シェルビーGT500とは常に進化し続けたマシンであった。だからこそ、購入者にとってはじつに悩ましいクルマだった。
2009年型GT500のマックスパワーは500hp、2010年型は540hp、2011年型は550hpとなり、2013年からは排気量が5.8リッターへ格上げされ、オールアルミ製V8スーパーチャージャーによって一気に112hpアップの662hpへ。
「一体どれを買えば良いのか、いつ買えば良いのか」、シェルビーGT500だからこその最高パフォーマンスを手に入れたいがために、迷った方も多いはずだ。
だが、ついにこれで終了である。ベースとなるマスタングのモデルチェンジよって、次期型にシェルビーは存在しない。すなわち2014年モデルこそ最終モデルとして随一の完成度を誇っているのである。とはいえ現状、この記事が世に出る頃には、正直新車が手に入るか分からない。程度の良い中古車なら間違いなく手に入るが、新車となると保証の限りではない…。あしからず。
ということで、最後の最後に試乗させてもらった。
このクルマを語る時に、コストパフォーマンスの面ばかりを取り上げ、「安くてパワーがあるからいい」みたい感想を語る方が多いが、それだけがこのクルマの本質ではない。
このクルマの価値は、過去アメリカンマッスルと言われる歴代旧モデル達ように、シャシーを超えるようなパワーを持ち、それを自らの腕っぷしで操る実感が得られること自体が最大の魅力なのである。すなわち、古典的なクルマが持つ「危うさ」みたいな魔力である。
決して悪い意味ではない。たとえば日産GT-Rに象徴されるデジタルデバイスで徹底管理されたスポーツカーが幅を利かす時代にあって、シェルビーGT500が乗り手にもたらす世界観は、古き良きアナログの感触が色濃く残されている。
それは、あくまでドライバー主体のドライビングプレジャーであって「乗せられている」のではなく、「自分が操っている」という感覚が非常に強い。しかも、アメリカならではの箱形ボディである。スポーツカーではない、マッスルカーを操るのである。
思いのほかゆったりとしたバケットシートに腰を下ろし、エンジンを始動する。最高出力662hp、最大トルク631lb-ftというスペックは、乗り込む前の予備知識としてはドライバーをびびらせるに十分な脅し文句として機能する。だって、あのSRTバイパーですら640hpなんだから…。
重たい反力を持つクラッチを踏みギアを1速へ。シフトは、コルベットのようなストロークの短いスポーティなものではないが、ベースとなるマスタングと同様な感じのゲートが明確でカッチリしたものだ。それでも小気味良くシフト可能であり、十分スポーツ走行に使える代物である。個人的には、マッスルカーにはこういった明確なフィールが好ましいと思う。
走りだしての驚きその1が、簡単にスタート可能であること。十分な低速トルクとクラッチの繋がりの良さが相まって、誰でもいとも簡単にスタートできる。個人所有のクルマはすべてマニュアル車だったために、クラッチ操作にはうるさいのだが、アメ車のマニュアル車は基本どれもこのクラッチ操作が楽である(ちなみにイタリア車とか癖のあるクラッチだと乗りづらい時が多々ある)。特にGT500の場合、パワーがあるだけに、クラッチ操作に難しさがあるかと思いきや、まったくそうではないことに驚いた。
その2、走りだした瞬間からじつに心地よい音色を放つこと。いろいろな車両に乗っているが、魅力的なアメリカンV8らしい、しかもレーシーな音質を聞かせてくれるのは、このクルマだけである。他車においても、それぞれにV8サウンドを発するが、走っていて常に心地よく浸れるのはGT500だけである(そのベースとなるマスタングもかなり良好)。
まあこれに関しては、個人的な嗜好もあるとは思うので、個人差があってしかるべきと思うが、エンジンサウンドに限って言えば、現行モデルにおいてはこのGT500を超えるものはないと断言する(その昔デトマソパンテーラを取材した時に体感した生々しいサウンドとかなり似ているし)。
その3、やっぱりパワーが凄すぎる。街中の信号から信号までを力強く加速すれば、「まるでワープ」と言ったら大げさかもしれないが、そのくらいの感覚に近い加速が味わえる。聞けば0-60mphが3.5秒、最高速が305km/hオーバーというから、その実力は折り紙付きだ。
今や4ドアセダンのCクラスベンツあたりでも、AMGとなると500hp後半が当たり前というから、世の中的にはシェルビーGT500をもってすら、それほどのタマじゃないのかもしれないが、それでもリアルに発せされる低速からのパンチ力にはやっぱり一日の長があり、ホイールスピンさえさえなきゃ(ギアシフトのミスもなきゃ)、信号グランプリにおいてはスーパーカーにさえも負けないだろう(敵は今やATだから微妙かもか…)。
ちなみに、これだけのパワーが秘められたボディは、シッカリと強化されており、スーパーチャージャーの効率が改良されたほか、インタークーラーも大型化され熱対策が万全。さらにはドライブシャフトをカーボンファイバー製としデュアルディスククラッチ等を採用することで、エンジンや駆動系を入念に強化しているという。
また足回りはビルシュタイン製の減衰力調整式ダンバーやブレンボ製6ピストンブレーキ、20インチ鍛造ホイール等を採用し、トータルバランスを重視した強化がなされている。それはもう単なるチューニングカーのレベルを超えているといってもいいだろう。
最後に。このクルマが最高に楽しいのは、7〜8割程度の力を駆使して適度な曲がりのワインディングロードを走っている時である。絶品のレーシーなサウンドに浸りながら余力を残して走っているにもかかわらず、他車に比べて圧倒的に速く、だがそれでいてクルマ自体が破綻しない程度のレベルの走りであって…。そんな領域でも筆者にとっては格別なドライブであった。
いや〜欲しい。このクルマ、アメリカンマッスルの象徴のようなクルマだわ。色はシルバーに赤いストライプがいいか、それとも赤に白いストライプがいいか(でも新車はもう買えないのか…)。C7もいいけど、こっちのが安いし、いざという時の4人乗りだし。すでに生産終了で、レアだし。しかもマッスルカーだし。カマロZ28がまだ出てこないから、とりあえずコイツにしとこうか。人生一度は600hp。そんなパワーのクルマ、ちょっと夢みたいだわ。
330,000円
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