更新日:2011.05.25
文/田中享 写真/
私には、こういった購入ガイド系の原稿を書く時に必ず思い出す話があります。
私がまだ駆け出しの編集者だった頃、取材に行った某アメ車ショップのT社長が語ってくれた話です。以下はその社長の話の重要ポイントを抜き出したものです。
「普通の人にとって、クルマの購入というのは家に次いで高い買い物のはずなのに、安易に購入を決めてしまう人が多過ぎる」
「ちょっと辛辣な言い方になるけど、アメ車の購入に失敗して文句を言っている人の大半は自業自得。失敗すべく失敗している人が非常に多い。全部が全部とは言わないけど、本人にも責任があることをもっと自覚すべきだよ」
「例えば、一軒家やマンションを購入するのに、現物をチェックせずに買うような人はいないでしょ? 家を買う時には、誰でもそれなりの時間と労力をかける。たくさんの資料を読んで、経験者にアドバイスを貰って、何件もの物件を見てから購入を決めるのが普通だよね?」
「そりゃあ家に比べれば大概のクルマは一桁安いかもしれないけど、それにしたって数百万円の買い物をするんだからさ。もっと真剣に検討しないと!」
「健康グッズを買うような感覚でクルマを通信販売で買うなんて俺には到底理解できないよね。時間がないとか、販売店が自宅から遠いとか、事情があるのは分かるけどさ。ゴミみたいなクルマを買って数百万円損することを思えば、交通費に数万円使っても安いもんじゃない? 時間だって同様。無理すれば半日くらい都合つくでしょ? 少々金と時間を使っても、現物を見るくらいのことはしないとダメでしょう」
「もちろん一番悪いのは人を騙すヤツだよ。ゴミみたいな中古並行車のメーターを巻いて、外観をキレイに装って、いかにも極上車のように偽って客に販売するような販売店だって存在するし、そんな店でクルマを買ってしまった人は確かに被害者かもしれない。でも、世の中にはそういった悪徳店の粗悪車を避けて、ちゃんとした店でまともなアメ車を買ってる人だっているんだからさ」
「ま、確かに素人さんがクルマの良し悪しを外観で判断するのは難しいと思うよ。全部のクルマが試乗できるわけじゃないし、プロの俺らだって見ただけでクルマの良し悪しはなかなか分からないからね。そういう意味では現物を見ても仕方ないという意見もあるかもしれない。でも、仮にクルマやメカに詳しくなくても、何件もの店で何台ものクルマを見て回るうちに、よっぽど鈍い人じゃない限り、店やクルマの良し悪しってのは少しずつ分かるようになるから。もし自分自身の見る目に自信がなければ、クルマ好きの友人や先輩に同行してもうらうとか方法はいくらでもあると思う」
「クルマ、とくに中古車の購入には当たり外れとか、運不運もあるのは確か。でも本人が努力することで、当たりの確率を上げることは出来るんだよ」
「君たち雑誌社の人間が自動車購入ガイドみたいな企画をやると、大抵の場合は取得税がどうとか車庫証明がどうとか自賠責がいくらだとか、そんな話ばっかりだけどさ。そんなことはどうだっていいんだよ。もっと大切なことを読者に教えてあげないとダメだよ!」
もう15年も前の話ですが、T社長が上記の話をしてくれた時のことは今でも鮮明に記憶しています。
その時は確か『アストロ購入時のチェックポイント!』みたいな企画で、タイヤの片減りや下回りのサビの有無とか、中古車購入時に現車をチェックする際のポイントをT社長に解説してもらうために取材に行ったのですが、一通り撮影が終わった後に、私が「うちの雑誌の広告を見てクルマを買ったら、それがとんでもない粗悪車で困ってる!どうしてくれるんだ! みたいなクレームが最近多いんですよ。広告に対して文句を言われても編集部ではどうにも出来ないんですけどねぇ…」というような台詞を言ったところ、T社長が
「そういうクルマの修理依頼はうちでも多いよ。でもね、購入に失敗するのはお客さんにも責任はあるんだよ…」
といって話し始めたのが上記の内容だったのです。
このアメ車購入ガイドでは、これから数回に渡って様々な知識や心得を解説していきます。もちろんそれらの内容は必ず読者諸兄に役立つと思うからこそ掲載するのですが、ある意味最も重要なポイントというのは上記のT社長の話に集約されていると言っても過言ではありません。
これからアメ車を購入しようと考えている方は、時間や労力を惜しまず、購入に真剣に取り組むことをオススメします。
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