更新日:2019.03.04
文/椙内洋輔 写真/古閑章郎
C6コルベットの中でも強烈な存在として認識されているZ06は、2005年に登場している。コルベットの頂点にふさわしい数多くのテクノロジーで満たされているそれは、まさにGM渾身の力作だった。
搭載されるプッシュロッドV8(LS7)の排気量は、6リッターから7リッターへと、1リッターもの排気量拡大がなされている。1Gを越える旋回、減速時でもオイルが偏らないドライサンプ潤滑システム、チタンコンロッド&インテークバルブなど、ルマンでクラス優勝したC6-R譲りのレーシングテクノロジーが注入されていた。
そして最高出力はノーマルの404psから511ps、最大トルクは55.6kg‐mから64.9kg‐mにアップ。アップといってもスーパーチャージャーは使わずに排気量アップとメカニカルチューンで達成されている。
もともと1500kgジャストと軽かった車重は、コンポジットボディパネル、アルミニウム製フレーム構造、マグネシウム製エンジンクレードル、カーボン製のボディパーツなど、徹底的な軽量化の追求によって1440kgにまでダイエットしている。その一方で、脱着式だったルーフを固定とし、剛性アップも抜かりない。
ちなみに余談だが、このLS7のV8エンジンは当時の911ターボを完全に上回り、あのエンツォ・フェラーリに迫るパワーだった。にもかかわらずLS7はOHVだ。欧州でも日本でも死滅した、古式ゆかしいメカニズム。だがそれがZ06の驚異の走りの一端を担っている。
OHVはヘッド周りが小さく納まってくれる。馬鹿デカいDOHC4バルブ・ヘッドを見慣れた目には感動的にコンパクト。それは当代きっての低重心ユニットになっているのだ。くわえて、ドライサンプ化でオイルパンも極薄になって、搭載位置もまた地面に擦らんばかりにLS7は低い。
くわえてC6コルベットはトランスッミションをデフと一体化して後ろに置く。トランスアクスル方式と呼ばれる、FR車の駆動系レイアウトの究極だ。同時にZ06は、車体構造をアルミフレーム+カーボン外皮に置き換えて、これまたエンツォ並の1.4t前半の車重を手にしている。
それはすなわち、スーパースポーツ界の超一流たちとも張り合える実力を備えていたとも言えるのである(そんなスーパーマシンが当時たったの1000万円で買えたのだ)。
そんなZ06は、走ればやはり別格だった。取材車は09年型のフルノーマル車。回転域を問わず力みなぎるエンジンと安定感の高いシャシーという基本を押さえつつ、圧倒的な吹け上がりや思いのままに向きを変える一体感抜群のハンドリングといった部分がノーマルモデル比でより一層強調されている。特に軽量化がもたらす運動性能の向上は、想像以上の俊敏さゆえに怖さすら感じさせる。
タイヤはノーマルよりかなり太くなっているにもかかわらず、まっすぐ走る。ブレーキは、ムチウチになりそうなほど良く効く。Z06だけに装備されるドリルドディスクとフロント6、リア4ポッドのキャリパーのおかげもあるが、それ以上にボディの軽さが影響しているはずだ。
クロスのギアレシオを持つ6MTは、レーシングカー同様のトランスミッションオイルクーラーを装備し、熱によるタレがまったくない。ストロークの短いシフトフィールも良好であり、これだけでも一回り以上小さいスポーツカーを操っているような人馬一体感を感じることができる。
……。とはいえ、今となっては500ps程度のスポーツカーはザラにあるから、決してナンバーワンだというつもりは微塵もない。
だが、その当時世代ナンバーワンに近かった存在は、今乗っても明らかに素晴らしく気持ちよく、すべてがダイレクトに感じる操作系を動かしながらの一人ドライブは、まさに愉悦以外の何者でもなかった。
ちなみに余談だが、街中での一般走行も非常に楽チンである。何よりクラッチミートにクセがまったくないから、それだけで普通にドライブが可能である。
また四隅の視界は、例のフェンダーの盛り上がりで余裕綽々である。だが。これまた例の車高の低さによって、アゴ(下回り)を擦るという緊張感には常に苛まれる(笑)。
それにしても7リッターV8NAエンジンは、他のどんな車両とも異なるフィーリングを醸し出しドライバーを魅了する。
ここ最近での個人的なベストは、シェルビーGT350のV8だったし、マスタングBOSS302のV8も好感だったが、排気量7リッターの極太なトルクとフィーリングは、他のどんなモノにも勝る圧倒的な刺激が伴っていた。
この車両を扱うbubuのBCDは、こうしたハイパフォーマンスの車両に特化した直輸入を行っている。BCDの優れたポイントは、カリフォルニアに自社の日本法人を持つこと。すなわち、第三者(現地アメリカン)を介入せずに車両の見極めができる。
アメリカに行けばわかるが、クルマの扱われ方が日本とはまるで異なる。言ってしまえば雑である。そんな国の中古車を日本に持ち込もうとすれば、日本人気質に合わない車両が持ち込まれることだってあるだろう。
そういう車両の粗を日本で必死に隠して販売してしまうようなショップは、今も多数あるから気をつける必要があるのだが、BCDの場合は、現地日本人スタッフが車両を見極めるために、外装や内装、さらには距離といった部分にまでこだわり、あえて日本人向けの車両をセレクトしている。だから中古車としての質が非常に高い。
しかも、BCDに行けばわかるが、C1、C2、C3といったビンテージの車両も扱っているから、コルベットに関しては非常にコダワリが強い。だからヘタなものは売れないという認識を全店が持ち、徹底したクオリティチェックを行っているからこそ、今回の取材車も車体にビシッと一本芯が通っている良好な状態が維持されていたのである。
そんなBCDにZ06について聞いてみた。「価格の高騰や走り系モデルの宿命である個体差を考えれば、当たり前ですが早めの購入がいいと思います。良い物はどんどん売れていきますから、自然に数は減っていきますし。この車両も日本に着く前の状態でsoldoutでした」
この車両は売れてしまっているが、本国にはまだまだ良好な個体がある可能性は高いというから、生粋のFRコルベットが欲しければ、一度確認してみるといいだろう。
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