更新日:2026.09.14
文/田中 享(Tanaka Susumu) 写真/ゼネラルモーターズ
シボレーコルベットの歴史において、「Z06」(ズィー・オー・シックス)とは単なる高性能グレードの名称ではない。アメリカの誇りと執念が紡いできた“伝説”そのものである。
その起源は1963年、2代目C2コルベットに遡る。当時、レースを愛した天才技術者ゾーラアーカスダントフが、サーキットを走る顧客のために用意した「競技用オプションパッケージ」のコード名、それが「Z06」の始まりだった。
当時は一般向けのカタログには載らない裏メニューであり、レースで勝つことだけを目的に作られた純粋なレーシング血統の証。
そんな伝説のコードが、本格的な独立グレードとして銀幕の表舞台に復活したのが5代目C5時である。
軽量なハードトップボディに、専用チューンされた5.7L V8「LS6」エンジン(最高出力405馬力)を搭載。チタン製マフラーや専用サスペンションで徹底的に軽量&シャープ化され、「アメ車は曲がらない」という偏見を覆すピュアスポーツとして復活を遂げた。
ル・マン24時間レースを戦うレーシングカー「C6.R」をベースに開発。心臓部には、市販コルベット史上最大となる7.0L V8自然吸気エンジン「LS7」(505馬力)を搭載。アルミ製フレームやカーボン素材を贅沢に使い、欧州の強豪を震撼させるサーキットウェポンへと進化した。
欧州スーパーカー勢の急激なパワーウォーズに対抗するため、この世代で初めてスーパーチャージャー(650馬力)を搭載。圧倒的なトルクと、限界を高めた空力パッケージにより、「FR(フロントエンジン・後輪駆動)レイアウトにおけるコルベットの究極形」を体現した。
C7までの経験を踏まえ、FRのままではこれ以上のパワーを路面に伝えきれない。そこで2020年代、コルベットは70年越しの悲願であったミッドシップ構造(MR)へと大変革を遂げる。
このC8型において、Z06の狙いはさらに研ぎ澄まされた。それは、「ポルシェやフェラーリをミッドシップの土俵で正面からねじ伏せること」
C7型で一度使ったスーパーチャージャーをあえて捨て、完全新設計の5.5L V8自然吸気(NA)エンジン(LT6)を搭載。F1やフェラーリと同じ「フラットプレーンクランク」を採用し、市販V8 NAエンジンとしては世界最高峰の670馬力を発生。8600回転という超高回転まで突き抜ける甲高いレーシングサウンドは、ドライバーの五感を極限まで刺激する「操る歓びの最高峰」として世界中を驚かせる。
そして、このZ06の上には、さらなる絶対王座として「ZR1(ズィー・アール・ワン)」が君臨する。
Z06が、C5型から一貫してレース技術のフィードバック、ハンドリング、官能的な音を追求したサーキットマシーンであるのに対し、ZR1はツインターボで武装し、1064馬力という異次元のパワーで世界をねじ伏せるハイパーカー。
高回転NAエンジンのリニアな楽しさを極めたZ06と、ワープするような暴力的なトルクと最高速375km/hを叩き出すZR1。シボレーはこの2枚看板を並べることで、欧州のサーキットマニアから数億円規模のハイパーカー乗りまで、あらゆる富裕層を全方位で迎え撃つ最強の布陣を完成させている。
これほどの超一級品の性能を持ちながら、欧州スーパーカーの「半額近い価格」で提供するという圧倒的な価値を実現している点も、極めてアメリカらしい反骨精神の表れと言える。
C5型での復活から一歩ずつ欧州の背中を追いかけ、アメリカの飽くなき挑戦の歴史を背負いつつ、常にその時代の最高技術を注ぎ込み、Z06は最強伝説を今なお更新し続けている。
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