ここ数カ月、月に二、三本程度の、読者からの相談依頼的な連絡が編集部に入っていた。内容はまちまちだが、複数の話を要約すれば「何度も何度もクルマをバラされて、あれやこれやパーツを交換され、それでも治らず。また別店にて修理に出したが、それでも治らず…。もしくは二ヶ月以上クルマが戻らない…。当然だが、バラされた工賃やパーツ代はオーナー負担。これがアメ車の現状でしょうか」etc、というもの。
その昔、アストロが流行っていた時代にはよくある話だったが、いまだにこうした修理難民的な存在がいることに驚いた。
もちろん、複数のCPUでネットワーク化された時代のアメ車だからテスターがないと触れないことがあることは理解しているし、自信のないショップはそもそも「触らない、触れない」からそういった修理トラブルは逆にどんどん減り、「出来るショップ」に客が集中しているという事実も知っていたから、ちょっとした驚きだった。
と同時に、こういった修理トラブルが起こった事例を聞くたびに、筆者はクワッドドライブを思い出す。「最初からクワッドに行けばいいのに」。「それこそがトラブル解決の一番の近道なのに」と。
というのも、アメ車業界広しと言えども、『修理』で会社を成り立たせている唯一の存在と言っていいからである。なので、持ってる知識の次元が違うし、機材のレベルも違う、さらには常に修理技術の最先端を目指す姿勢や意欲がまったく他店とは異なっている。
だから、これまで修理してきた内容が積み重なったノウハウや引き出しが数多く、すなわちプロのメカニックとして常に進化していて、正直、今や「直せないトラブルはない」というレベルにまで達している。しかも、それら修理の時間も年々短くなっていっているというから恐れ入る。
「もちろん初見のトラブルであれば確実な結果を出すまでの時間は必要ですが、そうじゃなければ理論的解決に至るまでの時間は日々短くなりますよね。当然、過去の経験やこれまでのノウハウが生かせますから」
もちろん、なにもかもが過去の結果にしばられるわけではなく、求められる正解(トラブル解決)に対して、あらゆる方向性から原因を考えアプローチし、最終決断を下すまでに少なくとも頭の中では何百もの過程を通過している。だが、その過程にかかる時間は、当然進化すれば短くなるのは当たり前の話だ。
例えば、一昔前の時代のショップでは、アメ車のミッションの調子が悪ければ、「そうね~、とりあえずオーバーホールか載せ換えだな」なんて安易な結論を出すメカニックが非常に多かったが、今の時代、ミッションのみならず、主にABSモジュール、ECM(エンジンコンピューター)、TCM(トランスミッションコンピューター)、TCCM(4WD車の場合)さらにそれらのCPUに接続されている複数のセンサー、そういったもろもろ全てを含めた総合的判断のもと結論を出さなくてはならない。
だから安易にミッション交換で済ませるわけはなく、林氏の場合も当然、それらの状況を瞬時に鑑みてすべての可能性を見極めている(ミッションばかりを見ていたらエンジンに原因があった、なんて事例もあったから、そういうことも経験値としてもちろん生かされている)。
なので彼に「メカニックの勘」なんてものはまったくないし、常に理論的かつ正確な解決を求めるメカニックだからこそ、「最新のクワッドドライブ」を皆さんにお伝えしたいと思っているのである。
「以前、お話したことがあるのですが、現代メカニックに必要な要素があるとすれば、
1.テスターを使いこなす能力
2.英語のサービスマニュアルを理解する語学力
3.テスターに表示される数値を評価する知識
4.異常を見抜く洞察力、観察力
5.乗って直接感じる能力
とお伝えしたことがあるのですが、今はそれ以外に、「机上で診断する能力」(=非分解診断)を高める必要性を感じています。
これは、クルマを触らずに理論的解決を目指す方法で、テスター接続したデーターは車両から離れた事務所にあるPCにWi-Fiで飛ばすことが可能ですし、サービスマニュアルを用意して、非分解でトラブル箇所の特定と原因を追求します。
もちろん、最終的には原因として考えられる箇所を絞り込んだ上で車両分解、確認作業が必要になりますが、机上で特定できてしまえば、その作業のための不必要かつ無駄な作業が一切なくなりますし、無闇に分解することが原因による2次災害も防止できます。
たとえば、『たぶん●●●が原因だと思うのですが(もしかしたら違う可能性がなきにしもあらず的な)、そのパーツを交換してみて様子をみてみましょう』といった不確定な作業を行わなくて済む=オーナーさんの負担が減ることにもなるわけです」
とはいえ、不具合箇所のすべてから「ここに原因がある」と信号が出されているわけではないというから、現代のPCM車両の修理は難しい。
「たとえばテスターを繋いでもトラブルコードが出ない箇所があるのですが、その部分に不具合が出てしまうと、その作業の難易度は瞬時に高くなってしまいます。そうなってくると、メカニックとしては全ての制御を一つ一つ点検しなければならず、診断に時間がかかることになります。要はCPUが異常をトラブルコードとして言う口が無いということです。
またトラブルコードがストアされたとしても、コードだけに固執した修理をしていると直らない車両が続出します。トラブルコードはその部分の取り巻く環境や2次的にストアされることが多いからです。
で、メカニックによっては、それらパーツを一つ一つ分解&交換して試してみる的な作業をする方もいると聞きます…、が、そんなことを始めたら一体どうなるでしょう? 果たして費用はいくらかかるのでしょう? そんな状態で困っていた方もたくさんいるんじゃないでしょうか。
ですが、現代の車両こそ、無闇に部品交換をしたりバラバラに分解するのは避けたほうがいいのです。それは、制御が複雑になればなるほど、アナログ方法での故障解決が難しくなり、かつ二次的な人為的被害の原因にもなるからです」
林氏は、こういった時にこそ、机上での非分解診断が必要になるという。サービスマニュアルや配線図、その他クルマのありとあらゆる情報を収集し、机上での点検を開始する。さらに机上なら、いくらでも仮説が可能になり、トラブルが起こった原因への様々なアプローチが考えられる。
普通のメカニックが、一つ一つパーツをばらし分解しながらオーナーさんに金銭的&時間的負担を強いながら作業をするめている間に、林氏は非分解で複数の仮説をもとにトラブル内容を一つ一つ検証し、原因の絞込みを行っている。その上で、最終的に現車に接し、その仮説を実証するための作業をしつつ故障原因の特定を行うわけである。その差は一目瞭然だろう。
ちなみに、先日あった実際のトラブル例を聞いたのだが、それも上記に近いトラブルだった。それは某キャデラックのセンターコンソールのマルチモニターに搭載しているCUEシステムに関する不具合。
エンジンを始動し走行はするも、タッチパネルの各コントロールが効かなくなりモニターがブラックアウトする。そのマルチモニターはナビ、アップルカープレイ、Wi-Fi、アラウンドビューカメラ、エアコン、クライメートシート、車両各種パーソナルセッティング、オンスター、地デジ、ブルートゥース等の機能を集中コントロールできるタブレット端末の様なもので、複数のコンピューターからの情報を管理、制御するゲートウェイ的な役割を果たす。しかも、今回の症状ではテスターを繋いだところでトラブルコードが出ない。
このキャデラックのオーナーさんは、ディーラーにて修理依頼したが直せず、いろいろな方面での修理を辿り、最終的にクワッドドライブにやってきた。ちなみにディーラーでは原因の絞込みができず「モニター、CUEシステムを構成するコンピューターのアッセンブリー交換です」と、とても高額な内容。
このトラブルに関して林氏は、上記のように机上での診断を行っていた。その時の資料を見せてもらったのだがA4用紙がざっと30枚以上。サービスマニュアルから配線図に至るまで、さらには自己診断による様々な仮説を記し、それらの正誤チェックに至るまで。
そして、こうした非分解診断のもと、二つの原因まで絞り込んだ。「ディスプレイユニット」と「ラジオユニット」のどちらかが原因であると。で、ここから実車に触り最終的な原因を当然一発で診断し、「ラジオユニット」の交換にてトラブルが解消したというのである。
ちなみに車両に付いているコンピューターは車種によって異なるが、全部で20~40個に至り、ほとんどのCPUはCANでネットワーク化されている。
だが、全てのコンピューターは同じCANで接続されているわけではなく、ネットワークの中でも重要度や通信速度でグループ分けされていたり、CAN以外の別の通信方法も使用しているものがあり、今までのようなアナログ的な手法での信号測定ができないから(通信ケーブルで構成されているから)、こういった部分にトラブルが起こった場合には非常に厄介なのである。
ということで、非分解診断は非常に有効であるが、誰もが簡単にできるものではない。聞けば、「当然、メーカーや車種、仕様ごとにシステムや作りが違いますし、そもそも同じものなんて一台もないですから、逆に一台一台のシステムネットワークについて身につけるか、新種のトラブルについては実践的な対応力を身につけ、応用しながら接するしかありません」という。
すなわち、あらゆる能力が備わっていないとできない診断であるということだ。そういう意味からも、「ちょっとレベルが違いすぎる」と言われる所以であり、2019年のトラブル修理の最先端は、すでにこの域にまで達しているということである。
あと、関東地区のアメ車オーナーさんはこういった頼れる存在が身近にあるということでとても幸せである、ということも付け加えておく。
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