正直、2000年前後のジープブランドに良いイメージはほとんどない。購買欲が刺激されるモデルはなく、若干ラングラーに興味はありつつもそこまで。チェロキーやグランドチェロキーに試乗はするも、どうにも中途半端なイメージが拭えなかった。
だが、そのイメージが根底から覆され大きな変化を感じ取ったのが2005年前後。クライスラー300や初期型チャージャーが登場した頃であり、グランドチェロキーにも大きな変化が見て取れた。それが高級感とパフォーマンス。
ラグジュアリー度を高めていくモデルとパフォーマンスを追求するモデルに分かれ、後者の一翼を担ったのがSRT8である。
このパフォーマンスモデルのデビューのきっかけは間違いなくポルシェカイエンであった。
大きく重たいSUVがスポーツカーさながらに素早く走る。その当時停止状態から時速100キロに到達するまでが5.6秒という最速タイムがカイエンによって刻まれ、この後一気にパフォーマンスSUVが登場し超えるべき壁となったのである。
そして2006年にデビューしたのがグランドチェロキーSRT8。SRT8は、カイエンの5.6秒を大幅に超え5.0秒を記録。一気にスーパーSUVの座を射止めたのである。
ちなみに、その当時0−100km/hを5秒で走るクルマといえば初期のダッジバイパーR/Tであり、直線加速でいえばリアルスポーツカーと肩を並べる数値を叩き出したということである。
で、今回取材したのが2007年型のグランドチェロキーSRT8。サードカマロやジープ系車両を得意とするエイブルが入手したクルマであり、走行約5万6000キロのディーラー車である(ディーラー車は2006年から2010年まで)。
ディーラー車ということで右ハンドル仕様。この当時の右ハンドル仕様に若干の疑いを持ちつつも撮影開始。
まず右ハンドルであるが、想像以上に何ら違和感なく、ペダル配置やペダルの効き具合にも異変なし。唯一気になったのがATのシフトノブとその横に装備されているサイドブレーキであり、おそらくサイドブレーキが左ハンドル車のままの位置にあるから、違和感を感じるのだと思う(笑)とはいえ、操作性に問題は全くないから、ご愛嬌ということで走り出す。
その前に一つ。個体は2007年型であるが、インテリア全体が非常にシンプルであり、質感もさほど高くない。これは現代車を知っているからこそ感じてしまうのだろうが、「2007年のジープってこんなんだったっけ」とついつい愚痴ってしまうほど質素であることの覚悟は必要。
だが、エンジンをかけた瞬間に全ての印象が激変してしまうのもSRT8の特徴であり、「あのエンジンサウンドを聞いたら全てが許せるかも」とも思えてしまうから不思議だ。
搭載されるエンジンは、6.1リッターV8OHVエンジンであり、426ps、最大トルク58.0kg−mを発生させ5速AT(オートスティック付)と組み合わされる。
足回りは、ノーマルのグランドチェロキーから40ミリ低められ、ビルシュタイン製ダンパーと245/45R20インチタイヤが装着される。また圧巻なのがリアからの眺め。リアバンパー中央から2本の太いテールパイプが突き出しており、これだけでもタダモノではないことがひと目でわかる。
ひと昔前なら確実にご近所迷惑と認定されそうなエキゾーストノートを響かせ、試乗開始。取材当日は小雨降る戻り梅雨だったが、4WDのSRT8には何ら問題なく、またアクセルのつきがめちゃめちゃいいV8OHVエンジンを踏み込み猛烈加速。
レブリミットは6200rpmであるが、そこまで瞬時に加速する。恐らく、現行型チャレンジャーなどはもっと速いのだろうが、この重たい塊が瞬時に加速する異様なワープ感はSRT8ならではであり、同時にボディも想像以上に強固な感じが伝わってくるし、ブレンボブレーキも確実にスピードを殺すから、乗り物としてかなり面白い。
仮にゆっくり走っても、いわゆるチャレンジャー&チャージャーと同じV8OHVサウンドが聞こえてくるし、その際のハードなエキゾーストも気分を盛り上げるから、しかも4WDで道や天候を選ばないのも素敵だ。人によっては「右ハンドル」であることも気に入るだろう。
ちなみに今回の個体は、前オーナーが約5万6000キロ走らせているということで、その使用感は正直各部に見られる。
ただ、エイブルの基本コンセプトである「走り、曲がる、止まるを大切にする」という部分はしっかりと守られており、ここがしっかりしているからこそ、例えばレザーステアリングやシートのほつれはいくらでも直すことが可能であり、まずはSRT8にとって非常に重要な「走り」に興味がある方であれば、非常に納得のいく個体ではないか、という印象である。
余談だが、SRT8にはオフローダーのような「4WD・LOWモード」はなく、確実にオンロード重視の足回りセッティングだから、「鷹揚としたアメリカンSUV」のイメージは微塵もなく、結構ハードな仕様になっているからこそ6.1リッターV8OHVエンジンを全力で使い切れるパフォーマンスが発揮できるのだろうし、そうしたパフォーマンスSUVを望むのであれば、かなり面白い1台としてオススメできるだろう。
くわえて、さすがはディーラー車ベースと言えそうなのが各部の状態の良さである。例えばドアはめちゃくちゃ重いのだが、ドア下がりは微塵も感じないし、ボディが強固だからミシミシガタガタといった低級音もないし、エンジンルームを覗けば距離なりの使用感は感じるものの、オイル滲みやバッテリーの腐食等は全く見られないから、そういう意味では「それなりに距離を走ってはいたが、きっちり整備されていた個体かも」との想像ができ、「距離の割にはかなりしっかりした個体ですね」との印象を与えてくれたのだ。
エイブルは、サードカマロやジープ系車両を得意としていると記したが、そうした90年代前後の個体は基本減少傾向である。いやもっと正確に言えばほとんどもないとも言える。となれば、それ以降の販売車両を仕入れる必要性があり、実際にエイブルも2000年前後の個体の仕入れを行っている。
例えば、キャデラックCTS−VとかチャージャーSRT8とか。当然エイブルらしいパフォーマンスカーを中心に仕入れているということであり、今回のグランドチェロキーSRT8もその仲間入りをしたというわけである。
最新のグランドチェロキーLは3列シートのV6エンジン搭載で1000万円を超えるが、こちらは5人乗車の中古車である。が、6LオーバーのV8OHVエンジン搭載で鋼のように硬いボディを持った、イマドキのゴージャスSUVとは一線を画したパフォーマンスモデル。
乗ればわかるが、現代の高級SUVに比べ、すべての感触がダイレクトで刺激度も高いから(室内は質素極まりないが)、刺激的なアメ車が欲しいと考えているならば、一考の余地ありだと思うのである。
12,810円
PERFORMANCE
6DEGREES
17,298円
PERFORMANCE
6DEGREES
18,420円
PERFORMANCE
6DEGREES
2,090円
MAINTENANCE
6DEGREES