シェルビーGT500とは常に進化し続けたマシンであった。だからこそ、購入者にとってはじつに悩ましいクルマだった。
2007年にデビューし2009年までのGT500のマックスパワーは500hp、2010年型は540hp、2011年型は550hpとなり、2013年からは排気量が5.4から5.8リッターへ格上げされ、オールアルミ製V8+スーパーチャージャーによって一気に112hpアップの662hpへ。
「一体どれを買えば良いのか、いつのを買えば良いのか」、シェルビーだからこその最高パフォーマンスを手に入れたいがために、迷った方も多いはずだ。
とはいえシェルビーGT500は、2015年以降の新型マスタングとなってからは存在しないために(GT350が登場したが)、2014年モデルが最終となる。すなわち、今買うなら中古車の中から適切なモデルを探し出す必要があるということである。
で、2011年モデルの試乗となる。この車両はBCDが直輸入しオーナーに収めた車両であり、乗り換えのため再び入庫したモデル。その間、BCDが直接アフター整備を行っていたこともあり、車両コンディションに精通した良好なモデルである。
2011年モデルは、エンジンのヘッドのみがアルミとなり550hpを発生させる。2012年は翌2013年モデルへの移行が早まった経緯もあり、劇的に個体数が少ない年だけに2012年モデルのGT500も同様に劇少。
ということで、550hpを発生させるGT500はほとんど2011年モデルのみといっても過言ではなく、しかも車体とパワーとのバランスが一番整っているモデルでもあり、なおかつメンテナンスの面から言っても一番バランスが取れているだけあって、マニア的な目線から言えば「じつは一番のオススメ年」とも言われているのである。
このGT500を語る時に、コストパフォーマンスの面ばかりを取り上げ、「安くてパワーがあるからいい」みたい感想を語る方が多いが、それだけがこのクルマの本質ではまったくない。
このクルマの価値は、過去のアメリカンマッスルと言われる歴代旧モデル達ように、シャシーを一瞬にして超えてしまうようなパワーを持ち、それを自らの腕っぷしで操る実感が得られること自体が最大の魅力なのである。すなわち、古典的なクルマが持つ「危うさ」みたいな魔力である。
決して悪い意味ではない。たとえば日産GT-Rに象徴される電子デバイスで徹底管理されたスポーツカーが幅を利かす時代にあって、シェルビーGT500が乗り手にもたらす世界観は、古き良きアナログの感触が色濃く残されている。
それは、あくまでドライバー主体のドライビングプレジャーであって「乗せられている」のではなく、「自分が操っている」という感覚が非常に強い。しかも、アメリカならではの箱形ボディである。スポーツカーではない、マッスルカーを操るのである。
思いのほかゆったりとしたバケットシートに腰を下ろし、エンジンを始動する。最高出力550hpというスペックは、乗り込む前の予備知識としてはドライバーをびびらせるに十分な脅し文句として機能する。
比較的重たい反力を持つクラッチを踏みギアを1速へ。シフトは、コルベットのようなストロークの短いスポーティなものではないが、ベースとなるマスタングと同様な感じのゲートが明確でカッチリしたものだ。それでも小気味良くシフト可能であり、十分スポーツ走行に使える代物である。個人的には、マッスルカーにはこういった明確なフィールが好ましいと思う。
走りだしての驚きその1が、簡単にスタート可能であること。十分な低速トルクとクラッチの繋がりの良さが相まって、誰でもいとも簡単にスタートできる。個人所有のクルマはすべてマニュアル車だったために、クラッチ操作にはうるさいのだが、アメ車のマニュアル車は基本どれもこのクラッチ操作が楽である。とくにGT500の場合、パワーがあるだけに、クラッチ操作に難しさがあるかと思いきや、まったくそうではないことに驚いた。
でその2、走りだした瞬間からじつに心地よい音色を放つこと。いろいろな車両に乗っているが、魅力的なアメリカンV8らしい、しかもレーシーな音質を聞かせてくれるのは、このクルマだけである。他車においても、それぞれにV8サウンドを発するが、走っていて常に心地よく浸れるのはGT500だけである(そのベースとなるマスタングもかなり良好)。
まあこれに関しては、個人的な嗜好もあるとは思うので、個人差があってしかるべきとは思うが、エンジンサウンドに限って言えば、近年のモデルにおいてはこのGT500を超えるものはないと断言する(その昔デトマソパンテーラを取材した時に体感した生々しいサウンドとかなり似ているし)。
その3、やっぱりパワーが凄すぎる。街中の信号から信号までを力強く加速すれば、「まるでワープ」と言ったら大げさかもしれないが、そのくらいの感覚に近い加速が味わえる。自分の世界に浸るじゃないが、めちゃくちゃ楽しい。
今や4ドアセダンのCクラスベンツあたりでも、AMGとなると500hp後半が当たり前というから、世の中的にはこのシェルビーGT500をもってすら、それほどのタマじゃないのかもしれないが、それでもリアルに発せされる低速からのパンチ力にはやっぱり一日の長があり、ホイールスピンさえなきゃ(ギアシフトのミスもなきゃ)、信号グランプリにおいてはスーパーカーにも負けないだろう(敵は今やATだから微妙かもか…)。
最後に。このクルマが最高に楽しいのは、7〜8割程度の力を駆使して適度な曲がりのワインディングロードを走っている時である。絶品のレーシーなサウンドに浸りながら余力を残して走っているにもかかわらず、他車に比べて圧倒的に速い…。格別なドライブであろう。
いや〜欲しい。このクルマ、アメリカンマッスルの象徴のようなクルマである。すでに絶版車だからカラーは選べないけど、デザインがとにかくステキである。C7もいいけど、こっちのが安いし、いざという時の4人乗りだし。しかもレアだし。人生一度は500hp越マッスル。コミコミ600万ちょいなら、決して夢ではないだろう。
330,000円
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