更新日:2016.02.26
文/石山英次 写真/石山英次
アメ車が世界のクルマと対等に勝負しようとしたとき、旗色が悪くなるのが「小さくて軽いヤツ」だ。
しかし、60年代以来少しずつ研鑽を積んできた彼らは、PTクルーザーのような佳作小型車を造るまでに至った。PTは、格好ばかりに目を奪われがちだが、じつにまっとうなパッケージ設計がなされたクルマである。
しかし、小型車よりもっと不得手なジャンルがある。小型軽量スポーツカーである。このジャンルで世界のトップは、間違いなくマツダ ロードスターだった。当時4メートルの全長と1.1トン台の車重のボディをFRで走らせるというその素性は、アメリカのみならず欧州勢すら届かない高みだった。
しかし、そこに敢然と挑む。全長は4mを切るコンパクトさ。当然FR。そして車重は1.2トン台とされている。パワートレインは2.4直4+6MTだ。BMWもベンツもアルファもMGも敵わなかったロードスター。その王座をアメリカが崩せるかもしれない…。そんな期待が込められた1台がソルスティスだった。
ポンティアックは、1926年に設立された伝統のブランド。そのネーミングはミシガン州の町の名前に由来し、「ファイヤーバード」や「トランザム」を大ヒットさせるなどGMの中でもスポーティなブランドとして認知されてきた。
一時期は「フィエロ」なるミッドシップスポーツカーを作るなど迷走を見せるも、再びブランドイメージの向上と若返りを果たすべく模索し、ブランニューモデルの開発に取り組んだのである。
そんなポンティアックから2002年に1台のコンセプトカーが発表された。ボディサイズは3994×1819×1274ミリと意外にも小さく、車重も1297kgとかなり軽量。しかもFRシャシーを備えた本格的スポーツカーという成り立ち。
さらにそのコンセプトカーはオープンボディであったためか、瞬く間に全米中のクルマ好きを虜にしたという。
それから3年後、2006年モデルとして登場したポンティアック ソルスティスは、GMの新型プラットフォーム「カッパアーキテクチャー」を使用した本格ロードスターとしてデビューを果たしたのである。
この「カッパアーキテクチャー」とは、小型FRの新型プラットフォームであり、汎用が利くために安価な新型車が次々に生み出せるメリットを持つ。しかもその造りは本格的であり、コルベットと同じハイドロフォーミング製法のフレームボディ。やや古めかしさはあるものの、モノコックボディ以上の剛性確保が可能なのである。
ちなみに、ソルスティスだけでも「NA、ターボ、クーペ」といったバリエーションを持ち、また同じプラットフォームを使用した車両には「サターンスカイ」や当時提携していた「オペルGT」などがある。
ポンティアック ソルスティスは、2005年9月に2006年モデルとして正式デビューしたが、実はその5ヶ月前の4月に限定1000台のプレミアム販売が行われ、わずか41分で完売したという逸話を持つ。当時の小型スポーツカーの雄「マツダロードスター(MX-5)」の対抗馬として、一気にブレイクしたのである。
ポンティアック特有のデザインアイデンティティである2つの楕円が特徴のフロントグリルを持ち、運転席からリアにかけての造形や絶妙な車高バランス、そして四隅いっぱいに配置されたタイヤによってワイド&ローが一層強調される。その巧みなデザインはあのピニンファリーナによって描かれたものだった。
だからか、どんな新型車にも多少の野暮ったさを残すアメ車のデザインの中では驚くほど洗練されている。しかも恐ろしく目立つ。
さらに2万ドル前後の価格帯という大きなアドバンテージを有し、9月の正式発売開始以来、バックオーダーが2万件を越えるという爆発的な人気となったのである。
デビュー当時のポンティアック ソルスティスは、ロードスターのみであったが、そこに搭載されたエンジンは、DOHC直列4気筒の「Ecotec」であり排気量を2.4リッターに拡大し、縦置きに改めることで搭載を可能にした。
このエンジンは177ps/6600rpm、トルク22.9kg-m/4800rpmを発生させ5MT及び5ATを介して1297kgという車重をものともしない加速を実現させたのだ。
ちなみにこのロードスターのトップはソフトトップだっただが、それは価格高騰を防ぎ、さらに軽量化に対する意識の現れだったという。
●全長×全幅×全高:3994×1819×1274ミリ
●ホイールベース:2415ミリ
●車両重量:1297kg
●総排気量:2384cc
●エンジン:水冷直列4気筒DOHC「Ecotec」
●最高出力:177/6600(ps/rpm)
●最大トルク:22.9/4800(kg-m/rpm)
デビュー翌年にはターボモデルのバリーション追加が行われている。このポンティアックソルスティスGXPには、2リッターDOHC直列4気筒エンジンにインタクーラーターボが搭載され、260ps/5300rpm、トルク36kg-m/2500〜5250rpmを発生させ、ソルスティスの走りを一層強力なものにしたのである。
また2008年ニューヨークオートショーにおいてはクーペモデルを発表し、2009年からの発売を宣言したのである。
デザインは、クラシカルなロングノーズ・ショートデッキを基本としたファストバックスタイル。そしてコルベット同様のタルガトップ仕様(クーペといいながらタルガってアメ車らしい)。
さらにロードスター同様の前後重量配分50:50を継続実現し、エンジンはGPX同様のターボエンジン搭載で、当時のライバルと目されるポルシェボクスター、BMW Z3クーペ等の追撃を目論んだのである。
オープンボディのロードスターは、まるでミッドシップのようなスタイリングを実現し、クーペになるとアメリカ人好みのロングノーズに早変わり。まさしくピニンファリーナマジックと言わざるをえない。
だがしかし…、ポンティアックは2009年4月にGMのリストラ対策の一環として同ブランドの廃止が決定され、同年10月に84年の歴史に幕を閉じてしまった。
つまりクーペは、登場とともにブランド消滅という憂き目にあい、悲運のスポーツカーとして歴代ポンティアックの歴史の中に名を残すことになったのである。さらにソルスティスは、まるでミニコルベットのような走りを実現していたことを追記しておく。
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