更新日:2011.04.05
文/編集部 写真/クライスラー
V10という形式は、自動車エンジンの世界では馴染みのないものだった。理論上どうしても、他の形式ではありえない異常振動が起きて、クランク周りに深刻なダメージが出るからだった。
そんなエンジン設計の教科書を書き換えたのがトラック用の大型ディーゼルとF1だった。前者は振動を跳ね返す頑丈な造りで、後者は最新のコンピュータ・シミュレーション技術の進化で、それを克服した。
そして市販車の世界にもV10はやってきた。クライスラーが大型ピックアップのダッジ・ラムに搭載してきたのだ。“タフV10マグナム”と名づけられたそれは、それまでの最大ユニットだった5.9リッターの“マグナムV8”に2気筒を足した形で仕立てられた。だからバンク角は90°である。
V10は各気筒を等間隔で着火させるなら720度÷10=72度だから、バンク角は72°がセオリー。しかし近年の研究で、クランク設計を工夫すれば、回している状態では90°のほうが振動は少なくなるということが分かっており、F1のV10も90°近辺が多かった。
そんな理屈を裏切らず、クライスラーV10はバランサーシャフトの助けもないのにガサツな様子なく回る。ランボルギーニが改良に手を貸したというバイパー用の第2世代はさらに滑らかに、そして第3世代の8.3リッター版では言われなければV8あたりと間違えそうになるほどスムーズである。しかして第3世代8.3リッターV10の最高出力は510馬力(ラム用は500馬力)。世界のスーパースポーツ級の数字である。
ちなみに、この8.3リッターV10を載せたラムSRT10は最高速249km/hを記録して、04年に「世界一速いトラック」としてギネスブックに載った。だが2006年の5月にクライスラーはラムのV10搭載モデルの生産を終了。代わりにヘミV8を載せた仕様が最強版になった。
バイパーは08年、マクラーレン・パフォーマンス・テクノロジーの協力を得て8.4リッター、600馬力まで進化した。もちろん宿敵コルベットがZ06で勝負をかけてきたのを見ての対抗措置だろう。しかしこれによってバイパーの馬力荷重比は、Z06も、フェラーリをも超えて、FRスポーツ世界一になった。V10エンジンが、V8、V12エンジンを遂に打ち破ったのだ。
バイパーは、2010年をもって生産を終了したが、V10バイパーの逸話は決して終わらない。
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