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ECU全盛の時代だからこその車両盗難被害が続出

現代車両の盗難防止とその予防について

現代アメ車のECUやCAN通信のプロにあえて聞いてみた

現代アメ車のECUやCAN通信のプロに盗難防止とその方法について取材してみました。

更新日:2021.11.06

文/石山英次 写真/古閑章郎

取材協力/クワッドドライブ TEL 048-281-5853 [ホームページ] [詳細情報]

CAN通信を乗っ取る最新の手法

 先日、読者の方から問い合わせをいただいた。内容は車両盗難に関するもので、「盗難防止用のアフターパーツを装着すれば、盗難は防げるのでしょうか」というものだった。

 恐らくここ最近、車両が盗まれるシーンがかなりの数テレビで放送されてきたから(筆者も何度も見た)、そういったものに対する恐怖心によって愛車への防衛反応が高まっているということなのだろう。

 その問い合わせに関しては、明確な答えを提示することはできなかったのだが、個人的な興味もあり調べてみた。

 が、なんと「CANインベーダー」と呼ばれる新たな手口が広まっており、しかも対処法がないとまで言われているその手口に驚いた。「車両盗難ってここまで進化しているのか」と(その手法で盗まれるシーンをテレビで見た)。

 要するに、CANインベーダーとは、直接CAN通信に入り込み車両を動かしてしまう手口であり、「CANに入り込まれたらそりゃ無理だろ」と素人の筆者でもわかる。しかも鍵もいらないわけだから「盗み放題じゃん」と。

▲CANインベーダーと呼ばれる最新の手法なら、CAN通信を乗っ取ってしまうためキーがなくても動かすことが可能になってしまう。(写真はイメージ)

セキュリティでも対応できない最新手法

 で、さらに興味がわき、現代アメ車のECU及びCAN通信に関してのプロに改めて盗難防止と予防について聞いてみた。クワッドドライブの林氏である。

 「まずは、ECUと呼ばれる車載コンピューターがあり、例えば2021年車ともなれば、そのECUが欧州車を含めると100以上もある車両があるほどで、そのECU同士をつなぐ車載ネットワークをCAN(controller area network)と言います。

 複数のECUを、仮に個別にワイヤーハーネスで繋げば、それだけで膨大な量のハーネスやコネクターが必要になり、それらが重量増にもつながり、もしくは配線不良と言ったトラブルを生み出すこともあります。が、CANによってそうした複数搭載されるECUの通信のスリム化を行っているのです。

 ですので、CANインベーダーとは、そうしたECU同士の通信に入り込み車両を乗っ取ってしまうことですから、鍵がなくとも自由に動かせてしまいますし、防ぎようがないと言われているのです」

 例えば、セキュリティを装着するとか、防御の姿勢を取ることは可能なのでしょうか?

 「まずは2010年以降のアメ車という前提でお話ししますが(ECUの制御が複雑化してきている年代のが2010年以降だから)、アフターマッケットのセキュリティをCANインターフェースを使用し純正リモコンでセキュリティを作動させるシステムの場合、CANインベーダーには対応不可能です。どんなセキュリティを装着しても車内コンピューターの通信に入り込んでしまうわけですから、セキュリティですら止められてしまうという理屈です。

 アフターのセキュリティに関してですが、どこのどのパーツという話ではなく一般論として、2010年以降ともなれば、車載に搭載されているECUのネットワークにアフターのセキュリティシステムを入れなければなりません。ですので、まずは正しいECUに関する知識とアメ車の場合であれば、車両メーカーごとに電子デバイスを使用して、正しく装着しないといけないという前提があります。

 その上で、ネットワークにセキュリティを認識させたわけですから、セキュリティはECUと同期していると考えるのが普通ですので、CANインベーダーによってECUの通信の中に入り込まれ乗っ取られた時点でセキュリティも乗っ取られているのと同じであり効果はないと考えられるのです。

 ちなみに、セキュリティをECUに認識させずに、別の独立した回路を組み、旧時代のようなアナログ的なシステムで装着するということも、理論的には可能です。そうすれば、ECUが乗っ取られてもセキュリティは単独で生きているわけですから性能を発揮することも可能になります。

 が、そもそもECUに認識させずに別の独立したシステムを組むこと自体にリスクがあり(高年式は一般的には行いません)、別のトラブルを生み出す可能性が非常に高いですので、あくまで理論上は可能というだけで現実的には難しいという判断ですから、セキュリティで対応することは難しいのです。

 あと、canインベーダーは、車高の高い車が狙われる可能性が高いです=canに入り込むためのハーネスに触りやすいという理由です。要はフェンダーの中に手を入れやすいとか車の下に潜りやすいとか、そういったことも想像できます。

 一方、車高の低い車はそういうもろもろのスペースが少ないから逆にやりにくいという理屈も成り立ちます。ですが欧州車なんかは、ヘッドライトにもCANが使われている車両がありますから、そういうところからも狙われたりしますね」

▲現状、狙われたら手立てがないと言われる最新手法に対しては、セキュリティのみならず複数の対応策で「時間がかかりそう」と思わせることが必要と、厳しい表情で語る。

 ということは、対策法ってないということでしょうか?

 「これと言った明確な対応というよりは、プラスプラスの状況を作り、「時間がかかりそうだな」と窃盗団に思わせる状況を作ることが必要だと思います。例えば、ステアリングロックやタイヤロックも単体では万全とは言えませんが、それらを重ね、上増しの状態を作り上げる。それにアフターのセキュリティをプラスすれば、相手も一つ一つに対応しなければならず、「諦める」可能性が高まります。あとは、車両保険に入って盗難でも保険が下りるようにしておくのも手です」

 話を聞いて、流石だなと思ったのは、何を聞いてもすぐに答えが返ってくること。常に勉強しているということでもあるのだろうけど、あらゆることに関して最新の状況を認識しているのはすごい。

 だが、そういう方からして最大の対策法が明確ではないという現代の車両盗難とは…、なんとも酷い犯罪である。

 ちなみに、国の対策を見てみたが、「自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム」というのが発足されており、「STOP THE 自動車盗難」というサイトが運営されていた。

>> STOP THE 自動車盗難

 だが、CANインベーダーにはまだ触れられておらず、だった。しかも、そこで紹介されている盗難対策が以下の通り。

■確実な施錠:短時間でも車から離れるときは、完全に窓を閉め、キーを抜いてハンドルロックとドアロックを施しましょう。
■イモビライザーの装着:盗難被害に遭わないためにも自動車にイモビライザーを装着しましょう。
■盗難防止機器の活用:センサーが衝撃・振動・音等の異常を感知し警報音を発する警報装置、ハンドル固定器具、タイヤのホイールロック、GPS追跡装置等の盗難防止機器を活用しましょう。
■防犯設備が充実した駐車場を利用:見通しがよく、防犯カメラや照明等の防犯設備が充実し、管理された駐車場を利用しましょう。
■貴重品は車内に放置しない:車内に現金、カード類やカバン等の貴重品を置いたままにすると犯罪を誘発します。車から離れるときは、必ず持ち出しましょう。
■自動車部品への盗難防止対策:ナンバープレートやタイヤ、ホイールなどの部品ねらいに注意が必要です。盗難防止ネジなどでしっかり固定するなどして対策をしましょう。

 イモビって…(笑)。一体いつの話をしてんだか、と思いきや、10月1日から盗難防止キャンペーンが行われていたから、ちゃんと運営されているサイトではあった…。

自動車盗難防止キャンペーンのキャラクターを務める若手落語家の林家けい木さんが啓発動画に出演されております。


 また、ネット上の情報だが、「盗難とは需要と供給があってこそ。だからアメ車においては今はまだその限りではない」というような情報を見たが、確かに現状最も盗まれる可能性の高い車両は、レクサス系を含めたトヨタ車であると言われているが、だが、そうした流れがいつアメ車に向かうかはわからない。

 そうした諸々の状況や対策の処置の少なさを鑑みると、車両盗難に関してはまずは自助努力が必要になると思われるから、対策云々の前に、オーナーの意識だけでも変える必要がありそうだ。

▲車両盗難に関しては、まずは自分の意識改革を行うことが必要になる。

年々複雑化しているアメ車のレベルアップに対応できないショップもチラホラ

 さて、クワッドドライブの最新情報だが、やはり2021年アップの車両の依頼が確実に増えているという。上記した通り、搭載される車載コンピューターの数が比べものにならいほど多いから、何か異常が起きた時に「これ」といった完璧な修理ポイントを見つけるのが非常に難しい。

 さすがに修理専門のクワッドドライブではそういった状況把握を常に行っているから、2021年とはいえ、当たり前の通常作業で対応できるのだが、そうではない販売店ではこれまでのようにはいかないようだ。

 実際、そういった修理依頼が増えているということ、さらにそうした依頼の中心が業者関連であるということからもその様子がうかがえる。裏を返せば、クワッドドライブがあるから安心とも言えるのだが、年々複雑化している車両に対して、販売店もレベルアップが求められているということである。

▲最新のアメ車を扱うにはショップのレベルアップが必須。買う側はそうした状況を認識すべし。

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