5月某日、千葉県市原市のスペシャルショップ・ベルエアーの代表・高畠さんから編集部に一本の電話が入った。
聞けばチャレンジャーをサーキットで走らせることになったという。しかも、ステアリングを握るのはドリキンこと土屋圭市氏というからただ事ではない!
もちろん断る理由などあるはずもないので、ぜひ取材させてもらうことに。
土屋氏といえば、これまで数多くのクルマをサーキットへ持ち込み、限界まで攻め込むことでテスト車両の素性を明らかにしてきた。
そして必ずや試すドリフト性能。だがダッジチャレンジャーをドリフトさせるのは初というから興味深い。くわえてベストモータリング世代の筆者には神様のような存在なのだから感慨深い。
▲ドラッグレーサー的なイメージの強い「ダッジチャレンジャーSRTヘルキャット」。なかでもシリーズ最高峰のレッドアイとなれば、その印象はさらに強く放たれる。そんな怪物マシンをサーキットへ持ち込み、ドリキン土屋圭市にステアリングを託した。
▲土屋氏が現役時代に出場していたル・マン24時間レースが忘れられない。また筆者は氏がドライバーを務めていたタイサンカラーのR32GT−Rが好きで長期ローンを組んで購入したクチである。さすがにお年を召して温和な感じになられたが、ドライビングテクニックは微塵も廃れていないのはさすが!
▲初対面となるチャレンジャーSRTヘルキャットレッドアイのシートに座りポジションをセット。コックピットドリルを受けゆっくりスタートする。
▲SRTパフォーマンスページではさまざまな走行モードを選ぶことが可能であり、土屋氏はレッドアイの性能を引き出すため「TRACKモード」をチョイスしてコースイン。
日頃の取材で我々もチャレンジャーにはこれまでに何度も乗っている。だが、基本的には一般公道を中心とした通常走り。言ってみればチャレンジャーの持てる能力の10%から20%程度を使って走っているレベルに過ぎない。
だから今回の土屋氏の走りが一体どんなものになるのか?
舞台となる袖ヶ浦フォレストレースウェイは一周2436mのミニサーキットだが、フルパワーのチャレンジャーはどのようなパフォーマンスを見せてくれるのだろう。
で、もう一つの驚きが、今回のベース車はチャレンジャーSRTヘルキャットレッドアイワイドボディ。いわゆる797hpのチャレンジャー最強モデルである。
アメリカンマッスルカーの代名詞ともいえるダッジチャレンジャー。2015年に登場したヘルキャットの系譜はデーモンへと受け継がれ、最後の継承者として「公道最強」を目指して開発されたのが、このダッジチャレンジャーSRTヘルキャットレッドアイワイドボディである。
6.2リッターの排気量を持つV8エンジンにスーパーチャージャーを組み合わせることで797hpの最高出力を叩き出すのだが、2018年に登場した限定車・デーモンの840hpからすればディチューン版と記されることも多い。
だが、実際にはデーモンのパワー表記はスペシャルガソリンを使用した時のものであり、一般的な燃料を使用した場合には790hp程度とも言われているからレッドアイは最速のチャレンジャーと言っても過言ではない。
くわえてレッドアイはブレーキや冷却系統の容量が拡充され、公道での使用に対して十分なキャパが与えられているのも大きな特徴である。
▲「797hpはダテじゃないね。パワーも凄いけどトルクの太さもアメ車ならではだし。アクセルを踏み込んだ時の爆発的な加速も独特」と土屋氏。
▲「スーパーGTの300クラスよりも確実に速いよ。直線では3速、4速でホイールスピンしちゃうしさ」と続く。
▲ただし。ドリフトに関しては電子制御が働いてしまい「この角度が精一杯だった」と土屋氏は振り返る。
▲サンデーレーサーの聖地と言われる緑に囲まれた袖ヶ浦フォレストスピードウェイ。テクニカルな全長2.436mのコースは攻略性に富む。
さて土屋氏とチャレンジャーとのご対面。土屋氏が日頃目にする国産スポーツカーとは対極をなすビッグボディのアメリカンマッスルカー。
お決まりグリーンのレーシングスーツに身を包みチャレンジャーのコックピットドリルを受ける。そしてシートを合わせすぐさまコースイン。暖機運転&車両に慣れるためにしばらく流し、いよいよ全開へ。
さすがのドリキン土屋圭市! 797hpをモノともせず、タイトなコーナーで巨大なボディを振り回す。そして激しいスキール音。チャレンジャーでここまでの激しい走りは見たことない。
そしてホームストレートではV8パワーが炸裂、その雄叫びと共にスーパーチャージャーが放つ独特の過給音が共鳴する、と同時にフルブレーキングからのターンイン……。
アタックを終えピットに戻って来た土屋氏。開口一番「すげーっ!」と満面の笑顔を見せてくれた。
「やっぱり797hpはダテじゃないね。パワーも凄いけどトルクの太さもアメ車ならではだし。アクセルを踏み込んだ時の爆発的な加速も独特だね。スーパーGTの300クラスよりも確実に速いよ。直線では3速、4速でホイールスピンしちゃうしさ。
▲派手に滑らそうとすると電子制御が介入してしまいパワーが絞られてしまうというが、裏を返せば安全装置が作動しているという事実とある種の「安全」が担保されているということである。
▲車体がロールしながらグリップの限界時点でリアが少し流れ若干のカウンターステアを当てる程度の走りが一番楽しいという。もちろんサーキットでないと危険極まりないから注意すべし。
ドリフトに関してはいろいろ試してみたけど、クルマが横に向きそうな瞬間に電子制御が入って自動的にパワーを落としてしまうんだよね。クルマが〝これ以上はダメです!”って制御しちゃうんだ。これは横に向けたい人へのお仕置きタイムだね(笑)。
でも、一般の人にとっては安全だし、これだけパワーのあるクルマとしては正解だと思う。クルマを破綻させることなく797hpを使いこなすにはシビアな制御が必要になるってことだしね。
足回りはしっかりとロールしながらグリップの限界を感じることができる、バランスの良いセッティングだよ。ブレーキの容量は十分だけど、やっぱり2トンを越える車重は感じちゃうかなぁ……。
でも、こんなクルマが世の中に存在すること自体が嬉しいよね。もちろん797hpという魅力には自己責任が必要になるけど、安全性を追求した結果、“楽しくないクルマ”ばかりになった今の自動車業界に対するアンチテーゼでもあるような気がする。
こんなクルマが存在する時代に生きてて本当によかったよ!」
試乗を終えたドリキンが損得勘定抜きにしてレッドアイを高く評価していたのが本当に嬉しい。だって稀代のレーサーが本気で走って出した答えだから。
すなわち、走る喜び、操る楽しさを濃厚に漂わせるガソリンエンジン最後の猛獣は、究極のアメリカンマッスルカーに違いないのである。
▲アタックを終えた土屋氏を迎えるオーナーの鈴木勉さん(写真左)とレッドアイの輸入を担当したBELAIRの高畠健さん(写真中央)。
▲全開で走った後レッドアイを降りて一言「すげーっ!」。「でも怖くないし、しっかりしている!」。ただ、ドリフトは「このくらいカウンター当てるとパワー制御が入ってさ〜」と熱く語る。
▲土屋圭市(つちや・けいいち)1956年1月30日、長野県生まれ。1977年に富士フレッシュマンレースでデビュー。派手なテールスライド走行から『ドリキン(ドリフト・キング)』の称号を与えられる。その後、全日本ツーリングカー選手権(グループA)、JTCC、GT選手権、スーパー耐久などで活躍。現役引退した現在は、クルマの楽しさを伝えることにエネルギーを注いでいる。
▲土屋氏がドライブしたレッドアイのオーナーである鈴木勉さんもサーキット走行を嗜むドライバーである。かつ鈴木さんにとって土屋さんは憧れの存在。「今日の取材は夢のようです」と語る。世界的にも希少なレッドアイがドリキンとの出逢いを繋いでくれた。
▲2021年型ダッジチャレンジャーSRTヘルキャットレッドアイワイドボディ。搭載エンジンは3速や4速ですらホイールスピンを起こしてしまうほどパワフルな6.2LのV8スーパーチャージャー。797hpと707lbftを発生させる。インテリアはブラックを基調としたシンプルかつスパルタンなデザイン。運転席のみサベルトのシートベルトを装着。
▲オーナーの鈴木さんはレッドアイへの愛が強すぎて、自らが運営する会社「Mプロジェクト」でオリジナルのフロントリップ・プロテクターを製作。カラーはカーボン、レッド、イエロー、ブラック、ブルー、ゴーマンゴーなど全6色となるが(写真はレッドとカーボン)、愛車に合わせたカラーオーダーも可能。価格は9万9000円(税込)。なお、販売は「BELAIR」が担当する。
19,404円
PERFORMANCE
6DEGREES
19,998円
PERFORMANCE
6DEGREES
3,480円
MAINTENANCE
GDファクトリー千葉店
48,070円
EXTERIOR
6DEGREES