カマロとフェアレディZの比較は、カマロにとっては少々役不足と言わんばかりの不満を、読者諸兄は持つかもしれない。まず価格。フェアレディZの約438万円に対しカマロの530万円。エンジンは、V6、336psのZに対し、V8エンジン、405psのカマロ。どう転んでもカマロの楽勝である。だが、旧型においてはそういう状況でさえ、勝ち目はなかったと言わざる終えない状況であったわけで、まずは仇討ちじゃないが、国産スポーツカーの雄フェアレディZと比較させてみる。
最新のカマロは、初代カマロのデザインにインスパイアを受け、そのデザインコンセプトを現代流にアレンジしたことで有名である。したがって先代のような流線型のスポーティカーといった風情ではなく、いわゆる箱形のパッケージにスポーティなエンジンやシャシーを組み合わせたアメリカ独自のマッスルカーというカテゴリーに属する1台である。
だからこそZにあるような人間とクルマが一体となった、いわゆる人車一体感などと言われるものは微塵もない。着座位置やそこから視線に入るボンネットの高さなどはスポーティそのものだし、インテリアも見違えるほど現代的にアレンジされているが、室内空間そのものがタイトではなく、「お洒落な空間」とも言うべき存在で、逆にそこがアメリカンマッスルの真骨頂でもあると言えるのである。
だが、走らせればステアリングの剛性感やブレーキのタッチ、また初期の入力後におとずれるロールの、その後にやって来るシャシーの粘りや安心感は、以前のカマロとは比べモノにならないほど高いものがあり、そういった一種のドライビングプレジャーは、まるでスポーツカーのような印象さえ与えてくれる。以前のような「ユルユルがアメ車の魅力」と捉えるならば、カマロの走りは異次元と言えるだろう。高アベレージでの走行においてはそれほどまでに安心感がある。
一方Zは、まさにスポーツカーと呼ぶに相応しい動きでわれわれを魅了する。その動きはシャープかつダイレクトであり、ステアリングを拳一つ分動かせばノーズは瞬時に反応し、その後車体はほとんどロールせず、圧倒的な速さでコーナーをクリアする。その一連の動作は、カマロがもたらすコーナーでの速さとは異質のものであり、大袈裟な言い方をすればZはカートを運転しているような錯覚に陥るほどシャープである。エンジンも圧倒的にパワフルであり、正規の手順を踏んでカマロと競争すれば、もしかしたらZが勝者になるかもしれないと思わせるだけのものはある。
だが、残念ながらそのV6エンジンの音色が美しくない。スポーツカーファンがうっとりするようなエンジンサウンドは、カマロが断然優位である。V6とV8の違いもあるだろうが、カマロのV8サウンドは、圧倒的に気持ち良い。それこそMTで高回転を駆使して走り回りたいという想いが募るほどワクワクさせられる。Zはパワフルだが、雑音混じりの重苦しさを全域で感じさせるから、最初はバンバン回しているが、そのうち飽きてシフトアップを繰り返すのみだった。
両者を比較して一番の違いが、そのシャープさであり、タイトさである。Zのインテリアは決して質感の高いものではないが、非常にタイトな空間に密集されたイメージだ。そしてその動作の剛性感も非常に高い。
対してカマロは、大きな空間にデザインされた大人の部屋的なイメージだ。適度な空間に、そこそこの質感のパーツが点在し、かつてのような無機質さとは無縁の、スペシャルな空間。言い換えれば、大人でも耐えうる質感は有しているから、たとえメルセデスからの乗り換えでも、それほどの安っぽさは感じないだろう。
最終的には好みの問題にもよるだろうが、毎日スポーティな空間でタイトな着座位置にもめげず過ごせるならZが向いているかもしれない。だが、時に足として、時に遊びの相棒として、時にスポーツカーのように振る舞えるマシンとして…、そんないろんな側面を求めるなら、最新のカマロが断然オススメである。ちょっとダサい言い方だが、デートから毎日の足にまで、それこそ万能車として多いに使える1台であろう。
決して最初からカマロを勝たせるために比較したわけではないので、これほどまでに印象の差が現れるとは正直予想外であった。何よりZのエンジンサウンドが全然魅力的でなかったのが、最大の敗因だろう。速い遅い関係なく、スポーツカーには華のあるエンジンが絶対に必要である。
一方カマロは、スポーツカーではないがスポーツカーのように走り、すべての操作系および走りの質感が想像以上に良かったのが驚きであった。それは一部の欧州車を確実に越えているし、超のつくスポーツカーに肩を並べるほど、といってもいいほどだ。だからこそ、自信をもってカマロをオススメできるのである。
ちなみに、カマロに対する悪い先入観があるとしたら、それは過去のカマロ、特に4thが原因かもしれない。正直4thには、個人的には一度としていい印象を持ったことはない。ステアリングは重く、走らせるとバタバタとシャシーや室内からの異音。アクセルを踏み込めば制御感の乏しいATが激しいシフトショックを伴ってすっ飛んでいく。室内は、殺風景極まりないスペシャリティの名を傷つける無機質さ。そして乗りづらさ。そういう意味では、サードカマロの方がまだ魅力があると思っていた。4thは、決して遅いクルマではなかったが、そういったアメ車ならではのスペシャル感に欠けているような感じで、どうしても好きになれなかったのだ。
ところがこの5代目カマロは、それこそスポーツカーを追い回す速さと質感、それに造りの質感までをも備えているのだから、褒めない理由がないのである。特に4thと比較すれば、それこそ天と地だろう。
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