更新日:2011.07.08
文/編集部 写真/フォード
今から9年前の2002年デトロイトショー。その会場でフォードはGT40の再現版プロジェクトの存在を明らかにした。そして、計画がすでに発進していることを示すべく、その45日後にGT40コンセプトと名づけたプロトタイプを公開した。
ただし、この時点での彼らが描いていた図は、のちの実際の計画進行とは異なっていた。フォードは翌03年に創業100周年記念を控えており、そのイベントに再現版GT40をワンオフに近い形で完成させて展示するというのが彼らの目論見。つまり、それなりの台数を量産して市販するつもりは毛頭なかったのだ。
ところが、それを変更せざるを得ない事態が起こった。当時フォードのCEOに就任したばかりのウイリアム・クレイ・フォードJr.が、GT40コンセプトを見ていたく気に入り、量産化せよとの号令を下したのだ。なにせ新社長、なにせ創業家の直系の御曹司の鶴の一声である。量産は前提とせずに開発を進めていた技術陣は、慌ててそちらに舵を切りなおすことになった。
こうして再現版GT40計画は修正を加えられつつ急ピッチで進み、翌03年3月10日には3台の実走試作車輌が完成。6月の100周年イベントにそれが展示されることになった。また、このとき04年春からの量産開始がアナウンスされる。そして、その年の秋には顧客の元にデリバリーが始まったのである。
フォードGTという名のV8ミドシップ車が2004年に発売された——ただこれだけでは数多あるミドシップ・スーパーカー登場のニュースのひとつに過ぎない。しかし歴史を振り返ってみると話はそれだけでは終らない。まずそれはアメリカの生まれの初のシリーズ生産スーパーカーなのである。
84年にGMがポンティアック・フィエロというミドシップ車を発売しているが、これが積んでいたのは直4とV6で、クルマ自体の狙いも高性能スポーツではなく、あくまでスポーティな2人乗りコミュータという位置づけだった。そしてまたそれ以上に意味が深かったのは、このクルマががあのGT40の再現版であることだ。
GT40は、64年にフォードが作り上げた2座ミドシップのレーシングマシンである。その前年にフェラーリ買収を断念したフォードが、ル・マン24時間など欧州の有名レースにおいてフェラーリの鼻を明かすためにそれは企画された。そしてGT40は、参戦の64年こそ熟成不足で勝てなかったけれど、翌65年からは連戦連勝で欧州のレースシーンを席巻することになる。それまで小さな専門ファクトリーがレーシングカーを作って戦うのが当たり前だった欧州では、アメリカの巨大メーカーが全力を投入してきたこと自体が晴天の霹靂に近い脅威だった。
そのインパクトはレース世界以外にも波及した。欧州でGT40のようなクルマ、すなわち大排気量マルチシリンダーのエンジンをミドに積む高性能マシンを作ろうという動きが起きたのだ。
その最初のリアクションはイタリアで形になった。高性能GTメーカーとして立ち上がったばかりのランボルギーニという新興が、社の自慢のV12エンジンをミドに積んだクルマを作ったのだ。そのクルマの名はミウラと言った。
ミウラの設計者ジャンパオロ・ダラーラは取材に応えてミウラ企画の出発点をこう語った。
「それは公道を走るGT40でした」。
ミウラは大排気量マルチシリンダーをミドに積むだけではなかった。GT40のいまひとつの技術的特徴である鋼板溶接構造の車体形式を採用していた。当時のイタリアの高性能車は軒並み馬車以来の鋼管フレーム構造。ミウラはその点でGT40が示唆した新時代のエンジニアリングをきっちりとトレースしていたのだ。
そしてミウラに続いて、デ・トマゾ・マングスタが登場。フェラーリも小さなディーノgtで腕慣らしをすると、次に12気筒を積む365BBを送り出した。これに対してランボルギーニはミウラをカウンタックに世代交代させる。こうしてスーパーカーという商品ジャンルが確立し、スーパーカーの時代が始まった。幕開けを宣言したのはミウラで、そのミウラのスタート地点はGT40だったのである。
こうして生まれた公道用高性能ミドシップこそが時代の先端という潮流は、イタリアだけでなくフランスにも英国にも、そしてアメリカにも伝播していくことになった。GMはコルベットのミドシップ化を何度もトライする。それは66年のアストロIに始まり、70年代まで水面下で続けられ、ロータリーを搭載する試作まで行われた。同じころAMCは元フェラーリ技術者の助けを借りてAMX/3という試作を作って発表まで持っていった。
当のフォードも負けてはいない。まずGT40の公道仕様コンバージョンを図りし、それが失敗に終わるとマスタング・マッハIIなどの試作を行った。
しかし、そうして積極的だったにもかかわらず、アメリカからミドシップ・スーパーカーがリリースされることはなかった。操縦性の難しさやコスト高が、市販化を阻んだのだ。
そして時は過ぎ、GT40誕生からちょうど40年が経った2004年に、その再現版が世に登場したのである。それを知れば「ついに」という冠詞をそのデビューに贈りたくなるのだ。
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