2012年に登場したFRベースのセダンモデルがキャデラックATSである。後に2ドアクーペも加わり、ドイツ車や日本車が牛耳るマーケットに斬り込みをかけるために開発されたラインナップ中、一番スモールなキャデラックである。
日本仕様には276psの2リッター4気筒ターボエンジンが搭載されていたが、本国には2.5リッター4気筒や3.6リッターV6も存在し、その3.6リッターエンジンにチタン製ブレードのツインターボを組み込んだのがATS-Vである。ざっと470psのスーパーパワーを誇る。
だが、往年のキャデラックファンにしてみれば、近年のダウンサイジング系に食指が動かない可能性は高く、恐らくそういった方々は旧キャデラックをこの先もずっと愛するのだろうから、現行キャデラックは新たなファン層によって支えられているのだろうと思う。
逆にそういった現行キャデ・ファンにしてみれば、新たに登場したATS-Vは打倒ドイツ勢を掲げた高性能スポーツモデルとして非常に待ち遠しい存在だったに違いない。
個人的には、旧キャデラックの甘美な世界観にいまだ惹かれる自分がいるのは事実だが、乗ると素晴らしい走りを示すATSの「V」が果たしてどんなものなのか? ほんとにドイツ勢マシンを凌駕しているのか? その性能への興味が尽きない「V」シリーズにはずっと注目していたのである。
特に近年のアメ車スポーティモデル全般の進化は我々の想像を遥かに越えるレベルにある。だからこそ、キャデラックの進化が積極的に知りたかったのである。
カーボンパーツが装備された「スペックB」となるから、小型軽量ボディにカーボンファイバー製フロントスプリッター、ボンネットエアベント、リアディフューザーなどが採用され、ダウンフォースや空力性能をより高め、圧倒的な存在感を主張している。
新素材のタービン、独自のローチャージエアクーラー、チタン製コネクティングロッドなどの革新技術が与えられた3.6リッターV6ツインターボエンジンは、卓越したレスポンスとパフォーマンスを実現し、470ps、最大トルク61.5kg-mを発生させる。それによる加速性能は0-60マイル加速3.8秒を達成する瞬足ぶりである。
これに組み合わされるミッションは6速MTと8速ATであり、MTモデルが存在するキャデラックとしても注目すべき逸材だろう。ただし、日本仕様は8速ATのみの導入となる。
前後重量配分は51:49。車重1750kgということを考えれば、アメ車、キャデラックという存在の中でもかなりの好バランス&軽量マシンということで、たとえば4ドア同士の比較においてはダッジチャージャーR/Tで車重2トンの370hpであれだけの速さということを加味すれば、それよりも250kg以上軽く90hp以上パワフルであるのだから、その速さにおいては相当なものだろうという予測がつく。しかもツインターボである。コルベットC7よりもパワフルな超ド級セダンである。
くわえてキャデラックATS-Vは、世界各地のサーキットやテストコースで限界走行テストを数多く行ない、あらゆる過酷な走行条件をクリアしたことで「V」にふさわしい性能と品質が実証されているのである。
メーカー自身が、「ライバルはBMW M3」と公言するほどだから相当な自信をうかがわせるし、これまでに何度もノーマルATSに乗ってきた身からすると、ある程度凄さが想像できるだけに「かなり期待できるマシン」だろうと思う。
ということで、2016年モデル キャデラック ATS-V Spec-B、走行距離7800キロの認定中古車の取材をお願いした。
ボディカラーはファントムグレーメタリック。いわゆるガンメタと言われるカラーに近い感じ。一般的には「高級車は白か黒」といわれている日本人の好みだが、このガンメタは意外にもATS-Vに似合っていた。
室内は、あらゆるところにスエードレザーが巻かれ、それはステアリングからシフトノブ、シートに至るまで続き、走り系マシンの凄みが伝わって来る。
エンジンはスターターボタンを押して瞬時にかかる。その瞬間のエキゾーストからノーマルのATSとは異なる野太いサウンドが響き渡る。8速ATのシフトノブは硬質な動きを伴いDレンジに。スタートする。
走行でのシフトは、基本パドルである。装備されるパドルシフトはマグネシウム製であり、見た目にも鏡面加工が施されているから、そこはコルベット等とのパドルとの違いは一目瞭然。さすがはキャデラック。
それにしても3.6リッターV6ツインターボエンジンのパワーは想像以上の迫力である。感覚的には3000rpmを越えればそれこそ「無敵」と言わんばかりの圧倒的爆発的加速力である。正直、街中でそのパワーを駆使すればまさしく暴走車両のごとき走りを披露する。
しかも、ATSベースのボディサイズは感覚的にも身軽であり扱いやすい。だからミズスマシのような走りにも対応できるし、このサイズ感でこの暴力的パワーは、他の車両では感じたことのない、ちょっと異様なものである。
それでいて、ロールが少ないにもかかわらず乗り心地は硬いのだが悪くなく、良質なダンピングが効いている。昔のようなキャデラックライドではないが、イマドキの高性能車のそれと同様の驚くほど素晴らしい乗り心地。だから街乗りで使うセダンとしての能力も相当に高い。
くわえて、車両全体の骨太感や硬質感が半端ではなく、ステアリングコラムを通じて感じる質感も非常に高い。走っているうちに、ベースがATSとかキャデラックであるとか、そういった細かいことを気にせず、ただただ走るためにだけに精通した最高峰のマシンであると納得するのである。
この強さの感触は、最新のGM系マシン以外では決して感じられない強さであり、たとえばマスタングやチャレンジャーですら余裕で上回っている。マスタングやチャレンジャーはそれこそマッスルカーとしてファントゥドライブであることは間違いないが、ATS-Vはそういったレベルから二回り以上高いレベルでの戦闘マシンとして君臨しているといっても過言ではない。
また先月試乗したコルベットC7は、その乗車位置からしてスポーツカーであるということを意識せずにはいられない存在だったが(その部分が特別でもある)、このATS-Vは、いわゆる普通の4ドアセダンのようにも使える走り系マシンである。
だから仕事にもプライベートにも、もしくはファミリーカーとしても使える懐の広さが魅力ではないか。それでいて走ればホントに速い。速く走らせなくても乗っているだけで伝わって来る高性能感が、ATS-Vの真骨頂である。
正直、この手の価格帯のマシンが選択肢としてあがる世帯収入の方々には、ベンツだろうがBMWだろうがアウディだろうが、そしてキャデラックだろうが、多少の金額的な差異で購入の是非を決めることにはならないと思う。
だから逆に、ドイツ勢に決して劣ることのない高性能の持ち主にシレっと乗ることがどれほどカッコイイことか。まさに知る人ぞ知る的な存在。それでいて安物ではなく、走らせればアッサリと蹴散らすだけの高性能ぶり。自分だけが知る愛車の魅力に、多くのお金持ちユーザーも納得するはずである。
なお、取材した認定中古車は、さすがのコンディションだった。もちろん、ベースとなるATS-Vの過剰とも思える剛性感や作りの強さが効いているのだとは思うが、それでも1万キロ弱走行でこのような硬質感が全く衰えていないとなれば、それこそ新車でなくても認定中古車で十分以上ではないか(笑)と思えてしまうのである。
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