更新日:2013.11.01
文/椙内洋輔 写真/ゼネラルモーターズ
ラグジュアリーSUVの起源はいつだったのか? 日本では一般的に1998年のレクサスRX300(日本名ハリアー)がその第一号と紹介されている。それまでラダーフレームだったSUVをパッセンジャーカーと同じモノコック構造でつくった最初のモデルだからだ。
だがそれは、定義のひとつでしかなく、ブランドと考えればその前年にリリースされたリンカーンナビゲーターがそれに当たる。これら2台のクルマが誕生したことで、ライバルたちが追随し「ラグジュアリーSUV」はひとつのカテゴリーにまで成長したのである。
では、ライバルたるキャデラックはリンカーンの動向を見ているだけだったのか?
じつはキャデラックもすでにその頃SUVの開発を進めていた。しかもおおよそのコンセプトは出来上がっていたものの、そのブームの流れがこれほどまでに早いとは予測できてはいなかった。先にデビューしたナビゲーターは爆発的に売れ、1997年においてはキャデラックの販売台数を上回ったほどである。
で、慌てたキャデラックが翌年市場導入したのが、1999年型初代エスカレードである。だが、コイツはGMCユーコンデナリの単なるバッジ違いであり、急いだがために作った急造マシンとしてスペシャリティに欠けるものだった。格子のグリルにリース&クレストは付くものの、オンリーワンといえるシロモノではまったくなかったのだ。
ただ、この初代はあくまでも場つなぎ。正真正銘のエスカレードは2000年に入ってから登場する。
2001年にリリースされた二代目エスカレードは見るからにキャデラックの一員とわかるスタイリングをしていた。当時のSTSやCTS、XLRがそうであるように、アート&サイエンスのコンセプトから造られた。インテリアもオリジナル性が高く、ふんだんに使われるウォールナットが高級感を漂わせる。
さらにた一時代を築いた「BVLGARI」のロゴが入ったアナログ時計は嬉しい副産物だった。90年代の豪華さを微妙に残すサジ加減が、この二代目モデルの最大の魅力である。
キャデラックはGM最高級のモデルを扱う部門である。当然それは大型サルーンばかりを扱ってきた(かつては)。
だがGMは20世紀末にエスカレードを世に送り出した。それは最高級サルーンと同じ地位にトラックが登ったことの証明である。と同時に、アメ車=SUVという時代の到来を意味している。だかこそ、当初のラグジュアリーは二代目エスカレードで事足りていた。
しかしX5やらカイエンやらの欧州製SUVがアメリカに大挙して押し寄せてきて、事情が変わった。高性能スポーティ車の技術で造られたそれらと対抗するためには、呑気にアメリカントラックのままの中身ではいられない。
こうして2007年にフルチェンジした三代目エスカレードは、中身を一気に洗練させてきた。
ボディ骨格から作り直し、サスペンション制御を最適化し(マグネティックライド)、そのコントロールはGMのスポーツカー・コルベットと同様のものを使用する。そしてエンジンまで一新。このボルテック6200と名づけられたL92型エンジンは、スモールブロック系V8シリーズの第4世代となる最新ユニットで、これまたコルベット用LS系エンジンと同じく軽量のアルミブロックを持つ。
しかしこちらは、LS系とは違って、迫力ではなく洗練をウリにする。回り方も、世間がイメージするようなドロドロという身震いを伴ったものではなく、レンジローバーに積まれたジャガーV8やセルシオV8もかくやの滑らかな感触を持つ。
また馬力の出方も、低速でドカンとパンチを効かすアメリカ式ではなく、じんわりトルクがにじみ出てきて、それが回すほどにきれいに伸びていく、上品で現代的なタイプ。排気量が6.2Lもあるからトルクは嫌でもあり余る。その余裕を、力感でなく品の良さの演出に使ったのである。
それだけでなくGMは、OHVでは世界初の可変バルタイを採用して、滑らかなトルク特性をさらに磨いてきた。
新型エスカレードは、インテリアをも刷新し後席の居住性も国際標準にするなどして、車体のほうも手を打っている。こうして洗練度を磨いたエスカレードは、独自の魅力を引っ提げ欧州勢を迎え撃ったのである。
こういった流れのなか誕生した四代目エスカレードは、基本的に三代目をベースに正常進化させたモデルである。ボディもサスペンションもミッションも基本的には三代目からのキャリーオーバー。だが、それぞれにおいて確実にパフォーマンスアップしていることは間違いない。
一方エンジンは、6.2リッターV8のままだが、これまでのボルテックではなくエコテック。このエンジンには、気筒休止システムや可変バルブタイミング、高度な燃焼システム等、最新技術で効率の良さをも求められている。それでも420hp、最大トルク460lb-ftを発生させる。
インテリアはさらに現代化され、新型CTS等と同じようなデザインテイストを踏襲し、なおかつ一層高級感が増している。さらに他のキャデラック同様に車体の安全装備が充実し、世界最高峰のラグジュアリーSUVとして君臨する。なお、現時点でノーマルボディとESVのみ発表されているが、後にハイブリッドモデルの登場が決まっている。
実物を見て乗って、どれだけ驚かせてくれるのか? 期待せずにはいられない。
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