インパラSSは1994年に登場し、専用パーツとブラックカラーで統一されたスポーティな雰囲気がウリの高性能FRセダンだった。
卓越したエアロダイナミクス、エレクトロニクス、安全性、人間工学という90年代の最新技術が駆使され、60年代から70年代にかけてのシボレースーパースポーツ(SS)モデル、いわゆるマッスルカーたちが持っていたスピリットを引き継ぐクルマとして登場したのである。
ブラックで被われたボディには、同色のモールディング、専用デザインのラジエータグリル、リアスポイラー、インパラSSエンブレム、そしてP255/50ZR17のハイパフォーマンスタイヤとアルミホイールが奢られ、一種独特のムードを放っている。
インテリアでは、兄弟車であるカプリスがベンチシートの6人乗り仕様なのに対し、後年のインパラはフロアシフトとセミバケットタイプのセパレートシートを持った5人乗りのモデル。
インパネもデジタルではなくアナログメーターが与えられた。また、トランスミッションは4L60‐Eと呼ばれる4速オーバードライブ付きATが搭載されたが、94、95年がコラムシフト、96年からはフロアシフトへと変更されている。
インパラSSのもうひとつの特徴、それはコルベットにも搭載されていた5.7リッターLT1V8エンジンが搭載されていたこと。当時ではかなりパワフルな260hpものパワーが発揮されたスーパーセダンだったのである。
ちなみに、前述した兄弟車であるカプリスとのメカニズム上の差は、大容量のクーリングシステム、トランスミッションオイルクーラー、より高いボディ剛性を実現するヘビーデューティフレーム、ド・カルボン式ショックアブソーバー、ローダウンスプリング、LSDなどを備えていたことである。
兄弟車であるカプリスのスポーティ版という位置づけでもあったインパラだが、カプリスが生産中止となったことで、合わせて1996年に消滅。
つまり1994年に登場し1996年に製産中止という、たった3年間のみの超短命なモデルであった。だがその人気は今なお高く、一部では「伝説の名車」として崇められているほどである。
個人的にもこの時代のインパラSSが醸し出す独特の雰囲気だ大好きだった。普通に乗っていてもちょっと強面に見える、一種独特のムード。
だがその一方でアメリカ的おおらかさとスポーティセダンとしてのハンドリングを備える絶妙なるセッティング。
そして今の時代のクルマ造りの原理原則では決して生まれない薄くて滑らかなボディライン。「古き良き」時代の産物まで振り返らなくとも、十分過ぎるほどアメリカンを体現している1台である。
当時はギンギンにカスタムした車輌ばかりが目についたものだが、もし程度の良い車輌があれば今ならノーマルで乗っても面白いだろうとホンキで思う。なんせ今の時代にはあり得ないほど大人っぽいセダンなのだから(機能的にはまだまだ十分現役でいけるし)。
と思っていたところ、絶妙なタイミングでインパラSSを所有しているエイブル代表の原氏から連絡が入った。実は「SSに少し手を入れて自分で乗る」というのである。
個人的にも大好きな車輌であるし、90年代のサードカマロを生き返らせる術を知っているエイブルがインパラをどう仕上げるのか? にも興味があるし。早速うかがって話を聞き、作業を見せていただいた。
原氏が所有しているインパラSSは96年型。つまり最終型のフロアシフト仕様である。現状でビルシュタインショックが入って約2センチ程度のローダウンがなされている以外はフルノーマルである。
今回このインパラSSに乗るにあたりエイブルがあげたいくつかのポイントのうち、大きな柱となるのがアメリカンセダンとしての「乗り心地」とスポーティセダンとしての「ハンドリング」の両立。つまり、年式&走行距離および経年変化における劣化部分を解消し、その後味付けとしていくつかのパーツを試してみるというもの。
ちなみに、まずは「乗ってどうなのか?」を第一とするために、エクステリアその他に関してはすべて後々、ということになった。まずは何よりも「楽しく走れなければ意味がない」というスタンスである。
「多くの方が誤解しているかもしれませんが、こういった古めの車輌の足回りを蘇らせるときに必要なのはショックを新しくしたり固めたり、またはコイルを換えたり固めたりするチューニングではないんです。本当に必要なのは、各部の劣化部分をひとつひとつ直してあげること。今回でいえばハンドリングをつかさどる各部パーツをリニューアルしてあげることなんです」
エイブルが得意とするサードカマロ等のこれまでの実績と経験を踏まえた上で、インパラに施す作業も当然ながらハンドリングの関節部となるステアリングリンケージ各部のリニューアルだった。センターリンクにタイロッド、スリーブ、ボールジョイント上下、アイドラアーム等。
こういった各部の交換は、修理ではなく、レストアでもなく、単純に、長い目で見た定期交換部品に過ぎないという。しかも思っているほど高価な作業ではないから嬉しい。
「2、3年で交換しろとは言いませんよね。ただ、サードカマロでもそうですが、そろそろ20年車になろうかというようなアメ車に関していえば、効果てきめんですよ。ちょっとずつのガタでも、20年経てばガタガタになっていることが想像できますよね?」
筆者は、サードカマロの交換作業後の車輌に試乗した経験があるから想像がつくが、だが果たしてインパラSSにおいても同様にシャキッとするのであろうか? ということで、交換作業に入った。
そして終了後、早速試乗させてもらった。まずは交換直後ということで、正確なアライメント調整を受ける前段階ということを先に明記しておく。
まず最初に感じるのが、もの凄い機敏なクルマであるということ。長年培ってきた「アメ車=このくらい」といった動きの反応よりも数段素早く機敏に動く。そしてだからこそ、インパラが一回り以上小さいクルマに感じられる。すなわち狙った通りに動く(ステアリングのデッドな領域がかなり減少している)。
正直、「他のこともしたんではないですか?」と疑いたくなるくらいの動きの正確さ。この動きだけを見れば16年前のクルマとは到底思えない身のこなしである。もともとビルシュタインが入っており、この影響も多少はあるだろうが、基本ショックは上下動を制御するパーツだけに、ステアリングを右に左に切った時に影響を及ぼすのは、やっぱりステアリングリンケージ部分なのである。
「これが本当のインパラSSなんだよ」と原氏はいうが、まさしくその通り。ノーマル状態のまま、劣化パーツを新品に交換しただけなのだから。
その後の試乗も驚嘆の連続だったが、特に驚くのがわだちや段差でのふるまい。ステアリングが取られることもなく、ぶるぶるガタガタといった嫌な振動もまったくない。格段に洗練されているクルマに乗っているような印象をもたらしてくれる。過去においても、ここまでのインパラには乗ったことがない(というかここまでのアメ車のにも乗ったことがない…)、それほどの衝撃だった。
後日、このインパラSSはアローバにてシム調整にいたるアライメントのチェックを受けて、さらに255/50/17インチの標準仕様をあえて235/55/17(外径は合わせてある)という肉厚サイズに変更してセッティングしている(後日試乗して変化を報告します)。
「イマドキの大径、肉薄タイヤもいいんですが、まずはオリジナルのクルマの性格に合わせた大人仕様ということでセッティングしてみます。このセッティングが決まればこのまま行きますし、ダメならもとに戻してみますので」
このエイブルの大人仕様のインパラSSを仕上げ中に、実はこの車輌に影響を受けたもう1台の95年型インパラSS(オーナーカー)が足回りの作業を受けることになった。この作業を含めた一連の流れについては、また次回ということで。
つづく
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