更新日:2015.12.02
文/椙内洋輔 写真/クライスラー
バイパーの企画が立ち上がったのは1998年のことである。創案者はボブ ルッツ。70年代初頭にBMWで、彼らの今に至る礎を築き、欧州GMや欧州フォードの製品担当重役を歴任したこの「自動車好きの心を知り尽くしたカーガイ」が、そのときクライスラーで采配を振るっていたのだ。
想い起こせば80年代後半のクライスラーは、リー アイアコッカの指揮の下、倒産寸前から立ち直って大攻勢に転じた時期だった。ジープ擁するAMCをルノーから買収。返す刀でランボルギーニを取得し、当たるべからざる勢いにあった。そして自社でも、アメリカ市場にストレートにアピールする企画として、バイパー・プロジェクトが立ち上がったのである(外部からはキャロル・シェルビー氏がアドバイザーとして加わったという)。
そのテーマは単純明快「現代版コブラ」。要するに、常軌を逸した大馬力ユニットを、長いノーズに積む2座FRオープンということだ。この基本コンセプトに基づき、社内デザイナーのトム ゲイルは、あの煽情的なボディを造形した。
また、もうひとつの核となるパワーユニットには、ダッジ ラムトラックに載せられていたV10が選ばれた。といっても、そのままポン載せでは世間がシラケることをアイアコッカもルッツも分かっていた。そこで彼らは開発ををランボルギーニに委託。折からV10ミドの新型車を模索中だったランボは、ラムV10に徹底的に手を入れた。鋳鉄だったブロックをアルミ製に置き換えることまでしたのである。
こうして91年に初代ダッジ バイパーは完成した。RT/10という名のもと、オープンボディのみ、という初期のテーマ通りの産物だった。当初このオープンボディに搭載されたエンジンは、8リッターV10で、400hpを発生させた。後に加わったクーぺモデルのGTS(96年から登場)には450hpまでスープアップされたV10が搭載されることになる。
また、GTSはGTS-Rというレーシングカーのベースにもなり、ル・マン24時間はじめとするレースに出場し、優勝するなどの大活躍を見せたのである。
余談だが、この時代のバイパーはクライスラー ブランドで日本にも正規輸入されていた。
バイパーは2003年にフルモデルチェンジを実施。いわゆる第二世代である。SRT10という名称のもと、エンジンは8.3リッターにボアアップされ、最高出力は510hpに向上した。
またエクステリアも一新。うねるような初代のフォルムを踏襲しつつ、シャープで洗練されたスタイリングが与えられたのだ。恐らく、われわれが一番馴染みある形がこの2代目以降ではないだろうか。この2代目のデザイナーは、当時クライスラーに在籍していた鹿戸治であるという。
前述したが、グレード名称が変更されたのもこの時で、PVO(Performance Vehicle Operations:クライスラーの高性能モデル開発部門)の他のハイパフォーマンスモデルに習い「SRT10」という名に改められたのである。
これ以降、大幅な改良が加えられなかったバイパーだが、ついに2008年、一部改良に乗り出した。特に自慢のV10エンジンは、マクラーレン・パフォーマンス・テクノロジーとリカルド社の協力により、8.4リッターにまでスープアップ。可変バルブ機構の追加とも相まって、最高出力は600hpに達している。
重かったクラッチ操作の負担軽減や、外装色の追加なども実施。スペシャリティカーとしての一面にも一層磨きをかけたのだ。
また、サーキット走行を意識した「ACR(American Club Racer)」と呼ばれるスパルタンな仕様も登場。世界のスーパーカーがしのぎを削るドイツ・ニュルブルクリンクにおいて、7分12秒13という市販車最速のタイムをたたき出した。さらにワンメイクレース用の「ACR-X」も登場。640hpのハイパワーと、標準車から73kgもの軽量化を実現している。
これらの改良は、宿敵コルベットがZ06やZR1の登場で勝負をかけてきたのを見ての対抗措置だろうと言われている。しかしこれによってバイパーの馬力荷重比は、Z06も、フェラーリをも超えて、一気にFRスポーツ世界一になった。V10エンジンが、V8、V12エンジンを遂に打ち破ったのである。
バイパーは、2010年をもって生産を終了したが、2013年、新たなるV10バイパー第二幕を公開。だが、予想に反して苦難の連続というのは意外な結末だった。
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