2000年前後から始まったアメ車バブルの時代。その頃登場したアメ車には、今では想像もつかないほど手の込んだデザインや技法が取り入れられ、さらにはデザイン的にも、魅力云々はさておき、とにかく頑張っていた車両が多かった。
今の時代とは比較にならないほど矢継ぎ早に「新型車」が登場していたのが何よりの証拠である。
そしてそのバブルは2005年前後のC6コルベット、2010年の5thカマロ、2015チャレンジャーヘルキャット、そして2020年のC8コルベットへと繋がっていく。
さて、そんな輝かしい時代に誕生した一台がシボレーSSR。このクルマ、今見れば「よく発売されたな」と思ってしまうほど斬新かつ凝った作り。今の時代じゃ絶対に生まれない。パっと見、子供が描いた理想のピックアップ的な、もしくは漫画や映画に出ていたコンセプトカーのような風情だが、それがたまらなくいい。
このシボレーSSRは、コンセプトモデルとして2000年に登場。2003年にインディ500ペースカーとしてデビューする。その後正式発売に至り、爆発的な人気とはいかずもそれなりに売れた。SSRは2003年から2006年の4年間製造されたのである。
このSSRの最大の特徴は、トラックでありながらもオープンキャビンを持ち、そのルーフが電動で開閉すること。つまり、電動開閉式のメタルトップを装備した2シーターピックアップとなる(ボタン式で25秒で開閉可能)。
だがしかし、誤解してならないのは、このクルマのベースがトラックであるということ。すなわちスポーツカーとピックアップを足して二で割ったアメ車でしか成立しない唯一無二の存在である。
2003年にデビューしたSSRは、当初タホ、サバーバンでお馴染みの5.3リッターボルテックV8エンジンを搭載し、300hpを発生させたパワーを4速ATを介してFR駆動していた。
だが、2005年からはC6コルベットと同様の6リッターLS2V8エンジンに換装し、一気に390hpを発生させるに至った。しかもこの年から4ATだけでなく6MTをも搭載し、スポーツカーさながらのドライビングが可能になったのである。
ボディサイズは4862×1996×1631ミリで、ホイールベースが2946ミリ。フルサイズというよりは若干小さいミディアムサイズ。そして足回りがフロントがダブルAアームでリアがマルチリンク、タイヤは前後異形サイズとなりフロントが19、リア20インチを装着している。
で、取材したSSRは2005年。すなわちC6コルベットと同様のエンジンを搭載したモデル。
ただし、足回りは若干ローダウンされ、K&Nのエアクリーナーとフローマスターのマフラーチップが装備されている程度のライトなチューンは施されている。
早速試乗したが、今の時代の最新ATではない、旧時代のオーソドックスな4速ATと6リッターV8エンジンとの組み合わせは最高だな!と思わずつぶやいてしまうほど、アメ車感が強く、面白い。
で、ちょっとばかりローダウンされていることと相まって、一般走行速度程度だとほとんどノーロールでコーナリングし、腰高な印象はまったくない。
しかも、年々大きくなっているアメ車全般のサイズ感に逆行して、ボディの基本サイズが非常に小ぶりなこと、どちらかといえばフェンダーサイズが大きからサイズ寸法が大きくなっているわけであり、実質フェンダー以外のボディサイズ感はトヨタボクシー程度と変わらない。
だから、アクセルとちょっと踏んでV8サウンドを轟かせ、しかも一昔前の4速ATであることもあって燃費は悪いが、低速トルクを生かした熱い走りが思いっきり楽しめる。
一旦止まりルーフを開ける。車内にロック機構はなく、ブレーキを踏みボタンを押せば、ルーフが全自動で開閉する。その動きたるや感動もの。「めちゃめちゃお金かかっとるな」と感心するし、今の時代じゃ決して登場しない理由もここにある。いわゆる全天候型オープンカー故のコスト高。
座席後ろには風の巻き込み用のウインドリフレクターも装備されているし、オープン対策もなされている。とはいえ、フルオープンのマスタングあたりと比較すれば、オープン露出している部分は少ない。どちらかというと、タルガっぽくもあり、デザイン的にはチョップドルーフと呼ばれる類のもの。
それでも実際に街中を走れば、ご機嫌なV8サウンドと心地よいオープンドライビングが満喫できるから満足度は高いし、いわゆる唯一無二の存在であるからこそよく目立つ。
それでいて使用されているパーツはほぼシボレーブランド共用パーツであるのだから(ルーフ自体の機構はキャデラックXLRのもの)、この先20年乗ってもメンテナンスやパーツ供給にも不安を感じる必要はないのである。
空力などまったく考えもせず、まるでフリーハンドで描かれたような存在。こんなアメ車はもう二度と生まれないはず。そういう意味でも、こういった程度良好な中古車があるうちに是非一度乗って欲しいと本気で思うのである。
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