シボレーコルベット史上初のミッドシップレイアウトを採用した第8世代のC8コルベットは、「FRじゃなければコルベットじゃない」「ロングノーズ&ショーロデッキスタイルこそがコルベット」「横置きリーフスプリングを諦めたのは残念」etc、既存のコルベットオーナーを中心としたアメ車ファンからのあらゆる雑音を、その圧倒的な動力性能によってシャットアウトすることに成功した。
C8コルベットのスポーツカー(というよりもスーパーカー)としての優秀さを体験すれば、前記した「これぞコルベット」と信者が考えていたコルベットの伝統が、ただの盲信に近いものだったかのように思えてしまう。そのくらいC8は良く出来たスポーツカーなのだ。
もっとも、いくらC8コルベットがスポーツカーとして優秀かつ正しくても、それ自体はC7までのコルベットを否定するものではない。スポーツカーというのは、速さだけが絶対の正義ではないからである。今FR時代の中古車に乗ってみるとそれがよくわかる。
ここで紹介する車両は、今から20年以上も前に販売された第五世代のC5コルベットの中古車である。
ベーシックな4ATのクーペではなく、ハイパフォーマンスグレードの『Z51』ではあるが、動力性能も快適性も安全性も、あらゆる面でC8とは比較にならないくらい低い。唯一優っているポイントは車体の軽さくらいのものだ。
しかし、これが走らせてみると、最新のC8に負けず劣らず「楽しい」のである。
例えばエンジン。C8に搭載される6.2リッターV8 LT2ユニットのスペックが502ps&65.0kg-mであるのに対し、C5に搭載される5.7リッターV8 LS1ユニットは350ps&48.4kg-mしかない。
それにもかかわらず、運転している時の『パワー感』や『ビート』は、C8に負けていない。
荒々しい=フリクションが大きいとか、パワー感がある=車体剛性が低くてパワーが逃げているとか、社外マフラーの音が大きいからパワーがある様に感じるといった理由があるにしろ、LS1のエンジンフィールが官能的であるのは間違いない。
例えばミッション。C5のZ51は、C8になって廃止されたマニュアルトランスミッションを採用しているのだが、このヴォルグワーナー製の6速MTが実に楽しい。
もちろん、変速の速度やスムーズさに関しては、最新の8速デュアルクラッチを搭載するC8の方が圧倒的に上だろう。さらには、いちいちクラッチを踏んでHパターンのスティックを動かさなければならないMTは、渋滞時などは煩わしいことこの上ない。
しかし、サーキットやワインディングはもちろん、空いてる一般道を運転している時でさえ、MTには「自分が操ってる」感があり、これが一定以上の年齢層の車好きにはたまらない魅力となるのだ。
「世界で最後のリトラクタブルヘッドライト採用車」であるC5は、以前から中古車相場は高値安定で推移していたが、最近はさらに値上がり傾向にある。
とはいえ、それでも車両本体価格が300万円を超える車両は稀だし、ここで紹介しているZ51の様に、走行距離しだいでは、総額200万円で収まる格安車も存在する。
車両本体価格が1000万円を軽く超えるC8は、誰にでも手に出来る存在ではないが、C5の中古車であれば、頑張ればほとんどの人が手に入れる事が出来る。そして、手に入れた時の満足度や楽しさは、決してC8に劣るものではない。
そして、C5に限らず、C6にもC7にも、歴代のコルベットには其々に違った魅力がある。年式やグレード、性能や価格が違っても、それぞれに違った魅力があるのがシボレーコルベットというモデルの奥の深さだろう。
なお、非常に魅力的なC5だが、デビューは1997年、四半世紀も前に世に出た3世代も前のコルベットである。見た目的にも性能的にも古さを感じないので忘れがちだが、C5は今や『プチクラシック』の域に入りつつある旧車ということを忘れてはならない。
中古車の中には、経年劣化によるトラブルを抱えている車両も存在するし、購入後の故障やトラブルで困らないためにも、修理メンテナンスに精通した販売店で購入することをオススメする。
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