「グランドチェロキー」と言えば、およそ20年にわたってジープ・ブランドをひっぱってきたフラッグシップ。一時期は3列シートの「コマンダー」にお株を奪われたが、同車の廃止後は再びジープの頂点に返り咲いた。初代デビューは1992年のことで、以降4世代にわたり、全世界で累計400万台以上を販売。ジープのみならず、クライスラーグループの世界戦略を支える基幹車種となっている。
今回登場した新型は、従来モデルから内容を大幅刷新。DOHCエンジンに四輪独立懸架、5つの走行モードが選べるセレクテレイントラクションコントロール、オプションの電子制御エアサスなど、ジープ初、グラチェロ初の技術が満載となっている。ボディサイズも従来より拡大され、荷室空間や居住スペースに貢献。ロングホイールベース&ワイドトレッド化されたタイヤの配置が、よりどっしりとしたイメージを醸し出す。
こうした改良は、プレミアムSUVにふさわしいオンロード性能や居住性を追求するもの。さらに言えば、そうしたもろもろの快適性とジープ伝統の走破性の両立こそが、新型グランドチェロキーのコンセプトと言えるだろう。
今回日本に導入されたのは、ベーシックな「ラレード」と豪華な「リミテッド」の2グレード。後者にはパノラマサンルーフやエアサスもオプション設定。搭載エンジンは、いずれも3.6リッターV6となる。
クライスラーがプレミアムSUVと自負するだけに、北米市場でのライバルは「フォルクスワーゲン・トゥアレグ」や「メルセデス・ベンツMクラス」、「レクサスGX460」あたり。逆に国産車……つまりアメ車のなかからライバルを探すのはやや難儀する。車格を意識すればフォード・エクスプローラーあたりが対象となりそうだが、キャラクターが違いすぎるため、この2車種で迷う人はまずいないだろう。
一方日本市場でのライバルと言えば、意外や「トヨタ・ランドクルーザープラド」の4リッターTZ‐Gが真っ先に挙げられる。車格はもちろん、オフロード重視の性格や3.5~4リッター級のV6エンジン、車両価格帯など、多くの面で両者は競合するのだ。逆に海外でライバルに挙げた欧州製SUVは微妙な位置に。VWで600万円から、ベンツで800万円からという価格は、比較対象としてはあまりに高すぎ。とくにトゥアレグの3.6あたりと比べると、装備・走りともにグラチェロのお買い得感が際立つ。
こうした「立ち位置」の話題でもうひとつ興味深いのが、技術共有の話。というのも、新型グラチェロはシャシー技術の少なくない部分を、今やライバルであるベンツのMクラスと共有しているのだ。かつてのダイムラー・クライスラー時代の名残りを感じさせるエピソードであり、走りや乗り味への影響が気になるところだろう。ちなみにこのシャシーは、新型の「ダッジ・デュランゴ」にも採用されている。
実車を前にしての第一印象は、「ハンサムになったなあ」というもの。Cd値(空気抵抗)を8.5%も改善したというスタイリングは、視覚的にも均整が取れていて、デザイン上でも無理を感じさせない。むしろ先代グラチェロが持っていたアクの強さが懐かしくなるくらいで、丸目4灯を無理やり押し込んだフロントマスクや前傾姿勢のボディフォルムが醸し出していた凄みはどこへやら。ここは新旧で好みの分かれるところかもしれない。
逆にクルマとしての資質については、誰もが認めざるを得ないところ。より大きくなった開口部や最大78度まで開くドアにより、車内へのアクセスは確実に改善。後席レッグルームをはじめ、車内空間のゆとりも増した。
カーゴルームのサイズも従来比11%増の782Lを確保。使い勝手も上々で、ワンアクションでフラットに倒れるリアシート格納が秀逸だ。ガラスハッチの開閉についても、テールゲートオープナーの横のスイッチをちょいと押すだけ。「リモコンキー2連打」や「テールゲートのキーを逆回し」など、いまだに訳の分からない開錠方法を強要する日欧の一部SUVより、使い勝手は明らかに上手と言える。ちなみにスペアタイヤは、車外吊り下げ式からカーゴルームの床下格納へとお引っ越し。バッテリーもエンジンルームからフロントシート下へ移ったが、端子のみはエンジンルームに残されている。これならジャンプスタートが必要な際も煩わしくはないだろう。
今回試乗したのは、上級グレード「リミテッド」のエアサス装着車だ。まず驚かされたのが、その乗り味のカタさ。バタバタとした不快なものではないが、かなりコシが強いのは事実で、路面からの入力についても「ドスン」と素直に伝えてくる。スピードを乗せていった時のスタビリティも高く、アクセルを踏むと路面にタイヤを押し付けてスムーズに加速。これには高速走行時に自動で車高をダウンさせる、エアサスシステムの効果もあるのだろう。とにかく従来のアメリカンSUVとは走りが全く違い、かなりスポーティな感触である。
もうひとつ特徴的だったのが、可変バルブタイミングを備えた新開発のV6エンジン。これが回転数を上げても粛々と仕事をこなすのだ。ライバル車の直噴ユニットには、ディーゼルよろしくガサツな音を立てる者も多いが、このV6は涼しい顔。より向上したボディの静粛性・遮音性とも相まって、遥かに洗練された印象を受ける。もっとも「踏んでも面白みがない」というのも正直なところ。加速とともに冷却ファンを盛大にうならせる他のSUV達が少しだけ羨ましい。
肝心の動力性能については、出足や加速の力強さについては先代グラチェロの方が一枚上手という印象。ただ、これについては先代の日本仕様がいずれもV8だったことが大きい。もっとも排気量の小さな4.7リッターと比べても、ダウンサイジングの幅は1リッター以上。むしろ額面ほどの差を感じさせない新型に感心すべきだろう。走りの安定感に関しては新型が明らかに上なので、踏めば速いのは先代かもしれないが、心置きなく踏めるのは新型である。
オンロードを主体に行われた今回の試乗では、残念ながらジープの本懐ともいえる悪路走破性を試す機会はなかった。ただ、新型もあのルビコントレイルで鍛えられたというのだから、そのオフロード性能に曇りはないだろう。
伝統的な魅力を受け継ぎつつ欧州的なテイストを受け入れて欠点を補う。グランドチェロキーのフルモデルチェンジは、最近のアメ車のトレンドにのっとったものだ。その結果は既述の通り。安定した高速巡航性能や洗練された乗り味を得た新型は、世界の名だたるライバルさえ上回るほどの競争力を手に入れた。正直、ヨーロッパナイズされたジープに複雑な思いを抱くこともあったが、クライスラーが復活のためにかけた意気込み、このクルマにかけているという凄味を感じる瞬間の方が多かった。新型グラチェロは文句無く良いクルマだ。
余談だが、最近は本場アメリカですらタフネスを重視したFRベースのミドルサイズSUV(日本ではラージサイズだが)は少なくなった。「トレイルブレイザー」は消滅して久しく、「エクスプローラー」もいよいよFF化。気づけばミドルサイズのSUVらしいSUVと言えば、一部の日本車や欧州車ばかりとなっている。そんな中、最後まで残ったのが欧州テイストの濃いグラチェロというのも皮肉な話だが、このクルマとシャシーを共有する「デュランゴ」だけが最後の牙城となっているのは事実だ。今回グランドチェロキーに乗って、クライスラー系SUV達を改めて応援したくなった。
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