更新日:2011.07.11
文/編集部 写真/フォード
フォードGTは、中身のエンジニアリングに視点を移せば、往年のGT40のそれとは少し違っていることに気づくだろう。
まず車体構造は、かつてGT40が欧州を瞠目させた鋼板溶接製ではなく、アルミ押し出し材によるフレーム構造である。素材も構造も対照的なのだ。
その一方で、合い通じる箇所もある。GT40の車体サイドシルは大断面で、そこで剛性を大きく負担しつつ、中に燃料タンクを仕込むという合理的なレイアウトをとっていた。かたやGTのほうは厳しい側突規制のためもあってその配置を採れず、代わりにキャビンを前後に貫く大断面トンネルを設けて、その内部を燃タンとした。
GTのエンジンは5.4リッターV8が充てられ、そこに機械式スーパーチャージャーの過給を施してスーパーカーに相応しい大出力550hpを確保するという手法が採られた。これは一見、7リッターV8を看板にしていたGT40とは異なる行き方に思えるが、実はGT40の初年度マシンは4.7 V8を積んでいたのだ。
そういったもろもろよりも違いが大きいのは実は車体寸法だ。GT40は、V6を積むフェラーリの小型ミド246gtよりも短い2413mmというホイールベースを持っていた。これに対して新GTは30cm近く長い2710mm。
こうなった原因は恐らく、オリジナルGT40のプロポーションを再現しようとしたためだろう。GT40は、キャビンフォワードした現代のミドに比べるとノーズ部分が結構長く見える。その後ろに小さなキャビンが続く格好だ。キャビンが小さいと、ただでさえ狭苦しいミドは、さらに居住性が劣るが、そこはレーシングカー。安楽要件は脇に置かれたのだろう。GT40はガルウイング式ドアを持つが、それはキャビンが狭くて乗り降りが難しくなったためでもあったのだ。
ところがこれを現代のロードカーで再現するのは難しい。キャビンが狭くては商品としてうまくない。といってプロポーションを崩しては再現版としての意味がなくなる。
そこで開発陣が採った解決法は、全体を大きく引き伸ばすことだった。それゆえのホイールベース2710mmなのである。そして、これに伴って全長は4.2mから4.6mへと大幅に伸ばされた。全幅も同様。そして念が入ったことに、新GTの4輪が描くタテヨコ比率は、GT40のそれとそっくり同じ1.68に揃えられた。
つまりホイールベース延長に合わせてトレッドも拡幅されたわけだ。この比率はクルマの操縦性を左右する基本ファクターになる。新GTの開発陣は、ただ見た目だけでなく、機動時の基本素養もまたオリジナルに倣ったのである。
ちなみにGT40は、最高速が300km/hを超えるル・マンなどでリフトを起こして、それが初期の苦戦の原因となったのだが、オリジナルのシェイプに倣った新GTも、当然ながら同じポイントで苦労することになったという。しかし、大げさなウイングやスポイラーの追加はせっかく再現したアピアランスを壊す。そこで空力担当者はボディ下面でその解決を図った。リアの大型デフューザーは、そのひとつの結果である。
そんな苦労をした新GTの開発陣は、基本的にアメリカ本社のスタッフだった。またアルミ製フレームから始まって強化コンロッドまで供給されるスペシャルパーツの供給元も大半がアメリカの会社だったという。
かたやGT40のときは、技術責任者こそ米フォードの人間だったが、開発現場は英国に置かれ。スタッフも英国人が多かった。ただし、それは原初設計の際の話で、レースの修羅場に身を移して苦戦したGT40が翌年から順調に勝利を得るようになっていった陰には、キャロル・シェルビーを筆頭とするアメリカ人の手練れレース屋たちがいた。彼らの貢献が少なくなかったのである。
これに対して新GTもまた、クルマづくりの勘所を知り尽くした男たちが実験開発をバックアップした。その総元締めには、当時のフォード車ににハンドリング革命を起こして製品の面目を一新させたリチャード・パリー・ジョーンズ副社長がおり、また現場にはレースで修羅場をくぐったベテランテスター、ニール・ハンネンマンがいた。彼らによってフォードGTは、実際に走ってもフェラーリに負けない実力を備えるに至ったのである。
フォードGTは、発表と同時に、アメリカと英国を中心に大きな話題を呼び、限定4500台のところに倍以上のオーダーが集まって、デリバリー前からとんでもないプレミアムがついた。その理由は、彼らがこのクルマの歴史上の意味を知り尽くしていたからに他ならない。
我が世の春を謳うフェラーリに対するそれは、アメリカと英国のプライドの象徴だったのである。
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