更新日:2018.12.05
文/椙内洋輔 写真/小関一尚(Ozeki Kazunao)
アグレッシブなデザインで突っ走るヨーロッパ部門とは逆に、すっかり「昔の名前で出ています」路線を上手く取り入れ、それを見事商売につなげてしまった米フォード。完全に先祖返りしたマスタングもフォードGTもそうだった。
懐かしい&輝かしい名作がたくさんあるから、そのぶん復刻カバーバージョンも歓迎されるのだろう(ブロンコも出る)。
だがその裏には、新しい時代を掴むビジョンを持っていないという哀しい事情もあるのかもしれない。まあ、それならそれでおもいっきりレトロ路線に耽溺し、突き詰めてから「未来」に取り組むのもいいかもしれない。
そんな復刻版代表作の1台が、21世紀初頭のアメ車ファンを喜ばせたサンダーバード。これまで約50年、瀟洒な2シーターオープンあり、大きな4ドア観音開きあり、凡庸なクーペありと変身を重ねたあげく、やはり誕生当時のインパクトに勝るものはないと原点回帰したモデルである。
2灯式ライトこそ楕円になったが、全体のプロポーション、粗い格子のグリル、リアクォーターに切り抜かれた丸い窓など、誰が見ても「ザ・サンダーバード」そのもの。こういう姿形と雰囲気で、もちろん中身は当時のフォード(3.9リッターV8で5速AT)だから、気取ったパーソナルカーとしては最高だろう。
今となっては252psというパワーは、たいした数字に見えないが、そもそも最初からサンダーバードはコルベットと違ってスポーツカーではなく、気軽なお洒落グルマとして企画されたのだから十分。
発表当時、初代モデル時代にまだ貧しくて憧れるだけの若者だった熟年世代から、予想をはるかに上回る注文が殺到したというのも無理はない。
こういう歴史的な名作が復刻すること自体、クルマとしても名誉なこと。この先どんな名作が復刻するのか? ブロンコ? パンプキントラック?
スポーツカーのスタイリングは「いかにスピード感やパワフル感を醸し出すか」がテーマ。だからノーズは空気を切り裂くように尖り、プロフィールはくさび型になる。
一方でクロカンやSUVは、絶対的スピードでなく、荒地を走破するための、言わばアウトドアギアだ。つまり道具だから、道具としてのカタチが相応しい。そこで昔からこのジャンルのクルマたちは、各職種のプロが使うツールのように、シンプルで力強い格好にデザインされてきた。
道具に余計な飾りはいらない。シンプルで造り易い形状が一番。そういうカタチのほうが、見るからに信頼できる。それと同じようにクロカンやSUVは四角く無骨だった。
しかし、クロカンやSUVが荒地ではなく街中を闊歩する時代になるにつれ、デザインが変わってきた。もう道具としての印象は要らなくなった。
SUVのデザインの方向性は四方八方に散乱した。洋の東西を問わず、自動車デザインの世界に入り込んできたアニメ世代はモチーフをロボットに求めて、ガンダム風SUVを作った。スポーティカーを売りにするメーカーや高級車を擁するブランドは、それらのクルマたちの目印になったデザインを取り込んでSUVを作った。かつての道具っぽさは、今は昔だ。
だが、そういう状況を振り払うかのように、往年の雰囲気を持つSUVが03年のデトロイトショーに登場した。トヨタのFJクルーザーである。
そのデザインは60年代に登場した第3世代のランクルの格好の再現を狙ったもの。単純な箱のカタチの組み合わせで、それは構築されている。実は材料は鉄ばかりでなく、樹脂も多用しているのに、鉄板をプレスで簡単に折り曲げて作ったような箱型なのだ。
FJクルーザーは、単なるレトロではなく、そこから立ち上る印象や温度感まで、実に道具っぽかった昔のクロカンSUVを再現しようとしていたのである。この手法は、実は最新のジムニーなんかがそうであり、ジープラングラーにも通じるのである。
FJクルーザーのように「過去」をベースにしながらも、新しいカタチを作り上げようというデザインものもあれば、「過去」そのものをそのまま作り上げたものも存在する。アメ車においては、どちらもしっかりユーザーの心を捉えているのである。
NEWS & INFORMATION
CADILLAC / CHEVROLET RACE TRACK EXPERIENCE 公式HP
12,810円
PERFORMANCE
6DEGREES
17,298円
PERFORMANCE
6DEGREES
18,420円
PERFORMANCE
6DEGREES
2,090円
MAINTENANCE
6DEGREES