シャシーは硬めながらちゃんと動いてショックを吸収する今風のフィーリングであり、まさにヨーロッパ車的な味付けを感じさせる部分がたくさんある。とはいえ、直進安定性は高いのだが、どこか大らかな部分もあって、ダラッとのんびり走らせてくれる部分も持ち合わせているのが、さすがマスタング。
ただ硬めただけのスポーティカーとは決定的に違い、鷹揚としたアメリカンな雰囲気がまだにわかに感じられるのである。
新世代のシャシーとエンジンを採用していながらも、伝統的なデザインとアメリカンな乗り味が楽しめる現行のマスタング。もちろん、大排気量V8やV6エンジンに比べれば、圧倒されるようなエンジンサウンドの迫力は薄れるし、マッスルカーとはちょっと異なる洗練された存在になったかもしれない。
だが、こと絶対的なパフォーマンスに限って言えば、まったく不足はないし、逆に驚くほど速いし、新種のアメリカンスポーツモデルとして、新たなファンを生む可能性は非常に高いと思う。
しかも現実的な価格を加味すれば、「現行マスタング=直4エコブースト」と割り切ってしまっても良いのではないか(その昔にも直4マスタングは存在していたわけだし)。
ちなみに2015年に登場した現行マスタングは、これまでの北米専用車からグローバルカーとして生まれ変わったことにより、世界中の法規や安全基準を満たさなければならなくなった。
くわえて、これまで数千台だった輸出が、新たに110カ国16万台強に激増することによる各部の念入りなチューニングや製作精度の向上により車両のクオリティは段違いに上がっている(この部分が非常に重要である)。
だからこそ、というわけではないだのが、日本からフォードディーラーの撤退が決まった以上(この先フォード車に乗らないというのなら仕方がないが)、もし現行マスタングやその他魅力的なフォード車が欲しいというのなら、今回取材させていただいたBCDのような、長年自社で直輸入したフォード車を積極的に取り扱い(マスタングに限らずF150やエコノライン、さらにはラプター、ナビゲーターetc)、整備や保証を兼ね備えたアフターフォローのしっかりした店舗であるならば、正規ディーラーと同様とまでは言わずとも、それに近い状態で今後もマスタング(フォード車)に乗ることは可能だろう。
また常に在庫車のある状態で店舗経営されていることから、ものによっては試乗も可能だろうし、本国ラインナップに存在するレアなグレード車だって、時間をかければ取り入れてくれるはずである。
マスタングにはV8モデルが存在するから、当然V8が気になるのは当たり前だが、でもあえて時代の最先端を行くというならばマスタングは直4ターボで乗ってみると面白いと思うし、得るものもきっと多いと思う。
繰り返していうが、直4エコブーストターボエンジンは、想像以上にレスポンスが良く瞬間的な加速力では旧V8モデルを凌ぐ感覚が味わえる。マッスルカーとしての醍醐味は減ったかもしれないがスポーティカーとしては十分以上速いし、期待以上の存在である。
今、アメ車には二つの楽しみ方が存在すると思っている。ひとつはこれまでの王道的楽しみであって、「とにかく大きく迫力こそアメ車」である楽しみ方。マスタングならV8、または新型カマロやチャレンジャーといった最新スポーティモデルの上位グレードを手に入れる。
ただし、それらを入手するには邦貨700万円超の金額が必要になるが、それらが苦でなく、もしくはローンを組んででも欲しいというのなら、アメ車の王道を積極的に楽しんで欲しいと思う。
そのうち別項で語りたいと思うが、当日同時に並べたカマロSSにもちょいと乗ってみたのだが、もう恐ろしくらいに完成度が高く、「このままのノーマル状態で日常的な足として使用したい」とよだれが出るほど欲しくなったのは事実である。
しかも使い勝手や乗り心地の面でも断然進化しており、唯一カマロ特有の閉所感みたいなものが残ってはいるが、見た目のカッコ良さと品質感は群を抜いていたのである。
一方で、変わりゆく「最先端のアメ車」を味わうこと。どちらにもそれぞれに楽しく新しい発見があるには違いないが、今、最新の味を味わうなら、この直4マスタングこそ相応しいと思う。【最新】とは、単なるものが新しくなったということではなく、コンセプト全体の新しさである。
時代の流れを見ればエコに流れる考え方が理解できないわけではない。だがマスタングは、そのエコを逆手にとって新しいカタチを生み出した。「排気量2リッター程度でこれほどのサイズ感と流麗かつスタイリッシュなクルマが存在するのか」と言えるほどの車両を作ってきたわけである。
しかもそれを50年という長き歴史の中で得てきた遺産でデザインした。そういう意味での【最新】マスタングである。だからこそ、「アメリカンスポーティ=V8」という流れを意識せずに楽しめる存在だと思うである。
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