店頭でしばらく待つと数百メートル先から聞こえるエキゾースト。そして30メートル手前から感じる車体のオーラ。まるで皇族等のお偉いさんが乗っているシーンを昔の映像で見ているかのような幻想的な雰囲気。
そう、取材車は1951年型のシボレースタイルライン。個人的には初めて見たフィフティーズであり、そもそも日本に何台あるのだろう? そのくらい珍しい個体ではないか。
というのも71年前の車両である。しかも平日の一般道を何ら気にすることなく走っている姿に、めちゃめちゃ違和感を感じたのである(笑)
この仕事をして25年以上経つが、こう言った旧車の取材とはだいたいが土日である。交通量が少ないからストップ&ゴーの割合も少なくなり=車両の負担が減るであろうという想定のもと行われている。
が、この日の取材は火曜日。普通に街中を走り、国道246を走り、そして最後は狭い住宅地を走ったが、全く問題なく走りきった。
「走りきった」とは失礼な言い方だが、正直、取材中に何らかのアクシデントに会う可能性も捨てきれてはいなかったのだが、実際には全てが杞憂に終わった。そして何事もなく走ってくれたことに感謝とともにこの個体の性能を実証した感じであった。
で、まずはスタイルラインとはどんなクルマか。1945年の終戦後にシボレー待望のフルモデルチェンジが行われる。それが1949年で、その時誕生したのがスタイルラインとフリートライン。それぞれに「スペシャル」と「デラックス」が用意され、今回取材したのがスタイルラインの「デラックス」。
スタイルラインには「スペシャル」と「デラックス」とで複数のボディバリエーションが存在し、「デラックス」には2ドア、4ドアセダン、2ドアスポーツクーペ、2ドアビジネスクーペの他に2ドアコンバーチブルと4ドアウッディワゴン(スチール)が加わっており、これまた今回取材したのが4ドアウッディワゴンになる=スタイルライン「デラックス」ワゴンである。
搭載エンジンは、3.5リッター直6OHVで90hpを発生させ、当初は3速MT車のみであったが、1950年に2速パワーグライドが追加される。これ、シボレーが開発した世界初のオートマチックであり当時世界中から絶賛されたもの。そして翌年1951年には3.8リッター直6OHVがオプション設定される。ちなみに100hpだったという。
今回取材した個体には、そのオプションの3.8リッター直6OHVエンジンが搭載されミッションは2速パワーグライドである。聞けば、現代の交通事情でも100キロ程度の速度は出るらしく、日本の高速道路でも十分に走れるそうだが、前オーナーさんは80キロ程度で流す感じで高速道路を走っていたという。
まずはこのスタイルラインがどうやって日本にやってきたのか。それは現オーナーさんがアメリカを旅行した際に現車を確認し、それまで約13年乗ったジープワゴニアの後釜にしようと考えたことから始まった。
ワゴニアはエイブルにて整備しており、その時から原氏と懇意にしていたことから輸入を依頼。そしてエイブルがアメリカからの輸入代行とナンバー取得を行っている。
そして今回の取材のように1951年の車両を日本の道路で走れるようなメカニカル状態にしたのもエイブルである。
とはいえ、最初から完璧な状態ではなかったのは言うまでもない。最初に登録された2018年から約1年半くらいは日本の道路事情に合わせて走れるようなコンディションにするための試行錯誤が続く。
というのも、このオーナーさん、このスタイルライン1台で生活しているから。「普通に走れる状態」という願いを叶えるための作業が必要だったのである(以下、これまでの作業歴)
・エアコン取り付け
・ラジエター交換
・電動ファン取り付け
・MSDシステム
・オルタネーター
・キャブレター交換
・エアクリーナー交換
・ステアリングアライメント調整
・センターアーム修正
・エンジンマウントブッシュ交換
・リアシャフトベアリング交換
・フューエルタンク交換
・フューエルライン交換
・リアモニター付きドライブレコーダー
・右デジタルミラー
・ETC
・スピードメーター調整
・電圧メーター
・シートベルト
・フードオーナメント
・バックランプ
・ポジションランプ
・ワイヤーハーネス交換
・ブレーキシリンダー
・ドアロック修理
・ライターソケット
・ウインカー
・ワイパーモーター
・燃料ポンプ
etc
ざっとまとめると、燃料系が一新され、ワイヤーハーネスを一新し、オルタネーターも交換されているから燃料部分と電気がしっかり回り稼働している。そしてエンジンマウントも交換され、足回りのリンケージやブッシュ関連もリフレッシュされ、アライメントも調整されているので、しっかり走る。
それ以外は快適性や現代の交通事情に合わせた装備品の追加となるが(エアコンは輸入前にアメリカで装着)、とにかく基本部分がしっかり稼働するように手が加わっているのからこそ、平日の街中を最新の2020年代車とともに走ることが可能だったのである。
そしてこの車両は、まるで現代車のように平日の買い物から週末のドライブにも使用されており好調が維持されたまま、家庭の事情により売却が検討されるということである。
オーナーさん曰く「最初は想定以上の困難にくじけた時もありましたが、この2年半くらいは快調そのものです。ですが、パワステはありませんし、ブレーキにも力が要りますから乗ると非常に疲れるのですが、こんなデザインのクルマで毎日走れること自体が貴重ですし毎回感動ものです。特にウッドで覆われている室内空間はこのクルマ特有のものなので、非常に素敵だと思っています」
通常、こう言った旧車に関しては、骨董品的な価値を認めて入手し車庫に置いて眺めておきたい場合もあれば、ガンガン乗りたいタイプもあり、またそれらの中間の方もいると思われる。
で、個人的には今回のスタイルラインはまさしく前者の骨董品的価値が高いタイプであると思われるから、仮に飾っておくだけでもレアな個体ではないかと思う。それが、ある程度普通に街中を走れるというのだから、より貴重な存在だと思うのである。
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