日本でフルサイズバンといえば、一時代を築いた名車「ダッジラムバン」という声が多いかもしれないが、本国アメリカでフルサイズバンといえばエコノラインが圧倒的なシェアを誇っている。
SWATなどの警察車両にはじまり消防や救急車などにも使用され、FedExの企業マークを配した商用車としても使われているのは、あまりにも有名だ。一方、「24」を代表する人気アメドラの劇中車としても活躍し、注目した方も多いのではないだろうか。
そんなフォードを代表するフルサイズバンのエコノラインだが、2014年をもってついに生産中止となった。正確には次期モデル・トランジットにその座を譲り引退ということになったのだが、それゆえに、連綿と続いてきた「V8エンジン+フルサイズフレームボディの終焉」という悲しむべき事態にもなったのである。ということで、最終2014年型のXLTに試乗した。
この車両はBCDが直輸入した車両だが、聞けば「エコノラインは、本国での数が多いだけに中古車としては逆に難しい車両であり、距離を走っているクルマが多い。だからこそ、年式の古い車両だと使われ方によっては微妙なモノが多く、信頼のおける確実な車両を探すノウハウが必要となるという。そんな中で、この車両は現地日本法人のBCDスタッフが直接視察し、最終年式に絞ったすえに手に入れた良質車」ということで期待がもてる。
加えてBCDは、最終モデルのエクスプレスやサバナ等を大量に扱っており、バン事情にも詳しくノウハウが豊富なだけに、車両コンディションの維持にも非常に協力的だ。
エコノラインを簡単に振り返れば、初代モデルは1961年に登場した。当初はフォルクスワーゲンタイプIIのような小型ミニバンの体をなしていたが、年々大きくなり二代目1968年~1974年、三代目目1975年~1991年と進化を続けていく。そして1992年に登場した四代目が2014年まで続く最終モデルという変遷になる。
この四代目の途中2001年には、エコノラインからEシリーズと改名され、2006年にエクスカージョンに搭載されていた6.8リッターV10エンジンが搭載されるなど、最新フォードが目指すダウンサイジングとはまったく逆方向に進んでいたのが面白い。
一方、この四代目では2008年にビッグマイナーチェンジが行われ、フロントマスクがFトラックシリーズのような風貌に一新、さらに機能的な部分の進化やステアリング、サスペンション、ブレーキ系のリファインも同時に行われ、一気に現代的なマシンへと昇華したのである。
そして2014年、53年続いた歴史に終止符が打たれたのである。
そんなエコノラインだが、久しぶりに見る実物は、かなりの違和感だった(笑)。正確には、事前に予測していたのとは若干違う印象だった。筆者はここ最近最新フォードにずっと浸っているだけに、「フォード車の今」みたいなものを常に把握していると自負しているのだが、そこからするとE150は、現代のフォード車とはまさに対極の存在だったのだ。さらに、この撮影の二日前にこれまた最新のエクスプレスに乗っていただけに、その差は異質かつ歴然だった。
フォードE150は、ひと言で言えば旧態依然のフルサイズバンである。ボディマスクは最新のFトラックと同じものであるとはいえ、サスペンションやブレーキがリファインされていたとはいえ、実物が放つオーラは明らかに旧車風情だった(笑)。
最新エクスプレスは、空力等の影響もあり、かつてのデザインからボディ各部の凹凸は見事削ぎ落とされた、クリーンなラインを形成している。
一方E150は、四代目エコノラインのボディに顔だけ最新バージョンを取り付けたような、一昔前のモデル感が随所に残り、その部分にある種の違和感のようなものを感じるのだが、だが逆に「最新フォード車の縛り」みたいなものから開放し一台のフルサイズバンとしてみれば、どこか懐かしい存在として、かつての面影があちこちに残っている。
ブラックのボディにクロームのマスクがもたらす味わいは最新モデルに間違いないが、その走りは、旧車の味を残した懐かしさと現代的な交通事情に即した進化とが混ざり合った特有のものだった。
着座位置、シフト、ブレーキフィーリングには懐かしさが溢れ、かつての旧型印象そのものである。ボディは、四角四面であるからドライバーズシートからの視認性は良く、バンを走らせていることを実感しならがの走りであり、そこは「まるでSUVを走らせているかのごとき安定感」を醸し出すエクスプレスとは、まったく異なるフィーリングである。
ボディは鋼のような剛性感ではないのだが、フレームボディの骨太感はシッカリ継承され、これも今しか味わえない感覚として残っている。コーナリングも、鉄壁というほど安の定感はないが、適度にロールを許し、とはいえ重いボディをシッカリ走らせるどこか懐かしいフィールで満たされる。
だが、それこそわれわれがかつて愛したフルサイズバンの味であり、バンらしさ溢れる走りとも言えるのだろう。
搭載されるエンジンは、4.6リッターV8。225hp、最大トルク286lb-ftを発生させ、それを4速ATで駆動する。ちなみにオプションで、255hp/350lb-ftを発生させる5.4リッターV8エンジンも選べるというが、日本に入っている個体ははほとんどないと言われている。
この4.6リッターV8エンジン、「まるでマスタングのような」というとちょっと大げさかもしれないが、それでも遠くにマスタングを感じるような濃密なフィールをもたらし、決してパワフルとは言い難いのだが、2トンを越えるボディを味わい深く加速させる。そのサウンドがバンらしくなく、じつに感動的な加速感を演出するのである。
筆者はE150の懐かしさ溢れる全体のフィールに失望しているのではまったくない。逆に、今しか味わえない最後のフルサイズバンとして、是非とも多くの方に堪能してもらいたいと、積極的にオススメしているくらい感動しているのである。
しかもこのボディ、ミッション、足回り、そしてエンジンといった各種の機能が混ざり合い、最新モデルにはない濃密な旧車フィールをもたらす2014年型車など、コイツを除いて他にはないし。
フォードE150に触れてしまうと、正直アメ車はこのレベルでとどまっているのが良かったのではないかと思う、自分の中の別の一面が再び顔を出して来るのは事実だし、進化によって失われたものは多かったのだなという事実にも気づくことになる。
だからこそきっと、90年代以前からのアメ車に慣れ親しんだ方なら、このE150のアメ車感に賛同してくれるはずである。
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