実車を前にしての第一印象は、やはり「今までのエクスプローラーとはずいぶん違うな」というもの。そのフォルムはSUVと言うよりクロスオーバー的で、ボリューム感のあるフロント周りにFFベースの設計がうかがえる。
内装も従来とは一線を画しており、先代モデルの持つトラックっぽさは一切ナシ。ドアトリムへとシームレスにつながるインパネなどはサルーンそのものだ。そのインパネ中央には、「マイ・フォード・タッチ」の8インチディスプレイが鎮座。これは、エアコンやオーディオなどの操作を1枚のタッチパネルに集約したもので、ステアリングスイッチや音声による操作も可能。要するに「リンカーンMKX」の「マイ・リンカーン・タッチ」と同じもので、今のところ音声認識が英語にしか対応していないところも一緒だ。
一方、巨大なボディの恩恵もあって、車内空間はゆとり充分。とくに3列目シートは幅を16cmも広げたというだけあり、大人でも十分に座れる空間を備えている。カーゴルームも広大で、フル乗車時でも595Lのスペースを確保。2列目まで折りたたむと、2285Lのフラットな積載空間が得られる。
また上級グレードの「リミテッド」には、3列目の電動格納スイッチも装備。荷物を載せやすいよう、荷室の床面を従来より低く抑えるなど、実用性に関する配慮も抜かりない。この辺りは、上面のスペックより実用性を重視する、アメリカンSUVの面目躍如と言ったところだろう。
上級グレードの「リミテッド」は本革シートを標準装備。前席にはヒーター&クーラーも内蔵される。もちろん2列目以降も快適そのもので、同クラスのSUVではおろそかにされがちな3列目にも、サイドトレイやカップホルダーが備えられている。
2列目席は6対4、3列目席は5対5分割の可倒式。3列目の収納は床下格納式で、ご覧の通りフラットな荷室空間を得ることができる。
特大サイズのボディに2トン超の車重など、スペックだけ見るとさぞや重々しく走りそうなエクスプローラーだが、実際にはへんに身構える必要はナシ。全体の6割以上に高張力&超高張力鋼板を使ったというモノコックボディの剛性もあってか、予想していた以上にカッチリと、ある意味セダンのようにふつうに走る。
ハンドリングもしっかりしており、コーナーでは切った分だけぐいぐい旋回。1.2トンに迫る前軸荷重を感じさせない。新型エクスプローラーはプラットフォームにトーラスのものを利用しているというが、そうした出生がうかがえる身のこなしと乗り心地だった。
一方、大幅にダウンサイジングした3.5リッター V6エンジンも、重量級のボディを力強く牽引。急峻な坂道を無理に飛ばしでもしないかぎり、力不足を感じることはないだろう。ただひとつだけ気になったのが、高回転まで回した時の音。若干ガサツで、あまり気持ちのいいものではないのだ。確かにエンジンをぶん回す類のクルマでもないので、これで問題ないのだろうが……。スポーティな低音を聞かせるMKXの3.7リッターや、いかにもV8という大排気量感のあった先代の4.6リッターが、少しうらやましかった。
そんななか、従来のエクスプローラーから受け継がれた美点を発見。それが、運転席からの視界の広さ、ボディの見切りの良さだ。新型エクスプローラーは決して取り回しの楽なクルマではないのだが、撮影のために何度も切り返しが必要な場面でも、不安無く巨体を操ることができた。地味な部分かもしれないが、ここにもSUVを造り慣れたフォードの実力が感じられた。
「リミテッド」には荷室側から操作できる3列目の電動格納機構を装備。
運転席とは逆側の、右Aピラーに備えられたフロント・サイドビューカメラ。視界を得る上で便利なのはもちろん、これがあるおかげで、ボンネットにかっこ悪い補助ミラーをつけないで済むのも大きな利点だ。
タイヤサイズは「XLT」、「リミテッド」ともに245/60R18。純正ではミシュランの「LATITUDE TOUR HP」を装着している。TPMS(タイヤ空気圧モニター)を全車に標準装備するなど、安全装備も充実。
【リミテッド】全長:5020mm、全幅:2000mm、全高:1805mm、ホイールベース:2860mm、車両重量:2170mm、エンジン:V6 DOHC、排気量:3495cc、最高出力:294ps/6500rpm、最大トルク:35.2kg-m/4000rpm、トランスミッション:6AT、サスペンション:Fマクファーソンストラット/Rマルチリンク【価格】XLT/440万円、リミテッド/530万円
私事で恐縮だが、自動車媒体の編集に携わって、最初に任された仕事はエクスプローラーのバイヤーズガイド。初めて運転したアメ車も撮影用に借りたエクスプローラーであり、言うなればこのクルマは、自分に「アメリカンSUVって、こういうものだよ」と印象付けた1台だった。
そうした個人的な思い入れもあってか、今回の試乗で印象に残ったのは、変わったところよりむしろ受け継がれた点だった。たとえば電動化されたパワステが演出する、低速時の軽いハンドリング。生真面目に座るより、ちょっとルーズな方がしっくりくるシートなど。とくに良かったのが、運転席からの見切りや荷室の使い勝手など、細かな魅力が残されていた点だ。エクスプローラーは、相変わらず「フォードの良心」みたいなクルマだった。
ただ、気になる点がまったくなかったわけではない。とくに惜しかったのが、欠点も含めて「SUVらしさ」がなくなってしまったこと。
確かに先代のエクスプローラーは、乗用車のようには乗れなかったし、峠道を飛ばすような真似は苦手、インパネのデザインも無骨なトラックそのものだったかもしれない。ただ、あれはあれで慣れれば快適だったし、楽しい乗り物だった。新型エクスプローラーは遥かに洗練されたクルマになったが、欠点を補うために個性まで削がれたような寂しさを覚えたのも事実だ。現実的な問題として、旧型オーナーがこの新型に乗り換えることがあるのだろうか?
旧型の味に慣れたオーナーが、おいそれと新型の味に馴染むのだろうか? 個人的には、乗り換えるのにはかなりの勇気が必要と正直思えるが。ただ20年前の基本設計を一新すれば、最初は馴染めないのも当然だとも思う…(旧型を知らなければ、簡単に馴染めると思います)。
フォードは今後、北米、欧州、アジアと市場ごとに分けられていた車種を統合する。今回のエクスプローラーも、世界90カ国で販売されるという。個人的な感傷はさておき、モノはいいだけに、まずは世界中で活躍してくれることを望む。
<<フォード エクスプローラー vol.1へ戻る<<
19,404円
PERFORMANCE
6DEGREES
19,998円
PERFORMANCE
6DEGREES
3,480円
MAINTENANCE
GDファクトリー千葉店
48,070円
EXTERIOR
6DEGREES