スポーツカーのスタイリングは「いかにスピード感やパワフル感を醸し出すか」がテーマだ。だからノーズは空気を切り裂くように尖り、プロフィールはくさび型になる。
一方でクロカンやSUVは、絶対的スピードでなく、荒地を走破するための、言わばアウトドアギアだ。つまり道具だから、道具としてのカタチが相応しい。そこで昔からこのジャンルのクルマたちは、各職種のプロが使うツールのように、シンプルで力強い格好にデザインされてきた。道具に余計な飾りはいらない。シンプルで造り易い形状が一番。そういうカタチのほうが、見るからに信頼できる。それと同じようにクロカンやSUVは四角く無骨だった。
しかし、クロカンやSUVが荒地ではなく街中を闊歩する時代になるにつれ、デザインが変わってきた。もう道具としての印象は要らなくなった。SUVのデザインの方向性は四方八方に散乱した。洋の東西を問わず、自動車デザインの世界に入り込んできたアニメ世代はモチーフをロボットに求めて、ガンダム風SUVを作った。スポーティカーを売りにするメーカーや高級車を擁するブランドは、それらのクルマたちの目印になったデザインを取り込んでSUVを作った。かつての道具っぽさは、今は昔だ。
キャデラックとリンカーンは、アメリカを代表する大型高級車ブランドの双璧である。
デカいアメ車と言われて日本人が想い描くイメージは、巨体を凹凸やクロームでゴテゴテと飾り立てた「押し出し」感が命のそれで、一言でいって下品な方向のものだと思う。しかし、それはどちらかといえばキャデラックに相応しいイメージだ。キャデラックは、「アメリカの最高」を求め顧客のヨコシマな欲望をストレートに充たすような、そういうケバ目のデザインで売ってきた。スポーツや音楽で貧困から這い上がってきた大立者、例えばボクシングの黒人チャンピオンが真っ先に買うクルマと言えばキャデラック。そういうステレオタイプなイメージが出来上がるほど、常にキャデラックは直裁的なデザインだった。
だがリンカーンは、そんなキャデラックに似ているようで、実は似ていない。確かに大きく華美で押し出しの強いクルマであったが、キャデラックよりも、どこか品が良かった。ただし、その品の良さは控え目方向のそれではない。華麗ではありながら、微妙なダサさの匂いを伴うような感じがする種類のもの。育ちのよい人物は、どんなに今風に装っても、決して全身エッジの効いた鋭さだけにならず、どことなく鈍さや温和さが匂ってしまうものだが、そういう意味での愛すべきダサさである。
この旧型SUVリンカーン・MKXも、そういうリンカーンの伝統を依然として引き継いでいる。ライバルのキャデラック・エスカレードが下品一歩手前の豪奢な装いで飾り立てているのに対し、MKXは全体のフォルムも端正で、大きなクロームのグリルも格子が細かくて、どこかダサさが微妙に匂いつつ品の良さを感じさせるデザインである。
リンカーンは4ドアのコンチネンタル系がそうだった。2ドアの系統もそうだった。そして旧MKXもまた、ゴージャス高級SUVというヨコシマ方面の成り立ちのクルマにもかかわらず、そういうリンカーンの伝統に沿ったデザインが施されているのである。
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