正式名称はポンティアック・ファイアーバード・トランザム。マスタング、カマロに代表されるポニーカーのひとつであり、カマロ同様1967年にデビューした。以来基本コンポーネンツを共有する兄弟車として有名である。
ちなみにブランド名がポンティアック、モデル名がファイアーバードで、トランザムはグレード名となる。で、たとえばGTAとは、その上に位置する上級グレードの意味となる。
今回紹介する3世代目のファイアーバードは、90年型。当時は日本でも人気があり、ヤナセによる正規輸入も行われていた経緯もあってマーケットで流通するクルマが多かった。ちなみに、ラインナップはトランザムとトランザムGTAの2機種であり、前者が5リッターV8(215hp)、後者が5.7リッターV8(240hp)エンジンを搭載していた。
取材車は並行モデルの5リッターエンジン搭載車。だが、エンジンがGMパフォーマンスのZZ4エンジンに換装されており、興味深い。また当時のカマロと兄弟車だけあって共通のボディパーツが多いのが特徴であり、この個体に関して言えば走行距離12万9300キロということだが、ボディや足回りがフルノーマルなのが非常にいい(すなわち動体保存するにも、まずは消耗品を変えていけばいいわけだし、調子の見極めも楽になる)。
またデザイン的にも、マッスルというよりはエレガントにも見えるし、一見しただけでサードカマロよりワンランク上のクルマであることがわかる佇まい。スポーティだが、上品さも兼ね備えた大人のクーペという雰囲気がある。グリルレスデザインのため、ボンネットフードから外気を取り込む、今ではありえないデザインもかなり新鮮な存在だ。
久々にこの時代のトランザムに乗ったが、印象はまさしくサードカマロ。もちろん、ポンティアックとシボレーというディビジョンの違いはあるものの中身が同じだけあって、印象もほとんど同一。2台の違いといえば、トランザムの方がポンティアックブランドである分、装備品がひとクラス上、という程度だ。
換装された5.7リッターV8は、往年のV8エンジンらしく重低音サウンドを奏で非常に心地良く、そして軽く吹け上がる。すでに24年以上の歳月を経ているが、まだまだ「現役」を感じさせるコンディションに正直ビックリする。特にボディは「まだまだぜんぜんイケるでしょ」とウエストクラブ石川氏が語るように、体感的にも十分シッカリしている。
そしてクルマが動き出して感じたのは、なかなかいいサイズだということ。全長4865×全幅1880ミリは今となってはあまり大きく感じさせない。確かに昔はそれなりに思えたが、今日のように巨大なSUVが増えるとそうでもない。今となってはヨーロッパ車だけでなく、日本車もこれくらいのサイズは普通に街中を走っているし、曲がり角で気にするのはフロントノーズだけ。もともとドライバーはクルマのセンターに近い場所に座っているので、後方は意外に短く感じるし。
ダッシュボードが高く、ヒップポイントが低いというのも今となっては新鮮。現代のアメ車の中には、さすがにこういった趣のあるインテリアを有しているクルマがないだけに、余計に新鮮に感じる。アクセルを踏み込んでドーンと加速する感覚はまさにGTカーだ。忘れかけていたアメ車の魅力が久々に甦った瞬間でもあった。
こういった90年代の出物も、そろそろ旧車世代に片足を突っ込んだと言われても致し方ないだけの年輪を刻んでいる。ただ、本当の旧車ほど、まだ手間がかからない機械的信頼は得ているだけに、現代のアメ車にはない濃厚な魅力を感じてみたければ、早いうちに一度体験しておくといいかもしれない。どのみち、最新のアメ車は高くて買えないだろうし…笑。
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