ダッジバイパーSRT10 ACR(American Club Racer)は、ノーマルのバイパーSRT10をベースに軽量化とエアロダイナミクスの向上、さらにレーシーなサスペンションを採用することで、SRT10の戦闘能力を一段と高めたスペシャルモデル。0〜96km/h加速は4秒以下、最高速は325km/hの実力を誇り、史上最速のバイパーとして認知されている。
ACRは2007年のロサンゼルスオートショーでデビューし、毎年改良を加えながら最終モデルとなる2010年モデルまで存在。2010年モデルにおいてはショートストローク化されたシフトが採用され、リアウイングの設計見直しがなされたことで、最終モデルとして抜群の完成度を誇っている。
このACRに搭載されるエンジンは、ストック同様の8.4リッターV10 OHVエンジン。スペックもストックモデルと同じく600hp、最大トルク560lb-ftを発生させる。つまりACRは、エンジンポテンシャル的なアップデートがほとんどない変わりに、エクステリアでのカーボン製フロントデュフューザー、カナード、GTウイング等でACRと分かるルックスを形成しており、さらに抜群のセンスを誇るボディカラー(ツートンカラー)でノーマルとの差別化を図っているのである。
とはいえ、これらを装備したACRは、ノーマルモデルを遥かに凌駕するポテンシャルを発揮する。その一例が世界最高峰の難所を持つニュルブルクリンクサーキットでのラップタイム。2008年当時、シボレーコルベットC6 ZR-1が叩き出した7分26秒4を大幅に短縮した7分22秒1というラップタイムを記録し、ニュルブルクリンク市販車最速の称号を取得。さらに2010年モデルのバイパーSRT-10ACRにおいては、それまでの記録を10秒近く更新する7分12秒13を記録したのである(ラグナセカでも最速ラップ保持)。
ちなみに余談だが、ACRには「ACR-X」なるモデルも存在しているが、そちらはACRをベースにした完全なる競技車輌ということで、パワーも40hpアップの640hpを発生させるV10エンジンが搭載されているほか、70kg近い軽量化が行われ、バケットシートやロールゲージなど、レーシングカーさながらの装備が満載である(バイパーカップのレーシングマシンであるから、公道走行には向かない)。
レーストラックトレンドは、アメ車オーナーにとどまらず今やフェラーリやランボルギーニ、さらにはケーニヒセグなどのスーパーカー・オーナーたちからも信頼を得ている生粋の技術系ショップ。なので、店に顔を出すたびにスーパーカーたちが工場内に置かれているのを見ているためか、最近では目が肥えてしまってフェラーリF50を見てもあまり驚かなくなっている自分にも驚きだが、さすがにこのバイパーSRT10 ACRを初めて見た時は、その凄みというかオーラに圧倒された。
フェラーリやランボルギーニはたしかにカッコいいが、近くで見るとまとまり過ぎなのか、見慣れてくると非常にこじんまりしている(上品過ぎる)感じを受けるのだが、このACRは、ボディ全体から発せられる勢いというか迫力が段違いにあって、スーパーカーが相手でも圧勝するほどのインパクトを与えてくれる。しかも車重1552kgで600hpのFR車。要素としてもスーパーカー以上のものを確実に持っているし。
エンジン始動はノーマルと変わらず、キーを回しスターターボタンを押す。「ギユルルルル〜」。エンジン始動はいとも簡単に行われるが、ひとつ違うところを発見。ACR化に際してエンジンマウント系も強化されているということで、エンジンの振動がダイレクトにステアリングに伝わってくる。
シフトも短いシフトレバーを採用しているため、感覚的にはちょっとしたレーシングカーである。ただ、目の前に現れるインパネの雰囲気やメーターなどはノーマルのバイパーと変わるところがなく、振動やシフトフィーリング以外においてはノーマルバイパーからの乗り換え組には訴えるところが少ないかもしれないが…。
クラッチも一般的な重さであり、動き出しも非常に滑らかだが、走り始めた途端、公道よりもサーキットの方を向いていることがわかる。レーシーなサスペンション(KWのサスペンションを採用)にミシュランのSタイヤ(セミスリック)を組み合わせた足回りから、もの凄いハードな走行を予想させるが、決して不快なレベルではない(乗り心地はたしかに硬いが)。どこかに飛んで行ってしまうような硬さではないので、慣れれば一般使いも余裕で可能だろう。
ただしタイヤのせいか、轍にステアリングを取られるために「矢のような直進性」は望めず、一般道ではステアリングホイールをしっかり保持している必要があるかもしれない。恐らくサーキットのような良路だと水を得た魚のように動き回れるはずだが。
ACRの真骨頂は、コーナーをひと回りしたときに感じられるステアリングの鋭い応答性だ。それは街中でも十分に感じられる。ステアリングを拳ひとつ分動かしたときの俊敏なる回頭性。重たいV10エンジンをフロントに搭載していることを忘れさせ、まるでミッドシップのようなノーズの入りが可能である。ここに関してはノーマルバイパー以上の動きであり、恐らくサーキット走行においては段違いに感じられるはず。
一般道での走行においては、持てる力の5%も引き出せていないと思うが、それでも2000回転を越えてからの加速感とその後もたらされるであろうV10エンジンの高周波を予測しつつシフト操作を繰り返すことで、十分にその楽しさを味わうことが可能である。
ただ、合法的な速度で走っている間は、メーターの針がほとんど振れない(笑)。しかし、そんなときでも、サーキットの匂いを嗅がせてくれるのがACRの魅力である。ルックスからはじまって、遠雷のような排気音といい、ビシビシくる乗り心地といい、このACRは、速そうでいて速い。電子制御で固められた無機質な速さではなく、アナログの、血が通った速さがそこにはある。ひと言、楽しい。
高橋氏いわく「ACRというか、まずバイパー自体が、ひと言で言って腕のいるクルマなんです。たとえば最新のメルセデスはクルマが腕をカバーしてくれる電子制御の塊で、そのままサーキットを走っても同じことが言えるんですね(レーシングドライバーにとってはその電子制御が厄介なのだが一般人には助けになる)。
一方でバイパーは純粋なハイパワーFR車。電子制御なんてないですから、その分腕がクルマを凌駕しないといけない。もしくは自分がコントロールできる範囲内で遊ばないといけない。正直タフなクルマですが、ニュルで最速ラップを刻んでしまうクルマなんで、ポテンシャルはもの凄いですよ。
あとACRになっての一番の利点はあのエクステリア。ノーマルバイパーで高速走行するなら、前後にエアロを装着するのが鉄則です。どうしてもフロントが浮いてきちゃうんで。ですが、ACRは最初からその部分に手が加えてある。これだけでもお勧めですよね」
これまでにも600hp以上のモンスターには数度試乗した経験があるし、最近ではコルベットC6のZR1にも短時間だが試乗している。だがそうした経験の中でバイパー以上にオーラを感じさせるクルマはないと断言できる。仮に速さが同じでも、ドライバーに与える迫力や印象が全然違うし、それこそが同じ600hp超のハイパフォーマンスマシンでも、「スーパーカーじゃないな」と言われてしまうZR1と「インパネなどの素材に安っぽさを感じる」などと言われながらも、スーパーカー・オーナーから「一度は乗ってみたい」と言われるバイパーとの違いなのだろう。
ACRは、すでに旧モデルの絶版車ということだが、本国ではコレクターズモデルと化しており、程度抜群の低走行距離車がたくさんあるという。チャレンジャーやコルベットを買うのとはまた違ったハードルがあるのは確かだが、アメ車好きなら一度は乗って欲しいと思う超魅力的な1台である。
<関連記事>
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