TEST RIDE

[試乗記]

日本初のC7路上インプレ

シボレーコルベット C7 (CHEVROLET CORVETTE)

圧倒的「質感」を備えた究極モデル

C6でも十分な速さを誇っていたし、なんなら中古のC5クーペでさえも不満のない性能をもっているにもかかわらず…。改めてC7に求めるものって一体なんだろう? BUBU「B.C.D」が自社研修のためにいち早く入手したコルベットC7をお借りして、業界初のロードテストを行った。

更新日:2014.02.12

文/石山英次 写真/古閑章郎

取材協力/BUBU横浜 TEL 045-923-0077 [ホームページ] [詳細情報]

まったく新しいデザインに包まれる

 「ただ速けりゃいい」とバカの一つ覚えみたいに「速さ」ばかりを追い求めるならレーシングカーが一番であり、2リッター直4のホンダFFレーシングカーの方が断然速いわけで。そもそもC6でも十分な速さだったわけだから、これ以上ただ速くなったからといって何になる? だからこそ「ただ速い=C7最高」とは言えないのでは…、と乗り込む前に勝手に考えていた。

 「現行ポルシェ911がたったの400hpしか発生させていないのに世界中のスポーツカーファンの憧れであり続けるのは一体なぜか? C7がワールドワイドなスポーツカーと言い切るのなら、改めてそういったライバル達よりも優れている部分が見たい」とも。
 
 これまでいろいろな状況でC7を見てきたが、実物の第一印象は「やっぱりフェラーリに似ているな~」というものだった(笑)。「カリフォルニアにそっくりか…」。ただ、ボディデザインの抑揚はカリフォルニアよりも断然C7の方が優れており、前後オーバーハングの短さがもたらす印象は、C6以上に引き締まっている。スポーツカーとしての凝縮感、塊感もある。
 
 各部の造形も、安っぽさや子供っぽさは微塵もなく、スポーツカーとしての雰囲気は格段に上がっている。だが、「これがコルベットだ」という造形的なポイントは減っているようにも思う。連綿と続くコルベットテイストという点においては、過去を感じさせない、まったく新しいデザインと言ってもいい(特にリアは斬新)。ロングノーズ&ショートデッキの最新スポーツカーではあれど、コルベットとしてのアグレッシブなFRという感じが減少したのは個人的にはちょっと悲しいが…。
 
 果たしてこれまでのアメ車ユーザにどう映るのか? という心配はあるものの(コルベットとしての魅力減かも)、ポルシェ等の高級スポーツカー好きの、新たなるユーザー層を獲得する可能性は非常に高いと思う。
 
 インテリアは、もう全く別のクルマと言えるほど変わっている部分が多く、劇的進化と言ってもいいだろう。質感という意味では圧倒的な向上である。「ついにこのレベルまでに到達したか」という感じ。「やっと世界に追いついた」。この先のアメ車は、まずはこのクルマが基準となっていくのだろう。

搭載されるエンジンは6.2リッターV8LT1エンジン。456hp、最大トルク465lb-ftを発生させる。低速から高速まで圧倒的なパフォーマンスを示す。4000回転以上はちょっとしたレーシングマシンのような密度の濃い吹け上がりが体感できる。

フロント245/40ZR18、リア285/35ZR19インチのタイヤサイズにブレンボ製の大径ブレーキがセットされる。

あくまで個人的な見解だが、前から見ると「フェラーリに似ているな」という印象とは裏腹に、リアはまったく別のクルマのようなデザインがC7の特徴であり、多くの方にインパクトを与える箇所でもある。これまでのコルベットデザインとの決別が、どのような印象を与えるのだろうと、興味津々でもある。

「B.C.D」がいち早く入手した車両は、2014年型の7速MT車。ノーマルグレードで標準装備のみの素のグレードとなる。BUBUは、これをベースに社内研修として自社テストするために導入した。

まるでライトウエイトモデルのような動き

 試乗車両はノーマルモデル。シートに座った印象はC6と同じような雰囲気だから驚く。お決まりの両フェンダーの盛り上がりも健在で、これがあるだけで、いつものように一回り小さいクルマに乗っている感じで操れるから嬉しい。クラッチは重くなく、繋がり位置にも違和感がない。走り出しはいとも簡単に行える。
 
 スペックからみてもわかるとおり、「圧倒的に速くなった」という感じはしない。だが、走っている時に感じられる路面からの衝撃吸収の仕方や加減速時の車体の動き、もちろん右に左に曲がっていく時の動きには一切のムダがなく、キレ味鋭いスポーツカーとしての品質感が常に感じられる。
 
 だからといって、無闇やたらに硬められた印象は微塵もなく、熟成された足回りの進化に驚いた。首都高のような、コーナリング中に継ぎ目が現れる不整路面でも、まったく怖さを感じさせずにアクセルオンで走り切れるのは明らかな進化である。しかも質感の高さが感じられる走りである。
 
 C6時は、速度を上げるとステアリングホイールの手応えが若干希薄になる印象があったのだが、サスペンションを煮詰め空力を進化させたC7には、前輪が路面に食いついているという感触が明確にあるから、後輪の安定感とともに常に素早いターンインとオンザレール感覚でのコーナリングが可能である。ハイパワースポーツの圧倒的な加速感とライトウエイトスポーツカーのようなレスポンスが同時に感じられることこそが、C7の真骨頂であろう。

激変したインテリア。各種パーツの質感や工作精度はかなり高く、グラフィカルなメーター類と相まって、華やかな雰囲気がインテリアにも漂う。各種スイッチ類の操作感にも安っぽさはなく、満足感は高い。

7速MTのフィールは歴代ナンバーワンの逸品であり、ゲートが明確でストロークも短く、かつクラッチのフィーリングともマッチしている。この7MTには、アクティブレブマッチングが装備されているので、ギアチェンジを行えば、まるで自らヒールアンドトゥをして回転を合わせたかのような、絶妙なタイミングで回転調整をしてくれる。

ペダルレイアウトは適切であり、クラッチも普通の重さであるから、誰もがいとも簡単に運転することが可能である。なお、自らヒールアンドトゥを駆使して回転合わせも可能であるから、足技が使える方はMTの醍醐味を思う存分に味わえるだろう。

横から撮影していると「やっぱり目立つしフェラーリみたいなオーラだよ」とカメラマンが言っていたが、全体的に華やかさが加わった感じで、好き嫌いはあるかもしれないが、高級スポーツカー乗りには、かなりウケが良いのではないだろうかと想像する。

すべてにおいて「良くて当たり前」のレベル

 新搭載の7MTのフィールは素晴らしく(5速までしか使えなかった…)、ブレーキ等のパフォーマンスになんら不満は感じさせない。というか、もはやそういう部分に不満を感じさせるようなレベルのマシンでは当然ない。「良くて当たり前」という高い次元の存在になっている。
 
 思う存分飛ばしたわけではないので、マックスパワーに関してはハッキリと体感できなかったが、それでも大排気量NAエンジンをMTで操る独特の感覚(低速でのパンチ力)は健在であり、「これにもう少し刺激的なエンジンサウンドが加われば最高なのにな~」と思わずつぶやいた(好みの問題だろう)。基本的な街中走行&高速走行では2000回転程度で事足りるし、4000回転から上での加速感はまるでレーシングマシンのような吹け上がりである。
 
 これらパワーに対しボディは十分に強く、動きの精密さは、過去にBMWやポルシェに乗った時に感じたものに近いものであった。
 
 こういった動きひとつひとつの精度は、C6では感じられなかったものであり(これは乗った者しかわからない感覚で、言葉にすると精密、精度という言葉でひとくくりになってしまうので伝わらないかもしれないが)、単なる速さだけでない、新たなるC7の魅力&個性といえるかもしれない。

ステアリングの奥に見えるグラフィカルなメーターは、液晶ディスプレイになっており、ドライブモードセレクターのチョイスに応じて表示が切り替わる仕組みになっている。

スロットル開度やトラクションコントロールの介入具合、サスペンションのダンピング等、12項目をダイヤル操作でコントロールできるドライブモードセレクターは、状況に応じた5つのモードからチョイスできる。今回は「スポーツ」で走ってみた。

シートは、赤いレザーに包まれたバケットタイプ。質感、ホールド性、剛性、すべてにおてい完璧といえる存在。白いボディカラーによくマッチしており、現在市販車最高レベルのシートと言っていいだろう。

これまで旧型で感じた、「ぶっといタイヤ履いているな〜」といわんばかりのリアの衝撃というかバタバタ感みたいなものがまったくなく、リアリーフ特有の荒さみたいなものが完全に消えていることに驚いた。コーナリングスピードも確実に二割以上増してるし。

ついに世界基準に到達

 C6から「打倒ポルシェ」を掲げてきたがコルベットだが、個人的な印象としては、もしかしたらその時点でも単なる速さでは優っていたかもしれないが、質感ではまったく勝てていないというのが正直なところであった。速くて安い選択肢。当然ながらフェラーリのライバルにはなり得なかっただろう。
 
 もちろんアメ車好きとしてはC6でも十分だったが、ポルシェ等を知るユーザーからすれば、その選択肢としてコルベットが選ばれるということはないのではないかと常々思っていた(比較すれば質感の低い無機質なクルマに思えるかも)。アメ車を知っている者からすれば、質素を旨とするアメ車が普通なのだが、ベンツBMWポルシェと比べれば、勝算は少なかったかもしれない。
 
 だがC7になって、ついに対等なレベルで勝負することが可能になったように思う。乗って、実際に走ってみて感じる満足感というものが、過去のコルベットで感じたものとは明らかに違う。速さと同時に大切な「何か」を得たような気がしたのである。
 
 個人的な印象だが、アメ車としては、正直「良すぎ」てしまって(笑)、現アメ車ユーザー&アメ車好きにどれだけアピールができるのか? と不安になってしまうほど立派になった。「コルベット=硬派なマシン」という雰囲気は明らかに減ったが、その分、現代の高級スポーツカーたちが向かっている同じ立ち位置に並ぶことができたということは、明確な進歩であろう。
 
 対欧州車やスポーツカーと、ついにガチで対決することが可能になったのは非常に喜ばしいことであり(しつこいが複雑な気持ちではある)、ハイパワースポーツの圧倒的な加速感と、ライトウエイトスポーツカーのようなハンドリングのレスポンスが同時に感じられるところにFRコルベットとしての執念を感じるし、歴代コルベットの究極モデルとして多くのファンやユーザーに乗ってもらい評価してもらいたいと切に願う。できれば次回、Z51にも試乗したい。

じつはMTでもパドルシフトが装備されているのだが、正直運転中は忘れていたこともあり、試すことは叶わなかった。だがMTをドライブしたら、使う気がまったく起きないというのが正直なところではないだろうか。

荷室に関しては、歴代モデル同様のレベルと言っていいだろう。今回はトップを外さなかったが、もしトップオフにするなら、外したトップはこの荷台に収納できる。

一巡してやっぱり一番のお気に入りがリアのスタイルだった。まるでコルベットとは思えないスタイルだが、攻撃的な造形だし、しかも何にも似ていない独特のデザインが、最新スポーツカーとして非常に好ましいと思う。もちろん、一コルベットファンとしては、これまでのデザインアイデンティティを捨ててしまったことが残念でならないのだが…。

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