ここ数年、いわゆるトラディショナルなバーバー(理髪店)が有名である。ご存知の方も多いと思うが、昨夏ラグビーワールドカップが行われていた時に選手たちが散髪に通うシーンがよく報道されていた。そう、その現場となっていた理髪店もこうしたバーバーとして有名な店舗である。
今回取材したオーナー、斉藤佳孝氏はブルックリンスタイルを継承するバーバー『キルカソルヨ』の代表であり、時に現場に入るスタッフのひとりでもある。
斉藤氏は、父の営む床屋業を受け継ぎこの世界に入る。そこからがむしゃらに働き、当時の目標が「いつかはポルシェ」だった。そしていまから20数年前にその夢を実現。そして床屋業のかたわら好きだったアメリカの世界観にどっぷりと浸かっていくことになる。
と同時にその頃から乗るクルマにも変化が現れる。当然アメ車である。アストロ、カプリスワゴン、それら同時に所有していた古いポルシェ。そしてトヨタタンドラへと続き、現在の所有車が2001年型のダッジバンと1959年型のシボレーエルカミーノ。
なんとなくだが、過去に乗っていたアメ車と比べると、今がその延長線上にあるようにも見えるし、斉藤氏の好みがわかる気がする。
「単なる移動ならプリウスで十分ですが、私はバンやワゴン、ピックアップが好きでして。それらこそアメリカっぽい感じがするんですね。で、普段から2001型のダッジバンに乗っていますが、古さと普通に街乗りで使用できるメカニズムの、ちょうど狭間な年式のような気がしていまして、本当に面白い。これ以上年式が新しくなるとやはりつまらなく感じちゃいますよね、クルマ全般的に」と斉藤氏はいう。
1959年型シボレーエルカミーノは、3年前に購入。懇意にしているアメ車ショップ・ベルエアーの高畠氏に注文し、極上の1台を直輸入してもらった。
斉藤氏いわく「エルカミといえばやはり初期モノだと思っています。こだわりはそこだけ。とにかくこのカタチ、デザインがほんと素敵」
ちなみに、このエルカミは自宅ガレージの中に普通に収められており、エンジンは一発でかかり、まったく普通に乗っているというから素晴らしい。
「夜な夜な東京へ繰り出してます。この時期でもエアコンは効きますしね」
一方、2001年型のダッジバンは、入手してまだ間もないとのこと。ただし、完成まで約一年待ちだったという。
聞けば、もともとカーゴが欲しかったというが、なかなか出物がなく、普通のダッジバンのミディアムボディをベースに、もう一台パーツ取り車を購入。そこからもろもろ移植する等して、さらに後席の窓枠等を板金で埋める等して、さらにペイントと『キルカソルヨ』のエアブラシを手書きで入れ(斉藤氏御用達のペインター作)、そういったもろもろの作業(車両の手配を含む)に約一年かかったということ。
ちなみに、納車後にご自身で内装をいじり、見事な空間を作り出している。そして日々ドライブを楽しんでいるという。
「こうした古いものを味わう文化こそアメリカですよ。これって、新車のスーパーカーに何千万円出しても得られないですから。それに、これだけいじってもダッジバンで500万円しない。それなのに楽しい。スーパーカーに2000万円も出す意味がわからなくなりますよね」
取材した場所は、千葉県にある『キルカソルヨ』本店の下。なんと、このビル一棟丸々が斉藤氏のご自宅であり、二階に『キルカソルヨ』があり、一階車庫には1959年のエルカミが止まっているという何とも贅沢な場所だ。
さて、気になる『キルカソルヨ』を拝見させてもらった。ここ最近、こうしたトラディショナルなバーバーは非常に人気であり、日本中で様々な店舗が開かれている。某出版社からこうしたバーバー系のムック本が出ているくらいだから、その人気も一過性のものではないのだろう。
斉藤氏と話をしていると、常に「本気」というワードが飛び交い、いわゆる「真似事」では太刀打ちできない、積み重ねが大切という。
『キルカソルヨ』は20年以上前にアメリカン風な理髪店に様変わりし、そこから今日に至るまでに積み重ねてきた「魂」みたいなものが宿っている。店内を見ればわかるが、昨日今日真似してできるものではない世界観で満たされており、そこに惹かれた者たちが客として来店する。二時間程度の取材時間に5人の来店があったが、みな若者であった。
「男臭い世界観といいますかね。その世界にどっぷり浸かり、本物になる。だから旧車に乗り、タトゥを入れ、ブルックリンのスタイルになりきる。ポイントはひと目見て他との違いが与えられるかどうかですね」
確かにその通り。ひと目でわかる他社との違い。『キルカソルヨ』の店内はまるで別世界、床屋とは決して思えないこだわりに満ちた空間だった。
そんな空間を作る方だからこそ、乗っている2台のアメ車もまた、ちょっと違う雰囲気を醸し出しており、それがまた似合っているのだから素晴らしいと思うのである。
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