1961年にデビューしたEシリーズ、そしてエコノラインと続くフォードフルサイズバンの歴史に終止符が打たれたのが2014年。
2015年から新たなモデルとして登場するフルサイズバン・フォードトランジットは、コマーシャルバンとしてワールドワイドに展開されている、いわゆる欧州フォードの北米版である。
ヨーロッパフォードでデザイン、製造されているバンだが、驚くことにフルサイズを名乗るに相応しいサイズ感をもってデビューしている。
これまでフレームボディだったエコノラインに対して、トランジットはモノコック構造を採用する。さらに2種類のホイールベースに2種類のボディサイズ、3種類のルーフ形状、3種類のエンジンが用意されている。
もっともスタンダードなボディサイズで5585×2065×2123ミリ(全長×全幅×全高)となっているから、その大きさがおわかりいただけるだろう。
なお、搭載されるエンジンは、スタンダードな3.7リッターV6、さらにフォードF150に搭載される3.5リッターV6エコブーストターボとオプションで3.2リッター5気筒ターボディーゼルが用意される。これらはすべて6速ATと組み合わされる。
取材したモデルは、日本上陸第一号車となるフルサイズバンのトランジット。しかもハイルーフとなっており、内装にはオリジナルのカスタマイズが施されている。
同車を輸入&製作したのはシャインストリートジャパン。かつてアストロやその他アメ車をベースに一大ブームを築いた日本のアメ車人気牽引の立役者であり、今回トランジットをベースにTYCOON(タイクーン)ブランドを復活させ、世界初のトランジットベースのカスタムを手がけている。
ベースとなるトランジットは2016年モデルのXLT。ハイルーフと言わずスポーツルーフというオプションを装備し(全高2400ミリ)、搭載エンジンは3.5リッターV6エコブーストターボ+6速ATとなる。
このTYCOONパッケージの主な特徴はほぼインテリアに集中しており、のちに述べるが外装に関してはホイールの変更くらいの予定である。ということで、全体を見てみよう。
まず、本革レザーシートである。アルカンターラのツートーンのパターンはシャインストリートジャパン代表の太中氏がデザインを手がけ、TYCOON(タイクーン)ブランドの刺繍を随所に施している。
一方、ルーフイルミネーションやウッドトリム等の装飾に関しては、あのエクスプローラー社が担当し、豪華コンバージョンの魅惑の世界を作り上げている。
大型TVモニターやサンルーフも完備し、TVはDVDのほかwi-fiによるネット通信も可能である。
ちなみにエクスプローラー社とは、アストロ時代から繰り広げられたコンバージョンメーカー同士の凌ぎ合いを制し、豪華クルーザーのごときフルサイズバンを制作するプロ集団である。とくに出来栄えとクオリティの高さには定評があり、まさしく唯一無二のコンバージョンを制作してくれる。
現在でも、旧GMCサバナをベースに製作したエクスプローラーモデルの人気は日本でも高く、1000万円級の超高級車として認知されているのである。
そんなエクスプローラー車によって製作されているだけに、このトランジットの完成度は極めて高い。
インテリア全体は、さすがエクスプローラーと言えるほど品質感にあふれ素晴らしい空間アレンジを実現している。7名乗車の3列シートであるが、室内空間には圧倒的なスペースがあり、まるで「4列シートでもOKかも」と思わせるほど広々としている。
そこにウッドを全面的に配し、そのウッドと組み合わされるように配された各種ルームライトとイルミネーションのコラボレーション。そして豪華絢爛かつ上質なレザーシート。
まさにムードある落ち着いた「大人のファーストクラス」を演出しているのである。しかも、その昔アストロ等でよく見た安物コンバージョンとは全くの別次元。ベースとなるトランジットの良さもあるが、さすがは最新モデルに相応しいトータルの質感である。
これだけの質を誇るインテリアに対し、エクステリアに関しては現状フルノーマル。聞けば「トランジットのホイールが特殊サイズであり、コンバージョンスタイルに適したカスタムホイールがまだ見つからない」ということであり、目下鋭意セレクト中ということである(もしかしたらこのまま純正のままもありか)。
こうした大人のファーストクラスを展開するトランジットに乗り、街中に繰り出した。撮影中は「比較的小さいな」と思っていたボディだが、路上に出たら印象が一変。やはりフルサイズである。大きさはもとよりその存在感が半端ない。
ただし、これほどのサイズ感がありながらもさすがはエコブーストエンジン。3.5リッターV6エコブーストは310hpを発生させるから、ボディは大柄ではあるが、かなりキビキビ走らせる。しかもその際の加飾による重量増は微塵も感じさせず、ブレーキングにも不安がないから、ドライバーズカーとしても十分に楽しめる。
今の流行りでいえば、国産ミニバンのアルファード一強、ということになるのだろうが、トランジットはそういった国産ミニバンよりも体感ではキビキビ走るから、さすが欧州の血を引いているといえるだろう。くわえて装飾による、キシキシカシャカシャといったきしみ音が皆無であり、さすがはメーカー純正のハイルーフ仕様であり、完成度である。
ちなみに、排気量が3.5リッターだから税金を意識した1ナンバー化も必要ないだろうし、燃費も5.3リッターV8とは比較にならないほど有利であるのは言うまでもないし、エコブーストエンジンはボディが大きく重量級であればあるほどメリットが高まるのである。
どんなに好きなアメ車でも時代が変わればモデルが変わり、モデルが変われば作りも変わるから、それに伴って「アメ車らしさ」というものが年々減っていってしまっているのは事実である。だから当然ながら旧態依然な中古アメ車を愛する方々がいてもおかしくはないのだが、一方で業界的には、それでは先細りの縮小しか手に入らない。
だからこそ、このTYCOONパッケージを先んじて製作しているシャインストリートの英断には頭が下がるばかりであり、さすがはアメ車人気の牽引役であるなぁと頷けるのである。
と同時に、常に時代の一歩先をいくというシャインストリートが目をつけたトランジットのカスタムコンバージョンは、アメ車新時代の到来を予感させるのである。
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