発していた。
また同時に鹿野氏の言葉通りとてつもない顧客数がおり、そう言った方々を、他メーカー車両を販売しながらも、しっかり支えるサポートができていることにも重ねて驚いた。
「いや、課題は多いですよ。当時のメカニックのスペシャリスト達も歳を取りますからね。だから早く若いエンジニアを育てないといけないんですが。でも新しいクルマが出てくるわけではないですから刺激も少ない。そのためにも、一刻も早くフォード車の輸入の復活を望みたいですよね」
繰り返すが、そう言った話が実際にあるわけではない。だが、今もこうした熱い男たちに支えられ、しかもフォード車輸入の復活を望んでいるという事実は確かに存在するのである。
さて、そんな熱い男・鹿野氏と守谷店との深い関係性を持つオーナーさんがやって来た。関口和正さん56歳である。関口さんと鹿野さんは15年超の付き合いであるという。
もともと、関口氏が奥様のために個人売買にてフェスティバを購入。その後、フェスティバの消耗品パーツの手配を依頼したのが自宅から程近いフォード茨城守谷店であり、当時はまだその程度の浅い関係であった。そして後にフェスティバの車検を依頼し、ディーラーとしての付き合いが始まる。
その頃関口氏はバイクのレースをしていたという。そして運搬にはハイエースを使用していたからご自身はフォード車には乗っていなかった。で、その後不慮の事故により下半身麻痺に。
だが、関口氏は落ち込むどころから、入院している最中に携帯で車両を探す。そして福島のディーラーに好みのフォーカスを見つけたという。
すると、現守谷店のスタッフが、なんと福島まで行き積載車にそのフォーカスを載せ病院まで見せに来てくれたというのである。
「そこまでされたら買わずにはいられないですよね(笑)」
関口氏は、まだ入院中であったにもかかわらず購入を決め、手動装置の手配をお願いし、退院する日に病院で納車となった。そしてその日に初めての手動装置によるフォーカスの運転で高速に乗り、自宅に帰る。
この日から奥様のフェスティバ、関口氏フォーカスの2台フォード車体制となり、後日サーキット走行の趣味グルマとして運命のマスタングと出会うことになる。
「しばらくフォーカスを楽しみながら、手動装置での運転にも慣れながら、だんだんとサーキットへの思いが増し、フォーカスでサーキットを走ってみました(笑)そしてサーキット走行用の車両が欲しいと思ってしまったのです」
その時点で、予算300万円程度を準備し車両探しの日々が始まる。当時の候補は34Z、NSX、マスタング。
で、そんなある日、フォーカスのオイル交換にディーラーへ行くと、ちょうど下取り車として入庫していた黒いマスタングと出会う。入庫したてでまだ値段も付いていない素の状態。だがそれに一目惚れし、そのまま購入した。
そのマスタングは2007年車。それを2011年に購入。3台目のフォード車である。それ以来10年10万キロ乗っている。もちろん手動装置による運転である。さらにサーキット走行も行っている。
「ちなみにフォーカスは、2005年式で今現在23万キロ走行です。もちろん、購入時から全てフォード茨城守谷店にて整備しています。4速AT、2リッターNAエンジンで、一般使用だと何ら不満はないのです。だからこその23万キロ。でも、サーキットでは…(笑)」
一方、マスタングには様々なパーツを装着し、アレンジを行っている。
「改造とはいえ、基本的には合法パーツです。自分でパーツを手配し、フォード茨城にて装着してもらいます。鹿野さんを含め、事前に話し合いし、『いいものはいい、ダメなものはダメ』と、合法パーツのみを使いカスタマイズしている感じです」
ちなみに3台全てがフォード車の関口氏夫婦であるが、フォード撤退に関してはどう感じたのだろう?
「その当時、びっくりでしたしショックでした。なんせ3台所有全てがフォード車ですから(笑)。しかもディーラーの統廃合もあり、なくなってしまったディーラーもありましたからね。なのでフォード茨城守谷店がなくなってしまっていたら自分たちの3台はきっと乗り続けることができなかったと思います。ですが、ディーラーが残ってくれたので、まったく不都合なく今も乗れています」
店舗自体はプジョー&シトロエン、DSショールームとなってしまっているが、フォード茨城守谷店は、まさしくフォードディーラーとしての整備体制が今なお整っており、当時からのメカニックがいて、さらにピーシアイによる純正パーツが手に入ることで十分に成立しており、さらに鹿野氏のような熱い思いを持ったディーラーマンがいることで、フォード車好きをいまだ満足させ続けているのである。
フォード茨城守谷店
■住所:茨城県守谷市けやき台5-5-4
■電話:0297-45-3411
■営業時間:9:00~19:00
■定休日:水曜日、第2木曜日
12,810円
PERFORMANCE
6DEGREES
17,298円
PERFORMANCE
6DEGREES
18,420円
PERFORMANCE
6DEGREES
2,090円
MAINTENANCE
6DEGREES