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遅咲きの名車たち vol.1

リンカーン ブラックウッド (LINCOLN BLACKWOOD)

当時評価されなかった高級ピックアップ

アメ車の中にも名車と言われるクルマたちが過去、数々あった。そういうアメ車たちは当時から称賛されまくったが、じつはその一方で、デビュー当時の評価は良くなかったが、時が経った今だからこそ再評価されるアメ車たちもある。そんな遅咲きの名車たちを探し求める企画である。

更新日:2016.02.25

文/椙内洋輔 写真/フォード

リンカーンナビゲーターベースのトラック

 1998年に登場した初代リンカーンナビゲーターこそ、アメリカンSUV史に燦然と輝く名車中の名車である。

 このクルマに続きキャデラックからエスカレードが登場し、その後あらゆる自動車メーカーから続々と巨大SUVが登場するきっかけを作ったのだ。いわゆるラグジュアリーSUV活況の時代である。

 じつはナビゲーター登場の翌年、1999年のデトロイトショーで1台のピックアップトラックが登場した。これまたリンカーン発のトラック、その名もブラックウッドという。

 リンカーンブランドのいわゆる高級ピックアップトラックということだが、当時はコンセプトカーということで、誰もが参考出品程度にしか思っていなかった。というのも、ピックアップこそ実用車、使い勝手良く、ランニングコスト安く、気軽に乗り回せる…といった機能重視のトラックがほとんどであり、ピックアップに高級を求める必要はなかったからである。

 ところが…。2001年にリンカーン ブラックウッドがデビュー。高級車造りに長けたリンカーンならではの豪華極まりないトラックとして、一躍時代の寵児となった。ちなみに、このクルマの後に、これまたキャデラックからエスカレードEXTがデビューする。この時代のキャデラックは、すべてにおいてリンカーンの後発だったのである。

搭載されるエンジンは、5.4リッターV8DOHC。300hp発生させる。このエンジンは、ベースとなっているナビゲーターに搭載されているものと同じ。

レザーとオークウッドで統一されたインテリアは高級車そのもの。ブラックウッドは5万2500ドルだが、ナビゲーションがオプション以外、フル装備だった。

実用性を考えると不可となるだろうが、独自性として捉えると俄然魅力的となるベッド。観音開きのリアゲートも珍しい。ベッドに美しさを感じさせるトラックというのはこのブラックウッドをおいて他にない。

リアから見るデザインにかわいらしさすら感じさせる。

前後重量配分50:50にこだわったバランスの持ち主

 2001年に登場したブラックウッドは、リンカーン独自の華美な世界に乗り手を引き込み魅了する、強引さ極まりないピックアップトラックだった。

 当時のピックアップトラックといえば、2万ドル前後の価格帯が中心だったが、ブラックウッドは5万2500ドルからの超高級車。

 ボディ&シャシーは、フォード150シリーズの4ドアスーパークルー4×2がベースだが、足回りにはリーフ&エアサスを使用し、搭載されるエンジンは、5.4リッターV8DOHC。300hpを発生させる。ちなみに、同ブロックを使ったV8はF150にも搭載されているが、あちらはSOHCヘッドの260hp版である。

 ラグジュアリーSUVの雄であるナビゲーターの顔を持つピックアップトラックは、コノリーレザー、オークウッドで埋め尽くされたキャビン、電動ポップアップ式のハードトノカバー等、これまでの常識を覆すプレミアムな装備を満載し、多くの人々を驚かせた。

 しかも、ピックアップにもかかわらずベッドに特徴があり、ベッド内部にはステンレスパネルが貼られカーペットが敷かれ、気軽に使えるものではなかったのである(笑)。だが、高級ピックアップとはこういうものだという主張ははっきりと見て取れる。荷台のピンストライプが何とも特徴的だった。

 このブラックウッドの最大のポイントは、じつはその走りだった。ピックアップトラックにもかかわらず、前後重量配分50:50にこだわったバランス、さらに補強された1枚構成のリーフスプリングとエアサスがもたらす走りは、ピックアップトラックとは思えないフラットライドを提供してくれる。

 さらに乗用車的なハンドリングを目指してチューニングされた速度感知識のパワステは、俊敏かつ剛性感の高いハンドリングを提供してくれたのである。

 こうしたブラックウッドの走りは、まるでベッドを背負っていることを忘れさせるほどタイトな乗り味だったのだ。

●全長×全幅×全高:5593×1981×1896ミリ
●ホイールベース:3518ミリ
●車両重量:2533kg
●総排気量:5408cc
●エンジン:V型8気筒DOHC
●最高出力:300/5000(hp/rpm)
●最大トルク:49.0/3600(kg-m/rpm)
●トランスミッション:4AT
●サスペンション:フロント/ダブルウイッシュボーン
●サスペンション:リア/エアスプリング+リーフリジッド

ピックアップトラックでいながらも前後重量配分50:50を実現して300hpのパワーをも受け止める剛性の高いシャシーと相まって、タイトな乗り味を提供してくれる。

乗用車的なハンドリングを目指してチューニングされた速度感知識のパワステは、俊敏かつ剛性感の高いハンドリングをもたらしてくれる。

アンチワインドアップバーで補強された1枚構成のリーフスプリングとエアサスペンションの組み合わせで、トラックらしからぬフラットライドな走りが可能となっている。

ブラックウッドは、プレミアム性を保つためにか、生産は年間1万台に限定されていたという。デビュー当時は、初期ロッドを数時間で完売したと言われていたが…。

10年早過ぎた? 本物の高級ピックアップトラック

 こうした流れをもって、ブラックウッドは果たしてどうなったのか? 2年後(2003年)に生産終了と早期撤退となったのである。その理由は1点のみ。ピックアップトラックとしての実用性の無さだった。

 ピックアップを買う層に対してはあまりにも高額であり、4WDの設定がなくFRのみという状況、さらに荷台の使い勝手の悪さも手伝って、結果的に一部の富裕層にのみ売れただけだった。

 もちろん、ナビゲーターのピックアップトラックとして世の中的には憧れの的ではあったのだろうが、その内容は「高嶺の花過ぎた」というのが現実のところ。まるでフェラーリを買うのと同じような気概が必要となれば、二の足を踏む方が多くいても仕方あるまい。

 しかし、ブラックウッド没後10年が経ち、いま改めて見ると「デビューが10年早過ぎた」と言えなくもないな、と思う。

 このクルマの凄さは、フォードF150のボディをベースとしていながらも、そこにリンカーンナビゲーターの機能各種を盛り込んで、さらにブラックウッド独自のアレンジを加えて造ったことにある。そこが、アバランチベースにキャデラックの顔と意匠を付けて安易に造られたEXTとの最大の違いである。

 つまり、ホンモノの「高級感」を目指して造られた最初で最後のピックアップトラックこそ、ブラックウッドだったわけである。

 ブラックウッド消滅後から現在までの状況をみれば、後にダッジラムにV10エンジン搭載のモンスタートラックが登場し、フォードにはラプターなるオフロード最強トラックが生まれ、シボレーの質実剛健トラック、シルバラードがモデルチェンジ、トヨタからは逆輸入車としてタンドラが大人気、さらにダッジから独立したラムトラックには、2013年からエアサスが装備され、いわゆる高級路線を歩みつつある…。
 つまり、ピックアップトラック、百花繚乱ともいえる時代である。

 もし今の時代にブラックウッドが存在したならば、それこそ評価はまた違ったのではないか。カーペットが敷きつめられた、まるでトランクのような荷台を備えたピックアップトラックが受け入れられた可能性は多いにある。そしてなにより、荷台に描かれたピンストライプは、ひとつのムーブメントとして、一世を風靡していたに違いない。

ステンレスパネルが貼られ、カーペットが敷かれたベッド。まるでトランクのようだ。トノカバーの開閉は電動である。

ピックアップと考えずに、ナビゲーターを4座にして、リアにトランクを付けたと思えば、意外に受け入れやすいかも(笑)。

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