TEST RIDE

[試乗記]

現代の道路事情でも普通に通用するコンディション

1977 プリムスボイジャー

入手すれば生活が変わるかもしれない存在

アメ車ならではの個性的な存在を販売するエイブルにて77年型プリムスボイジャーの取材を行った。

更新日:2018.10.09

文/椙内洋輔 写真/古閑章郎

取材協力/エイブル TEL 044-857-1836 [ホームページ] [詳細情報]

旧車系乗りにも頼もしいショップ

 エイブルの原氏とは長い付き合いだからよく知っているのだが、常にストレートな物言いが気持ちよく(時にストレートすぎて心配になるくらいなのだが)、だからこそ嘘偽りがなくて安心できる。

 恐らく今現在エイブルで車両を購入されている大半の方々がそういう原氏を知っていると思うが、だからエイブルで扱っているサードカマロやジープワゴニアに興味を持つ方には必ずや「何も起きないはずはないですからね」と釘をさす。

 といっても、これは「壊れた時の弁解」を先に述べているわけではない。「新車のトヨタ車を買ったようにはいかない」と、機械として20年以上経った車両を持つ心構えとして「何か起こるかも」と教えてくれ、さらに実際に何かあった時には全力でサポートしてくれる。

 また、事前に対処したければ、それなりの方法を指南してくれるから、そういった心構えができている方には逆に相当親身なショップだとわかるだろう。

 何も考えずに「ただカッコイイから」と買ってしまい、後々泣きを見る若者を大勢見てきた経験からこその指南でもある(だからといって敷居の高い旧車ショップではないからみなさんにおすすめしたいと思っている)。

単なるバンなのだがバンにあらず。現代の商用バンをイメージすると、このボイジャーはその基準には当てはまらない。非常に素敵な骨董品のような雰囲気を醸し出している。

40年前のアメリカデザインの凄まじさを思い知らされるリアデザイン。カラーリングも含め、ちょっと飛びぬけた存在だろう。

日の光によってベージュにもゴールドにも見えるボディカラー。室内空間もボディ同色系のパーツによってコーディネートされている。

当時のカタログ表紙。

以前から見ていたひと際輝く存在

 一方で、キャデラックCTS-Vのような、比較的新し目の尖った中古車も積極的に取り扱っている。というのも、このご時勢、エコや燃費を考慮した電気自動車への移行を促す政府の働きもある時代に、あえてバカ高い自動車税を支払い、あえて高額なガソリン代をも飲み込んでアメ車に乗りたいと思う方々に相応しい、ザ・アメ車的は車両を紹介したいという思いである。

 だからエイブルへ行くと、我々のようなアラフィフ世代のオッサンは目移りして仕方ない。サードカマロやC3コルベットにジープ系ではイーグルやチェロキー、さらには70年代のワゴニアがあり、その一方でダッジラムトラックやCTS-Vにタホがあったりと、その時代を彩った懐かしい車両たちがまだまだ健在しているのだから。

 で、そんななかにひと際目立つバンを発見。というか、昨年くらいから何度かお目にかかっていた車両ではあったのだが、その時点ではオーナーカーということでキャブレターの調整等の整備で入庫していただけであり、売り物ではなかった。

 だから「スゲー、キレイですね」と言葉は交わすもそれ以上話題にはならなかった車両である。だが今回、そいつに乗れるという。あくまで取材でだが。

 詳細を聞けば77年型プリムスボイジャー。本国アメリカにてレストアがされており、日本では各部の調整のみで普通に走っているという。搭載されるエンジンは5.9リッターのV8。それに3速ATが組み合わされる。

 このプリムスボイジャーは、1974年から83年まで存在したダッジのBシリーズベースのフルサイズバン。そのプリムスモデルということで、日本でもあまり見かけることはないレアなバン。だが、その風貌やカラーリングには何とも愛嬌があり、アメ車らしい。

 で、レストア済みとの車両だけに、見た目のコンディションは驚くほど上々である。ツートーンのカラーやピンストライプがキレイなボディから同系色でまとめられた室内に至るまで。

搭載されるエンジンは5.9リッターV8。それを3速ATで駆動する。この年代の車両に必要なことは安定した走りだが、現車の駆動系の安定性は特筆に値する。

キュート印象を与えるマスクに愛嬌を感じ、プリムスブランドのボイジャーにレアな優越感を覚えるのは筆者だけではないはずである。各種メッキパーツにはくすみやサビが皆無であり、抜群の程度を誇っている。

70年代ファッションの王道的ワイヤーホイールがよく似合っている。組み合わされるホワイトリボンのタイヤサイズは235/75R/15インチ。

単なるバンに過ぎないはずなのに…

 それにしても雰囲気がある。単なるバンにすぎないのに、ボイジャーの周りだけ空気感が違う。ただ路肩に止まっているだけなのに、まるで骨董品のような風合いを醸し出している。

 内外装の各部を見ても、ひとつひとつがデザインされていて、そのどれもが華奢な感じなのだが、どれもがオシャレに見えるし、ちょっと触れた限りでは乗るだけじゃなく、見ているだけでも楽しい存在だった(現代の商用バンとは大違いだ)。

 早速試乗。行きは助手席で。帰りは運転席にて乗らせていただいたが、行きの助手席は思わず声が出た。「足もと狭っ」。アストロ等でも助手席の足もとのスペースの小ささは経験済みだが、それに輪をかけたような狭さ(笑)。それでも至極快適であり、何より驚いたのが異音騒音低級音のなさ。ゴツゴツ、ガタガタといった類の音はほとんどなく、V8サウンドが小さく響く。

 一方、運転席ではそのボディの大きさに驚く。見た目はかなり小さく見えるのに、実際に動かすと結構な大きさを感じる。現代のトヨタハイエースよりも若干大きいような感じで、だからそういう意味での室内空間の大きさはかなり使えるものといえるだろう。

内装パーツの各種コンディションにも驚きを隠せない。外装パーツとリンクしているカラーリングや華奢な各部のパーツは、当時の雰囲気を十分に思い起こさせ堪能させてくれる。

それでいて各部はきっちりと動きそれぞれの役割を果たすのだから、旧車好きにはたまらないコンディションであろう。

センターコンソール中央には、V8エンジンが室内側に入り込んでいるためのカバーがむき出しになっている。だからこその足もとの狭さである(アストロあたりに乗っている方ならお分かりいただけるだろうが、それよりももっと極端に狭い)。ただ、これもご愛嬌である。

操作系は、全体的にスローな印象は否めないが、それでも街中程度なら現代の交通事情にまったく過不足なくついていける。というか、積極的に走れば十分にリードできる。

生活を一変させる魅力を持つオールドバン

 また、ステアリングの反応やブレーキのフィールにも、結構普通に走れる要素が多く、さすがはレストア車なのか、それともベース車がもともこのような感じなのか、はつかめないが、それでも今の時代の公道を十分に走れるだけの印象を得たのは驚きだった。取材はちょうど一週間前だから、台風が去ったあとの夏日。にもかかわらずエンジンは常に一発始動だし、終始安定していたことも報告しておこう。

 ただし、今年の猛暑を乗り切ったとはいえ、「もともとが20畳の広さに6畳分くらいのエアコン機能しかない」ということで、効いているエアコン自体のキャパが70年代ということらしく、このままでももちろん乗れるが、費用をかけより効くエアコンにするか、といった検討事項はあるという。

 こういったことを事前にしっかり説明してくれるのがエイブルだし、だからこそ買い手も納得して購入することができるのであろう。

 それにしても、40年、50年前のアメ車をみるたびにいつも「アメリカの偉大さ」を思い知らされる。単なるバンであるにもかかわらずのこのデザイン。ホントに凄いと思う。だから「今それに乗りたい、欲しい」と思う方の気持ちもほんとによくわかる。

 で、そんなクラシックなマシンに今乗れば、それこそ生活が一変するだろう。

 もちろん、古い機械である以上「何かが起こる可能性」は否めないが、それでも入手すれば普段走る何気ない道がまったく違う景色に見えるだろうし、出かける場所や食事先、身につける衣服も変わるかもしれない。

 ま、ちょっと大げさに言えば、コイツによって新しい人生を手にすることが可能になるかもしれないのである。

まるでリビングルームとも言えそうな、デザインされているインテリア。シートはいわゆる応接間ソファー的なふわふわ感を持つ。

オレンジブラウンといわれるカーペットと素敵なデザイン表皮を持つシートとが組み合わされた想像以上に広いスペースの後席。

ドア内張りもご覧のように素敵なデザインとコンディションを維持する。

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