今なお感動させる素敵なデザイン

クライスラー300C (CHRYSLER 300C)

もう二度と出ない出色のアメリカンセダン

一時代を築いたアメ車の4ドアセダン、クライスラー300に改めて乗ってみた。時が経って見た素の300は、円熟味を増して一段と素敵だった。

新時代の幕開けを示した存在

　2005年に登場した初代クライスラー300は、そのクラシカルなキャラクターとマッスルカー的な爆発力を兼ね備えた理想のスーパーセダンとして注目された。

　アメ車特有のボックス的なスタイルを基本とし、ウエストラインよりも上部を切り詰めたチョップドルーフ的なプロポーションがクライスラーのデザイン的技量を示し、「重厚かつワイルド」なアメ車をモロに具現化した1台だった。

　「アメ車史」というものがあるかどうかはわからないが、この300が登場した2005年前後はアメ車の歴史が明らかに変わった瞬間である。

　ちなみに、現行の最新300は通算3代目となり、2代目は初代のワイルドさをなくし優雅さへとモデルチェンジし、3代目は初代のワイルドさと2代目の優雅さを足して2で割ったようなデザインへと進化している。

　さらに余談だが、初代300をベースにしたカスタムカーの派手さ、ワイルドさ、カッコ良さといったら、それは見事なものだった。

　当時搭載されたエンジンは、3.5リッターV6、5.7リッターV8HEMI、そして6.1リッターV8HEMIの3種類。中でも印象的だったのが5.7リッターで、低回転から湧き出るような大トルク感がウリであり、6000回転近くまで引っ張ればまるでアメリカンV8のビート感で室内が満たされる。

プチ・ベントレー的なワイルドさがウケ、路上の帝王として爆発的な人気を誇った。

ウエストラインよりも上部を切り詰めたチョップドルーフ的なプロポーションが特徴。

驚愕の走行性能は健在

　HEMIヘッドOHVエンジンが発生させる340ps、最大トルク53.8kg-mのパワーは圧倒的であり、その音色と言ったら紛れもないアメ車である。分厚いトルクとATとのマッチングも良好で、望むだけのパワーが瞬時に得られるような印象であった。さらにステアリングとブレーキが格段にシッカリしているからどこでも速い。直線もコーナーも何事もなかったようにクリアしてしまう。

　デビュー当時、ベンツのベースを使ったモデルとして、巌のごとき走行性能をもってわれわれを驚愕させた。極めて硬質に引き締められたボディとアシ、そして豪快なエンジンパワーで高速域まで走らせる300は、凡庸なスーパーカーやスポーツカーを凌駕して、新しい路上の帝王として一気に名乗りを上げたのである。

搭載されるエンジンは、5.7リッターV8HEMI。340hpに5速ATが組み合わされる。

2006年型の新車並行車ということで左ハンドル仕様となっている。この時代のディーラー車には右ハンドル仕様もあった。

メーターの質感もいいし、吹け上がりの良さやサウンドに感嘆する。

時が経って見た素顔の300は、円熟味を増して一段と魅力的だった。

ザ・アメ車を体現する迫力あるデザイン

　試乗させてもらった300Cは、2006年型で約6万3000キロ走行車。クールバニラのボディカラーにフルノーマルが自慢の1台。

　登場して以来、300Cには何度も乗ったが、乗ればいつも「凄い」と思うことがいっぱいだった。特にひと昔前までのようなボディのチリに関する甘さは微塵もなく、乗り込んだ感触もドイツ車のごとく堅牢であり、直線的なインパネやATシフトの剛性感にも驚かされる。今回改めて中古車に触れてみて、その当時の感触がまだまだ残っていることが発見できたのである。

　シートの座り心地はかなり硬く、ステアリング操作や各種ペダルフィーリングにも同じく硬質感が漂っている。走り出せば、ボディはかなりシッカリしており、足回りは当たりの強さというか角が取れてまろやかになったというか、程よく引き締まった印象であり、普通に走っている分にはなんら不満は感じさせない。

　「もう昔のアメ車じゃない」。それまでのプラスチック然としたアメ車の安っぽさはほとんどなくなり、質感および性能が格段に上がった時代。その先頭を突っ走っていたのが300であり、今に続くチャージャー等へと導かれるわけである。

　300の中古車を前に、改めてこのデザイン的な魅力に圧倒される。「もう二度と出ないだろう」。300には、「アメリカ」が詰まっている。そのデザインにはひと目見て人を圧倒する迫力が備わっている。昔のデザインを焼き直したリメイクではない。過去の伝統は引き継ぐものの、新たに起こしたオリジナルである。

　そこには、「クルマなんてどれも同じだろうから燃費優先で」などというシラケた心を吹き飛ばすエネルギーがある。時が経って見た素顔の300は、円熟味を増して一段と魅力的だった。

人気カラーのクールバニラ。ホイールまでノーマルである。

アメ車のソファー感覚のシートとは異なる硬質な感触。左ハンドル仕様は、ペダル位置にも違和感がない。

元がシッカリしているせいか、中古車となってもその味わいは目減りしない。まだまだ十分に300を楽しむことが可能である。