TEST RIDE

[試乗記]

2020年での生産終了により価値爆上がり

2017 フォード シェルビーGT350

BCDによる走行2300キロの奇跡の個体

ラインナップ中から唯一無二の存在感を発していたGT350は、生産終了したにもかかわらず価値が高騰し、同時に価格も高騰するほどの大人気である。そんな中での走行2300キロという低走行個体を取材した。

更新日:2022.01.22

文/石山英次 写真/古閑章郎

取材協力/BUBU / ミツオカ TEL 0120-17-2290 [ホームページ] [詳細情報]
     BUBU横浜 TEL 045-923-0077 [ホームページ] [詳細情報]

近年のフォード車を代表する高性能車

 シェルビーGT350は、2016年に登場した近年では稀に見る高性能モデルであり、しかもフォードにとっては生産に手間のかかる存在だった。

 たとえば、フロントセクションの一部にカーボンパーツを使用し、ノーマルマスタングとは別構造になっている。

 これにより高剛性と軽量化を実現しているわけだが、しかしそれによりすでにマイナーチェンジで変更されているフロントマスクを採用することができず、マイナー前のマスクのまま生産され続けていた。だがそれは、現行のGT500でも使えるからまだいい。

 一方で、エンジンは5.2リッターV8NAエンジンで526hp、最大トルク429lb-ftを発生させ、レブリミットが8250rpmと、アメ車としては異例の高回転型ユニットであった。この高回転を実現するためにフラットプレーンのクランクシャフトを採用し、しかも手組みである。

 要するにGT350のみの専用設計されたマシンだけに売れば売るほどフォードにとってはコストの面で合わない存在であった。だがデビュー当初はそれでもよかった。が、次第に負担になっていったのは想像に難くない。

▲旧マスクベースに開口部のデカいグリルや各部インテーク類のエア導入口が特徴GT350。

▲太いタイヤやデカいブレーキローターもGT350の証。

▲フロントセクションの一部にカーボンパーツを使用し高剛性を実現。だがノーマルマスタングとは別構造になっているから、マイナーチェンジ後にもフロントマスクの変更ができないという事実があった。

専用設計ゆえに4年間の限定モデル

 シェルビーGT350は、2016年に登場し2020年のたった4年にて生産終了となったわけだが、こうした諸々の個性が逆に仇となってしまったと言っても過言ではなく、裏を返せばこうした専用設計のマシンだけに希少価値が高く、当然乗ってもスペシャルな感覚で満たされる。そもそも8000rpm以上回るV8エンジン自体が稀なのだから。

 また個人的には、レカロシートが本気で似合う唯一のアメ車だと思っている。

 レカロシートとはドイツ製のシート。世界最高峰と自他共に認める超逸品で人間の身体構造や生理的特徴、そして体の動きなど、「座る」ことに関するあらゆる知識が導入されたシート専門のスペシャリストが製作したシートだけに、世界中のパフォーマンスモデル御用達アイテムと化している。

 だが。それ以前のアメ車にはこうしたパフォーマンスシートが必要というわけではなかった。

 直線をダッシュするのにホールド性を気にする必要はなかったからである。=アメリカ本国だけでの物の考え方を遂行している間は、そういったスペシャルなシートというよりは、ソファーのようなフカフカなシートこそ最良と、まったくもって必要としていなかったのである(シート=ソファー(笑)もまたアメ車の魅力だが…)。

 しかし、ワールドワイドなパフォーマンスを狙い、実際にそれを手に入れた近年のハイパフォーマンスマシンにとって、すなわちシェルビーGT350にとって、ハードコーナリングを支えるシートの重要性が高まったのはいわずもがな。その矛先がレカロに向いたのは自然の成行きだったに違いない。

 すなわち、レカロが付いてるアメ車とは、自らの性能を誇示しているのであって、自信の現れでもあるのだ。

▲激しいコーナリングGにも耐えうるようなマシンに必須のレカロ製バケットシート。特にGT350にはレカロのバケットシートがよく似合う。

▲搭載されるフォード謹製5.2リッターV8NAエンジンは、526hp、最大トルク429lb-ftを発生させる。レブリミットが8250rpmとアメ車としては異例の高回転型パワーユニット。

▲エンジンを組み上げた担当者のネームが刻まれたプレートが貼られている。

唯一無二の刺激的なアメリカンマッスルカー

 少なくとも近年の箱型マッスルカーにおいて、ここまで作り(軽量化&ハイパフォーマンス)を極めた車両はGT350をおいて他にない。もちろん2015年のカマロZ28はライバルとして名を残す存在であるが、作り込みの精度において勝ち目はない。

 プラスして筆者がこのクルマが好きな理由は、とにかく唯一無二の雰囲気を発していること。そして締め上げられたアメリカンマッスルカーであるということ。

 ビッグパワーで圧倒するマッスルカーとは一味違う俊敏なマッスルカーの感覚が走らせれば伝わってくるし、この感覚は例えばマツダロードスターとも違うし、ダッジチャレンジャーヘルキャットとも違う。エンジンの息吹も含め、本当に唯一無二の存在だけにめちゃくちゃ刺激的であり、そこに物凄く惹かれるのだ。

 さて、このGT350であるが、上記した通り2020年で生産終了となっており、しかもアメリカ本国での価値が爆上がりし1000万円以上の値札をさげた販売個体が存在しているほどである。

 またコロナ禍によって新車の生産が減少したことで中古車市場が賑わいを見せたことによって中古車価格が高騰。当然GT350も同様に価格高騰となっている。

▲ステアリングの持ち手部分がスエードになるなど変化が加えられハード&レーシーな雰囲気がGT350のコックピット。

▲8000rpmを超えるV8エンジン自体が珍しい。しかも走行距離も2300キロ弱と奇跡的な個体。

▲センターコンソールに配置される油圧、油温メーターによって温度管理が必須。

BCDならではの奇跡的な個体

 そんな中でBCDが仕入れた1台がこれ。2017年型走行2300キロの個体。はっきり言って奇跡の1台とも言える存在。すなわちこれだけの低走行距離の個体が見つかることが自体が珍しい。

 くわえて日本市場ではまず見つからないし、他店ではそもそも取り扱い自体がほとんどないから、「今、欲しい」と思ってもなかなか買えない状況だけに、こうした個体が直輸入されたこと自体に驚いた。

 「BCDならではの仕入れによるものです」

 これまで何度も述べているが、BCDは現地に支社を持ち、BCD社員スタッフが存在しているから現地での動向把握のレスポンスが早い。

 しかも気になる車両が見つかれば即見に行くことが可能であるから、いわゆる「出物」に出くわすチャンスが多い。そしてそのまま車両の状態確認ができるわけだから、良い個体があれば逃すことが少ない。

 今回のGT350も常にアンテナを張り巡らせていたことが功を奏し、見つけ出すことができたらしい。

 なお、この個体はブラックカラー一色であり、センターストライプが入っていないからパッと見マスタングGTに見えなくもない。

 が、実際に走らせれば抜群に速いという羊の皮を被った狼的な雰囲気もいい。もしくは後日、好みのストライプを追加するという楽しみもあるし、それによって雰囲気を変えることも可能だろう。

 しかも走行2300キロだから、(エンジンやミッション等のためにも)慣らしから始められるという楽しみもある。内燃機関最後のアメ車のとして是非ともオススメしたい。

▲ミッションは、ストロークが短いスポーティなもの。低速走行時はクラッチの上下動のみで動かすことが可能なほどコントローラブル。

▲前後19インチタイヤにブレンボ社製大径ブレーキの組み合わせ。ブレーキローターはマジでデカい。

▲近年のフォード車の中でも旧シェルビーGT500とこのGT350の価値は高く、日本においてもこの2台に乗れたならオーナー冥利に尽きると言えるだろう。

本国でも大人気の旧シェルビーGT500とGT350

 余談だが、どうやら自動車業界は、クルマに求める感覚性能を捨てEV時代へと本気で舵を切った模様である。欧州が先陣を切ったが、アメリカもその流れに乗るつもりらしく、先日GMは「2025年までに30車以上のEVをグローバルで発売する計画を立てている」と公式発表していたから、2025年以降は一気にその流れが加速しそうである。

 くわえてチャレンジャーのみならず、カマロも2024年で生産終了という報道すらある(あくまで噂)から、ガソリンエンジン搭載車に未来はなく、ちょっと大げさに言えば、現行型新車と今世に出ている中古車からしか選べない時代が確実に来る。

 となれば、GT350のような8000rpmも回るV8エンジン(それをMTで扱う存在)の希少価値はより一段と高くなり(現状でもかなりの高額ではあるが)、数年後には今の1.5倍、もしくは2倍に価格が跳ね上がることも予想される。

 というか、そんな下世話な話以前に、マスタング系のアメリカンハイパフォーマンスを体感したければ旧シェルビーGT500とこのGT350は何としても味わいたい!

 BCDにも旧シェルビーGT500からGT350への乗り換えが実際に複数あったというし、個人的にもこの2台に乗れたならアメ車オーナー冥利に尽きると思う。

 旧GT500とこのGT350とフォードGT(05−06)は本国での価値が極めて高いのだ。

 GT350は4年間限定モデルということで生産台数が少ないこと、個体があったとしてもハイパフォーマンスモデルだけに状態が気になること、さらに購入後のメンテナンスを含めたアフターを考えると、もはやBCD以外では入手不可能とまで断言できるのである。

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