初代BOSS 302が登場したのは1969年。当時のトランザムレースにおいて68年にチャンピオンを獲得したカマロの対抗馬として登場したのがBOSS 302だった。当時のBOSSは、69年70年と2年間のみ販売され、70年には見事チャンピオンを獲得している。
そういった伝説を持つ過去のネーミングを復活させたのが、この2012年型BOSS 302となる。過去の伝説からもわかるように、いわゆるレースモデルなわけで、今回復活(あえてそう呼ぶ)したBOSSにも、当然ながら走りを極めたレーシーなチューニングが随所に施されている。
まずエンジン。ベースとなっているのはGT用の5リッターV8。5リッターを立方インチに換算すれば302キュービックインチとなるわけで(BOSS 302)、そのベースにピストン変更や吸排気系のチューニング、最大回転数を引き上げるなどして、最高出力を440馬力にアップ(2011年当時のV8GTは412馬力)、トルクは380lbftとGTと同一だが、最大発生回転数が若干上がっている。
●BOSS 302:440hp/7400rpm 最大トルク380lbft/4500rpm
●V8GT:420hp/6500rpm 最大トルク380lbft/4250rpm(2013年型)
一方、GTよりもフロント、リアともにローダウンされ、アジャスタブルショックアブソーバー、強化コイル、強化スタイビライザー、ブレンボブレーキなどで固められた足回りに、3.73のファイナルレシオを持つLSDが組み込まれる等、走りのチューニングには余念がない。
こうして出来上がったBOSS 302に対して、フォードレーシングのフロントスプリッターやブレーキエアダクトが設けられ、さらにリアシートが取り払われ、そこにクロスメンバーを取り付けたことで剛性が10%向上している……、といわれるのがBOSS 302ラグナセカである(つまりBOSS 302とBOSS 302ラグナセカとは内容も性格も異なるので注意が必要である)。
室内には専用のバケットシートが奢られ、インテリアダッシュには水温、油音等の3連メーターが追加されるなど、かなり硬派な印象である。さらにスプリングレートやスタビライザー径はBOSS 302を上回っていると言われている。まさしく過去伝説になっているBOSS 302を彷彿とさせるレーシーぶりである。今回は、このBOSS 302ラグナセカの公道試乗である。
余談だが、このクルマが開発された時点でのベンチマークがBMW M3だった。またカリフォルニアにあるラグナセカサーキットでは、アウディR8やポルシェ997ターボS、メルセデスベンツSLS AMGといった世界の強豪たちのラップタイムを上回っている。これだけでもフォードの本気度が分かるというものだ。
ラグナセカに関しては、これまで過去にサーキット走行などをしているシーンを何度も取材しているので、さぞ乗りづらいマシンではないか、という予想はしていたものの果たしてどうか?
まずエンジンであるが、ノーマルよりも高回転型にチューニングされている印象がはっきりと伝わる上に、排気音がもの凄くレーシーなものだった。GTでは、走り出した瞬間から高回転まで、どちらかというとフラットな印象が強いが、302は回転を上げるごとにパワー感がはっきりと変わる、かなりメリハリの利いたエンジンである。
高出力NAエンジンらしいメカニカルなエンジンサウンドやピックアップのキレの良さなども特筆ものである。さらにクロスレシオの6速MTの操作性も良く、このエンジンとのマッチングが最高に楽しい。シェルビーGT500ほどの速さはないが、キレの良さなら確実に302だろう。
一方動きはライバルと目されるマッスルカーよりも一回り小さく、ガッチリ固められたボディとチューニングされた足回りによって、軽快感が二回り以上増し、乗り心地も予想以上に良かったことに驚いた。いまどきの箱形スポーツマシンで車重1600キロ台というのは、驚異的に軽い。
<パワー/車重比較>
●BOSS 302 ラグナセカ:444hp/1649kg
●ダッジチャージャーRT: 370hp/1929kg
●チャレンジャー392:470hp/1891kg
●キャデラックCTS-V:564hp/1940kg
●コルベットZR1:647hp/1490kg
●カマロV8SSRS:405hp/1780kg
サスペンションなどのセッティングは確かに固めなのだが、「一般道では苦痛」というほどのものでない。過去の経験を思い起こしてみても「想定の範囲内」。少なくとも、アイバッハなどのローダウンサス&スポーツダンパーや肉厚の薄い偏平タイヤに乗り馴れている人なら、それほど乗り心地が悪いとは思わないのではないか(ボディがシッカリ振動を受け止めるし)。それにクラッチなどの操作性も国産車なみに扱えるので、まったく難なしだ。
巷では「BOSS 302をさらにハードにしたレース仕様車」といった見解も見受けられるが、ガチガチに固めた足というのとは少し違う。「しなやかに固い」というのが正解だろう。まさしくストリートでも十分に使える範囲のセッティングである。
今回は主に街中を一般車に混じって普通に走ってみたが、それでも魅力は十分に伝わるし(個人的にはボディのカラーリングがちょっと派手過ぎるので気が引けるのだが)、マシンとしての能力とクルマ好きが悦に浸れるパフォーマンスカーとしての魅力が高次元にまとめられていることがよく分かる。
高度にチューニングされた302キュービックインチのV8NAエンジンに剛性の高いボディ、さらに強化された足回り……。これをクロスレシオのマニュアルミッションで操るのだから、面白くないわけがない。MTなので、どっからでも瞬時に加速するし、ブレンボブレーキがキチっと減速するし、強化された足回りによって安定したコーナリングが可能。
ラグナセカは、同じスポーツモデルでも、シェルビーGT500とはキャラクターがかなり違う。もちろんノーマルのV8 GTとも違う。大排気量のアメリカンスポーツカーには似つかわしくない言葉だが、まさしくピュアスポーツカーといった感じである。しかもその良さは、街中の運転でも味わえるというのだからさらに一層魅力的である。運転が好きな人、スポーツ走行が好きな人には最高のモデルじゃないかと思う。
伝説のBOSS 302は2年間の発売であった。今度のBOSS 302も同じように2012、2013年の2年間しか発売されなかった。すでに絶版中古車として入手困難な車両となっただけに、欲しい方はなるべく早く手に入れる算段をつけたほうがいいだろう。
なお「BOSS 302」と「BOSS 302ラグナセカ」との間には、装備や性格の違いはあれど、搭載されるエンジンは同一である。ストリートでのファントウドライブのみを味わいたければ、「BOSS 302」という選択も当然ありであるし、そちらの方が中古車のタマ数も多い。
<関連記事>
>> マスタング BOSS 302 ラグナセカ パフォーマンステスト_その1 を見る
>> マスタング BOSS 302 ラグナセカ パフォーマンステスト_その2 を見る
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