「世界最古の4WDブランド」を自負するジープから、オンロードに特化したクロスオーバーモデルが登場した。その名もジープ コンパス。今年3月から、日本での販売が開始されている。
……こう書くと、ジープに大変革をもたらす気鋭の最新モデルと思われそうだが、じつはこの「コンパス」、北米では2006年から発売が開始されていたクルマである。
さらに言えば、往年の「ジープスター」がそうだったように、ジープはもともと都会派の2WD車について、かなり柔軟な姿勢のメーカーだった。そうは言っても、ここまでオンロードに特化したクルマの日本導入はこれが初。ラインアップも経済的な2リッターFFのみと、4WDをばっさり諦めたところにインポーターの思い切りの良さが感じられる。逆に言えば、「ホンモノよりも、ジープ風情のクルマでいい」、そういう潜在的オーナーが日本にはたくさんいるってことで、その部分の取り込みに躍起になっているのかもしれない。
コンパスの特徴はなんといってもグランドチェロキーゆずりのそのルックス。ちょっと睨みを効かせた4灯ヘッドライトと、メッキ調リム付きのセブンスリットグリルのおかげで、フロントマスクは完全に「リトル・グラチェロ」だ。
装備もなかなかの充実ぶりで、オートエアコンに運転席パワーシート、クルーズコントロールなど、同価格帯の「パトリオット」と比べても、確かなお買い得感を感じさせる。
余談だが、今や国産・輸入車ともに実力派ぞろいのSUV市場において、車体価格300万円で買える2リッター級のクロスオーバーというのは、意外にも大穴だった。同じアメ車系では、フォード クーガ(2.5リッターターボ)もシボレー キャプティバ(2.4リッター)も正面から競合することはない。もちろん、ドイツ車でこのコストパフォーマンスを実現するクルマは1台もナシだ。
一方、国産勢に目をやると、ホンダ CR-Vやトヨタ RAV4、マツダ CX-5などといった強敵がわんさか。価格はコンパスの方が高値だが、レザーシートやクルコンなどの装備の充実度を考えると、額面ほどの価格差はないはず。後は、ジープ的スタイリングやブランドの存在価値をどう見るかにもよるだろう。
実車を前に、まずは周囲を一周。外観は腰高にした5ドアハッチバックといった感じで、冒頭で「ジープは~」などと能書きを垂れた自分自身も、思わず「これがジープ?」と驚いてしまうくらいに都会的な雰囲気を発している。
ボディサイズは他の2リッター級SUVとほぼ同等か、ちょっと大きい程度だが、スタイリングの妙もあって存在感は十分。輸入車を所有しているという満足感に浸らせてくれる。
そんなエクステリアの核となっているのは、もちろんグラチェロ似のフロントマスク。じつはこの顔は2011年モデルから採用されたものなのだが、そんな事実を感じさせないくらいしっくりと馴染んでいる。外観を引き締める18インチアルミホイールやシルバールーフレール、同じくシルバーのリアゲートステップガードなどは、いずれも標準装備となる。
一方で、ちょっと気になったのが黒い樹脂むき出しのサイドミラーカバーで、きらびやかな外観の中で「なんでここだけ?」といった感じを受けないでもない。
また、リアドアハンドルはドアピラーの中に仕込まれているが、これもちょっと使いにくい。とはいえ、アメリカ人デザイナーが「こっちの方がカッコイイよね!」と陽気に取り入れたところを想像すると、意外と許せてしまうのが面白い。
ドアを開けて中を覗くと、ベージュ&グレーのカジュアルなインテリアがお出迎え。全車標準装備のレザーシートやレザーステアリングの質感はもちろん、メーターやエアコンルーバーを飾るメッキリムのきらびやかさも上々。視覚的には価格以上の高級感を感じることができる。
ところが、いざ乗り込んでみると、ダッシュボードやセンターコンソールはそっけないハード樹脂がむき出し。ラゲッジルームなどの細かな仕立ても同様で、このギャップが許せるか否かが、このクルマの評価の分かれ目になりそうだ(グラチェロの高級イメージからか、余計にチープさを感じてしまうのかもしれない)。
前項で、コンパスの外観を「腰高にした5ドアハッチバック」と解説したが、このクルマは走行フィールもまさにそんな感じだ。ステアリングはかなり安定しているが、高速道路で積極的にレーンチェンジをしたくなるようなキャラクターではない。直進性も、右車線をリードするような速度域を超えるとちょっと怖さを感じてしまう。そういう意味では、中央レーンで鷹揚に流しているのが良く似合うし、いちばん気持ち良いクルマである。
エンジンパワーは156ps、最大トルク19.4kg-m。2リッター直4エンジンとしては、可もなく不可もなくといったところ。トランスミッションもいかにもCVTといった感じで、アクセルを踏むと、エンジン音の高まりからワンテンポ遅れて加速が乗っていく感じ。
ただ、アクセルを踏んだ分だけちゃんと燃料を噴く制御は自然で好印象。踏み方次第ではレッドゾーン付近まできっちりエンジンを使った、空走感のない、しっかりした加速を味わわせてくれる。
その個性的なルックスと比べると、「もう少し尖ったところがあっても良いかな?」とも正直思ってしまうが、フットワークにもエンジン制御にも違和感がなく、誰もが乗ってすぐに安心して走れるようになるのは好印象である。
シートサイズは標準的で、「アメリカ人にはちょっと小さくないか?」と余計な不安を感じてしまうくらいだが、座り心地は上々。今回の長距離走行も疲れ知らずにこなすことができた。ボディサイズも平均的なアメリカンよりも小柄なので(それでも横幅1810ミリ)、取り回しに苦労することもまったくない。
じつはこのクルマ、2010年のマイナーチェンジ前は、どちらかと言うとパトリオットに近いフロントマスクのシンプル&カジュアルなクロスオーバーだった。そこに突然グラチェロ・テイストを放り込んだものだから、何となくちぐはぐしている感じが否めないのかもしれない。したがって、細かいことが気になる人、内外装の質感に神経質な人には勧められるクルマではないが、そうでない人は、ぜひ一度実車を見てみると良いかもしれない。車体価格300万円前後でこの装備、この存在感は、かなりのコストパフォーマンスだと思う。
グラチェロ風ではあるのだが、実際にはよりおおらかで陽気なキャラクターには好感が持てるし、良くも悪くも、少し前のアメ車の特徴だった鷹揚さやちょっとユルい感じが残されているのは、個人的にも好き。国際化に血道を上げる最近のアメ車(とくに実用車)の中では、逆に希少な存在と言えるのではないだろうか。
得意科目は一般道! そんな割り切りの良さがコンパスの魅力。カジュアルなグラチェロと考えれば、298万円はかなりのコストパフォーマンスである(しつこいが)。
ちなみにクライスラージャパンでは、今年2月にエントリーモデルのパトリオットにも2リッターFF車をラインアップ。初期費用&維持費を抑えた入門モデル(258万円)として、やはり都会派のライトユーザーに広くアピールしている。こちらには4WD(318万円)モデルが存在しているので、300万円前後の初期投資でカジュアル、豪華、オフでの走りと、さまざまな魅力を備えたモデルが選べるようになっている。ジープ・ライフへの入門を考えているなら、まずはこれらのクルマから見てくと良いかもしれない。
330,000円
AUDIO&VISUAL
あとづけ屋
283,800円
AUDIO&VISUAL
あとづけ屋
183,250円
AUDIO&VISUAL
あとづけ屋
272,800円
AUDIO&VISUAL
あとづけ屋