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[試乗記]

新型デビューに伴いエスカレード・ヒストリーをおさらい

2021 キャデラック エスカレード vol.2

1999年の初代デビューから2021年の最新五代目モデル登場まで

アメ車のなかでも圧倒的人気を誇るキャデラックエスカレードがデビューして22年。現在で四代目となるエスカレードは常にラグジュアリーSUVの指標として君臨し、ついにデビューした五代目にその座を譲る。

更新日:2020.02.14

文/石山英次 写真/ゼネラルモーターズ

デビュー初期はリンカーンの後塵を拝する

 ラグジュアリーSUVの起源はいつだったのか? 日本では一般的に1998年のレクサスRX300(日本名ハリアー)がその第一号と紹介されている。それまでラダーフレームだったSUVをパッセンジャーカーと同じモノコック構造でつくった最初のモデルだ。

 だがそれは定義のひとつでしかなく、ブランドと考えればその前年にリリースされたリンカーンナビゲーターがそれにあたる。これら2台のクルマが誕生したことで、ライバルたちが追随し「ラグジュアリーSUV」はひとつのカテゴリーにまで成長した。

 では、ライバルたるキャデラックはリンカーンの動向を見ているだけだったのか?

 じつはキャデラックもすでにその頃SUVの開発を進めていた。しかもおおよそのコンセプトは出来上がっていたものの、そのブームの流れがあれほどまでに早いとは予測できてはいなかった。先にデビューしたナビゲーターは爆発的に売れ、1997年においてはリンカーンブランドとしてキャデラックの販売台数を上回ったほどである。

 で、慌てたキャデラックが翌年市場導入したのが、1999年型初代エスカレードである。だが、そはGMCユーコンデナリの単なるバッジ違いであり、急いだがために作った急造マシンとしてスペシャリティに欠けるものだった。格子のグリルにリース&クレストは付くものの、オンリーワンといえるシロモノではまったくなかったのだ。

 ただ、この初代はあくまでも場つなぎ。正真正銘のエスカレードは2000年に入ってから登場する。

 2001年にリリースされた二代目エスカレードは見るからにキャデラック一族とわかるスタイリングをしていた。当時のSTSやCTS、XLRがそうであるように、アート&サイエンスのコンセプトから造られた。インテリアもオリジナル性が高く、ふんだんに使われるウォールナットが高級感を漂わせる。

 さらにた一時代を築いた「BVLGARI」のロゴが入ったアナログ時計は嬉しい副産物だった。90年代の豪華さを微妙に残すサジ加減が、この二代目モデルの最大の魅力である。

初代エスカレードは、前年に誕生した「リンカーン・ナビゲーター」の成功を受けて誕生。キャデラック初のフルサイズSUVとして注目を集めた。ベースとなったのは「GMC・ユーコン」で、シャシーや5.7Lエンジンなどはそのまま踏襲。エクステリアも大幅に手が加えられること無く発売された。それが災いしてか、市場では「ユーコンのバッジが変わっただけ」と揶揄。販売も振るわず、わずか1年で生産は終了してしまった。

インテリアも基本的にはユーコンである。だからこそ、売れるわけはない。というか世界的な「物売り屋」としてこんないい加減な商品って許さるのか? 当時はそんなことまで語る評論家さんたちがいたほどであった。

二代目はベース車から大幅な改良を実施。当時のキャデラックに共通のエッジの効いたフロントマスクやBOSE社製サウンドシステム、ブルガリデザインのアナログ時計等により、キャデラックに相応しいプレミアムSUVに変身。エンジンはタホ等と共通の5.3L V8のほか、専用設計の6L V8 OHVを搭載。またこの代からロングモデルの「ESV」、ベッドを備えた「EXT」がラインナップに追加された。

基本ベースはシルバラード、タホ、サバーバンなのだが、この二代目モデルにはブルガリとコラボしたことで得た特有の雰囲気があった。当時は三井物産が正規モデルとして販売していた。個人的にもこのモデルが一番好きだったりする。

一気に洗練されて国際感覚を身に付けた

 キャデラックは、GM最高級モデルを扱う部門。当然それまでは大型サルーンばかりを扱ってきた。

 だがGMは20世紀末にエスカレードを世に送り出した。それは最高級サルーンと同じ地位にトラックが登ったことの証明である。と同時に、アメ車=SUVという時代の到来を意味している。だからこそ、当初のラグジュアリーは二代目エスカレードで事足りていた。

 しかし、BMW X5やポルシェカイエンらの欧州製SUVがアメリカに大挙して押し寄せてきたことで事情が変わった。高性能スポーティ車の技術で造られたそれらと対抗するためには、呑気にアメリカントラックの中身のままではいられない。

 こうして2007年にフルチェンジした三代目エスカレードは、中身を一気に洗練させてきた。

 ボディを骨格から作り直し、サスペンション制御を最適化し(マグネティックライド)、そのコントロールはGMのスポーツカー・コルベットと同様のものを使用する。そしてエンジンまで一新。このボルテック6200と名づけられたL92型エンジンは、スモールブロック系V8シリーズの第4世代となる最新ユニットで、これまたコルベット用LS系エンジンと同じく軽量のアルミブロックを持つ。

 しかし、LS系の迫力とは違って、エスカレードは洗練をウリにする。回り方も、世間がイメージするようなドロドロという身震いを伴ったものではなく、レンジローバーに積まれたジャガーV8やセルシオV8もかくやの滑らかな感触を持つ。

 また馬力の出方も、低速でドカンとパンチを効かすアメリカ式ではなく、じんわりトルクがにじみ出てきて、それが回すほどにきれいに伸びていく、上品で現代的なタイプ。排気量が6.2Lもあるからトルクは嫌でもあり余る。その余裕を、力感でなく品の良さの演出に使ったのである。

 それだけでなくGMは、OHVでは世界初の可変バルタイを採用して、滑らかなトルク特性をさらに磨いた。

 くわえて三代目エスカレードは、インテリアを刷新し後席の居住性も国際標準にするなどして、車体のほうも手を打っている。こうして洗練度を磨いたエスカレードは、独自の魅力を引っ提げ欧州勢を迎え撃ったのである。

三代目はベース車となるシボレータホのモデルチェンジに合わせ、エスカレードもバトンタッチ。T900と呼ばれる最新のトラック用プラットフォーム採用により、プレミアムサルーンに匹敵する快適な乗り心地を獲得。フロントマスクも「STS」や「CTS」を思わせるシャープなデザインに一新された。駆動系の進化も著しく、エンジンには403hpを発揮する6.2L V8 OHVを搭載。ATは4速から一気に6速になった。

三代目への進化は、初代から二代目への進化とは比べ物にならないレベルのものだった。二代目までは当然ながらいわゆるアメ車の範疇であり、バタ臭さは健在である。ところが、三代目ではそのバタ臭さが消え、一気に近代化され洗練された。その進化は二世代分とも言えるほどだった。

二代目モデルのEXTはよく見かけたものの、三代目モデルのEXTは超レア車。後々名車として人気および価値が上がるかもしれない。またハイブリッドも導入され、次世代SUVとしての資質も高めていた。

三代目から正常進化で四代目デビュー

 四代目は、基本的に三代目をベースに正常進化させたモデルである。ボディもサスペンションもミッションも基本的には三代目からのキャリーオーバー。だが、それぞれにおいて確実にパフォーマンスアップしていることは間違いない。

 一方エンジンは、6.2リッターV8のままだが、これまでのボルテックではなくエコテック。このエンジンには、気筒休止システムや可変バルブタイミング、高度な燃焼システム等、最新技術で効率の良さをも求められている。それでも420hp、最大トルク460lb-ftを発生させる。

 インテリアはさらに現代化され、新型CTS等と同じようなデザインテイストを踏襲し、なおかつ一層高級感が増している。さらに他のキャデラック同様に車体の安全装備が充実し、世界最高峰のラグジュアリーSUVとして君臨する。

 だが、同時に始まった世界各国でのSUVブーム。欧州SUVたちが目論む一気呵成の新型モデル。そのトップモデルらのパフォーマンスはもはやスーパー。洗練や上品さを謳った四代目エスカレードでも、パフォーマンス比較では一歩劣るようになる。そんななかで遂に五代目が登場することになる。

ボクシーなスタイルに縦目ヘッドライトと大型グリル。基本、三代目ベースの正常進化形だが、これまた多くのファンを虜にした。

エスカレードたるクオリティと他のキャデラックファミリー同様の意匠をうまくミックスして構築された最上級のインテリア。

さらなる熟成が図られたグレードアップモデル

 これまでのモデルチェンジスパン、約7年、約8年ときて今回は約6年と、一番短いスパンで登場した五代目モデル。多くのファンが期待したパフォーマンスアップという期待を裏切り(?)、さらなる熟成を図るグレードアップ方式で誕生した。

 デザインは、これまでのエスカレード言語といよりは、今現在主流となっているキャデラックファミリー、XT5、XT6といったモデルたちと共通するデザインに生まれ変わり、ヘッドライトが縦目から横目に変更されている。

 搭載されるエンジンは、前モデルからのキャリーオーバーで、だが当然内部の進化を果たされており、同時に組み合わされるミッションが10速ATに変更されているから、走行フィールや燃費等に明確な違いが出るはず。

 またボディも若干大きくなり、サスペンションもリファインされているから、それらによりリアの居住スペースが大きくなり、今世界中のSUVで流行っている全席ファーストクラスが実現されている。

 一方、発表前から何かと話題のインテリアには圧倒的な進化と先進性がもたらされており、車内エンターテインメントも万全。

 この点においては世界に誇れるレベルに一気に進化した感じだが、やはりエンジンパフォーマンスに関しては熟成のみではなく、正式なパフォーマンスアップが望まれる。

 本国アメリカではすでに「Vシリーズ」の登場が期待されており、予想イラストや馬力数が紙面を飾るなど、それら期待の大きさを物語っている。

 五代目エスカレード、果たしてどうなのか? 実物を見て乗って、どれだけ驚かせてくれるのか? に期待したい。

XT5やXT6といった現行キャデラックファミリーのデザインに生まれ変わった五代目モデル。ヘッドライトが縦目から横目に変化。

リアデザインは、旧モデルベースをより緻密に洗練させたもの。

コラムシフトが廃止され、メーターパネル付近のデザインが一新された。それにより高級感と先進性が加わった新デザインのインパネが誕生。

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