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V8とフレームとFRを捨てた大博打

開発物語① 5代目フォードエクスプローラーの逆転劇

猛反対と倒産の危機を乗り越えたFFエクスプローラーの開発ストーリー

アメ車の新車開発時にあった秘話に焦点を当てた企画。一回目は、誰もが驚いたFFエクスプローラーである。

更新日:2026.10.15

文/石山英次 写真/古閑章郎

世界を、そして日本を席巻した2011年の変革

 2010年、フォードがある発表をした時、世界中のアメ車ファン、あるいは自動車メディアは耳を疑った。

 「次世代のエクスプローラーは、ラダーフレームをやめる。駆動方式もFR(後輪駆動)ベースから、FF(前輪駆動)ベースのモノコックへと変更する」

 それは、それまでの「頑丈なトラックの血統こそがアメ車の正義である」と信じて疑わなかったファンに対する事実上の“決別宣言”のようにも聞こえたから。さらに決定打となったのは、その巨体に大排気量V8ではなく、わずか2.0リッターの直列4気筒ターボ(エコブースト)エンジンを載せるという計画だった。

 「そんな軟弱なアメ車が売れるわけがない」――誰もがそう冷ややかな目を向けた。

 しかし、2011年に登場した5代目エクスプローラーは、大方の予想を完璧に裏切り、世界中で記録的な大ヒットを記録する。アメ車の常識をすべて打ち破り、現代のクロスオーバーSUVの決定版となったこのクルマの裏には、フォードの生き残りをかけたエンジニアたちの「命がけの大博打」があった。

▲2011年に登場したFFエクスプローラー。このモデルは会社を救うために排気量を極限まで小さくし、ターボでパワーを補う小型ガソリンエンジン「EcoBoost(エコブースト)」を搭載した変革モデル。

▲アメリカ本国で前年比を大きく上回る大ヒットを記録。「ノースアメリカン・トラック・オブ・ザ・イヤー」を受賞し、フォードの復活を強烈に印象付けた。

▲室内空間は広く、まるでフルサイズボディのような空間アレンジが特徴であった。同時に広々とした3列シートを備えていることから、ミニバン的な要素も併せ持つ。

▲エンジニアたちが「法律の壁」と向き合い、伝統を捨てる痛みを恐れず、未来のテクノロジーへと舵を切った革新的SUVとして、今なお中古車市場では人気を保っている。

 話は2000年代後半に遡る。当時のアメリカ自動車業界(ビッグ3)は、2008年のリーマンショックによる劇的な経済危機の中にいた。GMとクライスラーが破産法を申請し事実上倒産するなか、フォードだけは政府の公的資金(税金)による救済を受けず、自力での生き残りを模索していた。

 当時のCEOアラン・ムラーリーが掲げたスローガンは「ONE Ford(世界で一つのフォード)」。それまで地域ごとにバラバラに開発していた車種をグローバルで一本化し、無駄なコストを徹底的に削減した上で、「これからの時代に世界中で売れる圧倒的にクオリティの高いクルマを作る」という至上命令だった。

 そのメインターゲットとして選ばれたのが、フォードの看板車種であり、アメリカのファミリーカーの象徴でもあったエクスプローラーのフルモデルチェンジだった。

▲直噴技術とターボチャージャー、独立可変バルブタイミングを備えたこの小さな4気筒は、わずか3,000rpmという実用域で366Nmという3.5L〜4.0Lクラスの太いトルクを発揮。従来のV8モデル比で約30%以上の燃費向上を達成。

 エンジニアたちが伝統のV8やV6、そしてFR駆動を捨てたのは、単なるロマンや思い付きからではない。そうしなければフォードという会社が本当に潰れてしまうという、国家レベルの極めて切実な事情が存在したからだ。

 自動車メーカーがアメリカ国内で車両を販売する際、切っても切り離せないのが「CAFE(Corporate Average Fuel Economy=企業別平均燃費)」という連邦規制である。

 これは個別車種の燃費ではなく、そのメーカーが1年間に販売した全車種の平均燃費が政府の基準をクリアしていなければならないという厳しいルール。

 そしてエクスプローラーがモデルチェンジを迎えるまさにその2011年モデルから、このCAFE規制が歴史上最も厳しいレベルへと大改正された。さらに追い打ちをかけたのが「2WDのSUVはトラックではなく、より燃費規制の厳しい乗用車クラス(目標30.2mpg / 約12.8km/L)としてカウントする」という突然のルール変更だった。

 もし平均燃費をわずかでも下回れば、販売台数に応じて数百万〜数億ドルという天文学的な罰金が容赦なく科される。経済危機で瀕死の状態だったフォードにとって、この罰金は「即、倒産」を意味していた。

 当時、フォードで最も売れていたのはフルサイズピックアップトラックの「F-150」や、大型3列シートSUVの「エクスペディション」だった。売れれば売れるほど会社は儲かるが、燃費は悪い。つまり、「大ヒット車の燃費を劇的に改善しなければ、売れば売るほどCAFEの平均値が下がり、罰金で破産する」という最悪のジレンマに陥っていたのだ。

 会社を救うためには、これからモデルチェンジを迎えるエクスプローラーの燃費を「先代のV6モデルから一気に30%以上向上させる」しかなかった。だがハイブリッド(HV)やディーゼルを開発する資金も時間もない。残された唯一の生存ルートが、排気量を極限まで小さくし、ターボでパワーを補う小型ガソリンエンジン――すなわち「EcoBoost(エコブースト)」の開発だった。

▲搭載される2リッター直4エコブーストエンジンは、243ps/5500rpmの最高出力と37.3kg-m/3000rpmの最大トルクを発生させる。

▲ダウンサイジングとはいえ、旧V6モデル以上の力を発揮するわけだから、悪いはずはない。あえて直4を選ぶ方が多かったというのにも頷ける。

▲直4エコブースト搭載モデルは日本の道路事情においても全く過不足なく走り、多くのファンを満たした。

 開発チームに課されたハードルは極めて高かった。チーフエンジニアのジム・ホランドをはじめとするチームが出した結論は、アメ車の伝統を真っ向から否定することだった。

1・ラダーフレームの脱却と軽量化

 重く、燃費が悪く、乗り心地がトラックの域を出ないハシゴ型フレームを廃止。フォードの大型セダン(トーラス)などと共通の「D4プラットフォーム(モノコックボディ)」を採用した。これにより、劇的な軽量化と、高級セダンのような静粛性を獲得する。

2・「テレイン・マネジメント・システム」による悪路走破性の確保

 重く複雑な機械式4WDギア(副変速機)を廃止する代わりに、4WDモデルには路面状況(雪、泥、砂、舗装路)に応じてダイヤル一つで車両の電子制御を最適化するシステムを新開発。ソフトウェアの力でランドローバー並みの悪路走破性を実現してみせた。

3・ダウンサイジング「2.0L EcoBoostターボ」の真価

 レンジローバーを彷彿とさせる洗練されたデザインと広大な3列シート空間を備え、2010年末に新型エクスプローラー(3.5L V6モデル)が先行発売された。そして翌2011年、本命である前輪駆動(FF)+「2.0L直列4気筒EcoBoostターボ」搭載モデルが満を持して追加投入される。

 今でこそ大柄なSUVに4気筒ターボは珍しくないが、当時、2トン近い巨体のアメ車に4気筒を載せるなど、正気の沙汰ではないと思われていた。全米のディーラーからも「そんな非力なクルマ、誰も試乗すらしてくれない」「V8のドロドロ音がしないアメ車なんて売れるわけがない」と猛反発が巻き起こった。

 そこでフォード本社は、全米のディーラーをサーキットに集め、「従来のV6モデル」と「新型2.0Lエコブーストモデル」を目隠しで試乗させる乗り比べ会を敢行する。試乗後、多くのセールスマンが「こっちのパワフルな方がV6だろ?」と指差したのは、実は2.0Lエコブーストだった。エンジニアたちの執念が、現場のプロの偏見を実力でねじ伏せた瞬間だった。

 直噴技術とターボチャージャー、独立可変バルブタイミングを備えたこの小さな4気筒は、わずか3,000rpmという実用域で366Nmという3.5L〜4.0Lクラスの太いトルクを発揮。従来のV8モデル比で約30%以上の燃費向上を達成し、「排気量(リッター)こそが正義」だったアメ車の価値観を「効率(テクノロジー)」へと塗り替えたのである。

▲洗練された各部のフィーリングと先進的な液晶メーター等がエクプローラーの真骨頂だった。

▲樹脂を使用したインテリアで、華飾は少ないが、質感の出し方が上手く、時が経ち中古車になっても鮮度が落ちていない。

▲6段ATのシフトの動作感は極めて優れている。変速もスムーズで、エコブーストエンジンとのマッチングも絶妙。こういった機能部分の洗練もこの型の特徴だった。

 蓋を開けてみれば、2011年型エクスプローラーは、アメリカ本国で前年比を大きく上回る大ヒットを記録。「ノースアメリカン・トラック・オブ・ザ・イヤー」を受賞し、フォードの復活を強烈に印象付けた。

 そしてこの変革は、日本市場においても「奇跡」を起こす。それまで「アメ車は排気量が大きくて税金が高く、燃費が悪いから維持できない」と敬遠していた日本の一般層が、この「2.0リッターのエクスプローラー」に飛びついたのだ。

 当時の日本の税制において、4.6L V8の自動車税(年88,000円)に対し、2.0Lエコブーストは「年39,500円」。さらにレギュラーガソリン仕様でリッター8〜10km/L近く走る経済性は、国産ミニバンやSUVからの乗り換え層を大量に引きつけるキラーカードとなった。

 2011年、フォードのエンジニアたちが「法律の壁」と向き合い、伝統を捨てる痛みを恐れず、未来のテクノロジーへと舵を切ったからこそ、エクスプローラーは今もなお、世界中で愛されるSUVの絶対王者として君臨し続けているのである。

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