1998年に立ち上がったバイパーの企画。当時のクライスラー社長、ボブルッツの「シェルビーコブラみたいなクルマを造れ」という言葉がきっかけで誕生したのがダッジバイパーRT/10である。
当時の初期コンセプトモデルは、窓もルーフも無いオープンボディに凶暴な大排気量エンジンという組み合わせ。それはまさにコブラの再来と呼ぶに相応しいものであった。
このコンセプトモデルの発表は1989年のデトロイトショーで、アメリカ中のクルマ好きから大反響を呼んだ。ただ余りにプアな実用性に、市販化を予想したものはほとんどいなかったという。
だが実際には、外部からキャロル・シェルビー氏をアドバイザーに加える等して「現代版コブラ」のプロジェクトはスタートしたのである。
3年後の1991年、初代ダッジバイパーRT/10は見事完成した。オープンのみという初期テーマ通りのボディ構成に(正確にはタルガボディ)、毒蛇に相応しい煽情的なボディデザイン、そしてランボルギーニに開発を委託した8リッターV10を搭載しての誕生だった。
登場初期モデルでは、エアコン等の快適装備などは付いていなかったが、それに関しては年々改良され、後期型ではエアコン装着がなされている。ただし、幌などに関する装備はあくまでスポーツカーということで、お飾り的な要素(?)しか装着されていない(笑)。
デビュー当時の1992年モデルにおいては、当時のライバル、ロータスチューンのDOHCエンジンを搭載したシボレーコルベットZR1よりも2万5000ドル以上安い価格だったこともあり、争奪戦が繰り広げられたという。それほどの人気ぶりだった。
コブラの再来として企画されたバイパープロジェクトは、「コブラ=毒蛇=バイパー」として進行し、「より美しく、より速い毒蛇を作れ」という号令のもと、シンプルなシャシーに強力な爆発的エンジンを搭載し、力感のあふれるボディを身にまとうことで完成した。
そして最後にステアリングを握ったキャロル・シェルビー氏は「かつてのコブラがそうだったように、毒蛇=バイパーも可能なかぎり純粋であるべきだ」と結論付け、プロトタイプからほぼそのままの容姿で誕生したのである。実際にはオープンボディからタルガボディへと変更になっているが、それはスポーツカーとして必需品のボディ剛性を得るための策だった。
バイパーに搭載されたエンジンは、8リッターV10 OHVエンジン。特別な商用車を除けば、クライスラー史上最大であるこのエンジンはランボルギーニの手も入り、400hp/4600rpm、最大トルク62.1kg-m/3600rpmを発生させる。ちなみに車重は1400kg弱だから、パワーウエイトレシオは3.5kg。当時の一般的な乗用車が10kg程度だったからその強烈さがお分かりいただけるだろう。さらに余談だが、後のバイパーSRT10になると2.5kgだから、もっと強烈!
そしてそれに組み合わされるミッションは6速MTのみ。各ギアのレシオは2.66/1.78/1.30/1.00/0.74/0.50(後退は2.90)でファイナルは3.07だから、普通に走る限りでは4速までで事足りてしまう。実際に走ると1速のフル加速で90キロ近く出てしまうし、2速で130キロは出てしまうから、日本だと正直、オール2速で事足りてしまうのである(笑)。
実物を目にするのはどのくらいぶりだろうか? この型よりも新しい、いわゆるSRT10以降のモデルにはこれまで何台も触れた経験を持つが、このRT/10は今回を入れて生涯で2度目である。
だからか、まず実物を見て思うのが、非常にノーズが長いな、ということと全幅のサイズがデカイなということである。しかも両フェンダーに収まっているタイヤサイズがまた凄い。前275/40ZR17、後335/35ZR17!
後付けされた濃紺のストライプがかなり似合っており、さらに全体の見た目のバランスも良好である。SRT10以降のバイパーには、本格的なスーパースポーツカーとしての雰囲気が充満していたが、このRT/10にはまさしくコブラの再来といったオープンスポーツカーとしてのオーラがいっぱいである。しかもタルガボディ。フルオープンカーよりも好みなスタイルだけに期待が高まる。
試乗車には、すでに幌やサイドウインドーが外されていた状態であったが、その装備のプアさに思わず笑みがこぼれてしまった。少なくとも日本の天候に合わせて作られたものではない。しかも、この幌、仮に装着するにしても一人だとかなりの時間がかかることになるかもしれない。「つまり、幌をつけるな!」ということなのだろうか? そう理解すれば、「ただ走るためだけのスポーツカー」というコブラの再来として理解もできるが、しかし…。
このRT/10の特徴のひとつである外側にドアハンドルがないことは知っていたが、ドア内側に手を伸ばしドアを開けた時点でふと? 「幌を付けたらどうやってドアを開けるんだ?」との思いがこみ上げてきたが、それもまた「ただ走るためのクルマ」と納得させつつ、ぶっといサイドシルをまたぎ、シートに座った。
若干ペダル類が左側にオフセットしているが、確認すれば問題ないし、意外にも(予想よりも断然)重いクラッチペダルを踏み込みエンジンスタート。
爆音とともに目覚めた8リッターV10エンジンの鼓動を感じつつ、クラッチをリリース。このバケモノエンジン、アクセルペダルを煽ることなくクラッチ操作だけで発進が可能であり、走り出しさえすれば移動は実に簡単である。
なんせ2000回転を越えればほぼ90%に近い最大トルクが得られるだけに、走り出してしまえば、ギアをチェンジする必要すら感じないほどの力感である。普通に街中を流すのであれば、2速に入れれば全てが事足る。
だが、それでもツマラナイなんてことはまったくなく、そこそこの重さを保ったステアリングを握り、多少の轍に対応しさえすれば、巨大なゴーカートに乗っているかのごとく、シャープでダイレクト感に溢れたドライブが可能である。
しかもサイド出しのマフラーから放たれる爆音と熱がドライバーを刺激し、単なる街中走行でさえも、モナコを走るF1マシンのごとく熱くなれるのである。
試乗車は、すでに2万7500マイルの走行距離を刻んでいたが、エンジン等におけるヤレなどはほとんど感じることなく、インテリア等に多少の使用感は感じるが、それはもともと簡素なインテリアだけに(素材も簡素)、見た目の印象としてそう思わせたのかもしれないし、開放感が抜群なだけに、常にオープンで走れば若干の汚れなどは致し方ない部類だろうと想像できる。
ただ、いろいろ探ってみても距離以上のヤレはまったくないコンディションの良い個体だっただけに、試乗の印象も抜群に良かったのである(あくまで一般道での試乗だったが)。
このクルマには値札が付いており、それを見た弊社田中が「自宅の駐車場が屋根付きだったら、買ったのに」と言っていたが、まさにその言葉通り、このバイパーのスタイルや雰囲気は、スポーツカー好きの誰もを一瞬にして虜にしてしまうほどの魔力を持っている。
確かに理性的なモノの見方をすれば、保管場所、購入後の使用範囲等をいろいろ考えて二の足を踏んでしまうかもしれないが、限りなく実用性を無視した生粋のスポーツカーが欲しければ、一度実物を見てみることをお勧めしたい!
屋根付き駐車場があるのなら、車庫に置いて眺めるだけでもいい感じだとお思いますわ!
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