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90年代のアメ車、リボーン企画

フォードマスタング コブラ (FORD MUSTANG COBRA)

走りの楽しさを教えてくれた超刺激的マシン

90年代の記憶に残るアメ車の紹介。その名も「90年代リボーン」。まずはアメリカンスペシャリティというジャンルに、走りを意識した硬派な存在として人気を誇った1台。マスタングコブラである。4.6リッターV8DOHCをMTで走らせるそれは、当時、国産武闘派オーナーにも愛され、かなりハードなチューニングを受けていたものもあったのである。

更新日:2014.06.23

文/石山英次 写真/フォード/編集部

個人的にも思い入れのある1台

 1993年から2004年まで存在していたマスタング(通称5代目)にキラ星のごとく登場した1台の超魅力的な高性能マシン。その名もコブラ。それまでスタイリングのみで売っていたスペシャリティカーに、「走り」を印象付けた限定モデルである(メイン写真)。

 1997年から数年のみ販売される。並行車も多数見かけたが、正規でも販売されていたこともあり、国内モデルは即完売だった(たしか最初は50台だったか)。

 私事で恐縮だが、マスタングコブラはこの業界に入って見習いを終えた頃に登場したマシンであり、それまでのアメ車の概念を変えてくれた貴重な1台。当時ミニに乗っていたがちょっとしたトラブルを抱え、工場にて修理をしている約10日間の間、車庫が空いたのをいいことに、フォードから1週間広報車を借りて乗り回した記憶を持つ。

 それまで国産スポーティカーや欧州小型車などを愛車としていた筆者にとって、初めてのアメ車取材がアストロにタホにサバーバン。背が低く首都高を這うように走り回るクルマしか知らない小僧にとって、背の高いミニバンやSUVにどんだけ違和感を感じたか、お分かりいただけるでしょうか?(笑)

 あまりのギャップに、最初は取材にいくことを拒んだくらい、ボディが大きくて、船のように揺れて、それが怖くて怖くて…。それでもしばらくすると、アメ車業界っておもしろい! ここで働いている人たちはみんな楽しい人たち! なんて思い始めて、徐々にアメ車の楽しさがわかってきたのが。

70年代後半のマスタング。今やほとんど見かけることはない後期型。

写真は1986年のマスタング。この80年代のような不遇の時代を抜けて、1993年に登場した当時の新型マスタングは爆発的な人気を得たのだった。だが、あくまでもスペシャリティカー。走りに関してはイマイチ熱くなれなかった存在だった。

■全長×全高×全幅4650×1390×1860mm■ホイールベース:2570mm■車両重量:1540kg■エンジンタイプ:V8 DOHC■排気量:4600cc■最高出力:309ps/5800rpm■最大トルク:41.5kg/4800rpm■圧縮比:9.85■サスペンション:Fマクファーソン式+トーションバー、Rクワドラリンク+トーションバー

アドレナリン出まくりのエンジン

 そんな矢先のマスタングコブラだった。新開発されたオールアルミ製の4.6リッターDOHCエンジンを搭載したそれは、ボルグワーナー製の5段マニュアルギアボックスで、250km/hの世界を垣間見せてくれるという。パワーは309ps/5800rpm、最大トルクは41.5kg/4800rpmで、1540kg(今となってはかなり軽い)のボディを軽々走らせる。

 当時の広報車はイエロー。派手な原色が好きな筆者にとっては、格好の1台だった。インテリアは当時のマスタングとほとんど変わりなし。ただ、メーターがホワイトメーターに変わっており、ギアがマニュアルで、シフトレバーがドライバー側に若干傾いているのがレーシーに感じた。

 ABCペダルは、国産スポーティカーと比較すると、多少クセがあり、ペダル同士の感覚も離れている。だが、クラッチミートは超簡単。クラッチを少し上げるだけで走り出すほどトルクに溢れたエンジンだったから。

 このクルマに乗った時の興奮はいまでも忘れない。筆者は、スポーティカーに乗った時の最大のポイントを、いつもエンジンサウンドに置いている。加速した時の吹け上がり感やその際のサウンド等が心地良い、もしくは迫力がある、または独特とか、そこに何か特徴があればあるほど高評価している。

 特にアメ車の場合は、V8サウンドといわれる特徴的なアイテムを持つだけに、エンジンの評価は譲れないと考えている。だからこそ、このマスタングコブラの衝撃的なエンジンサウンドの盛り上がりには、かなり興奮したのである(OHVのアメ車とはまた全然違うフィーリングにサウンド)。「クォ〜〜ン」と盛り上げるそれは(アクション映画で聞いたことあるような)、当時取材させていただいたデトマソパンテーラの迫力には及ばぬものの(これももの凄かった)それに近い興奮をもたらし、また首都高を一人走っているだけでもアドレナリンが出まくりだった! 

この型のマスタングは、1999年にマイナーチェンジを果たし、若干のフェイスチェンジを行っている。そのときにもコブラが登場している。日本に正規で入ってこなかったが、コンバーチブルのコブラもあった。個人的にも、この型のコブラにはなぜか、あまり惹かれなかったのだが…。デザイン的な洗練性は格段に上がっている。

本国アメリカではコブラベースに「BOSS」の復活までを予感させた。今、コブラのチューニングを考えるなら、こういったアメリカンなメニューが即座に思いつくのだが、当時は意外にも国産チューニングカーのようなカスタマイズを受けたコブラが多かったのだ。

当時、国産車オーナー達にも愛されたコブラ

 まぁお世辞にも、速いとはいえなかったのが残念だが(足回りが柔らかく、正直貧弱さを感じるほどやわかった)、それでもMTとV8サウンドという魅力的なアイテムを持つコブラに当時は心底惚れてしまったのだ(車高下げて足固めただけでもかなり速くなる資質だった)。当時の価格は約398万円(正規ディーラー車)だったか。無理すれば買えないこともないことが余計に火をつけた(結果的に買わなかったが…)。

 マスタングコブラに関しては、その後何台ものオーナーさんを取材している。で、面白いことに、どのオーナーさんにも共通した点があったのである。それが前国産スポーティカーオーナーだったということ。当時280ps規制という法律があって、国産車には280psまでしか出せない規律があった(出せるのに出せない)。
 だがマスタングコブラは309psのMT車。スカイラインGTRが当時500万円オーバーであったことを考えると(またシルビアなどを購入しチューニングするにしても)、コブラの安さは魅力的だったはず。

 そんな経験値を持つオーナーさんだからこそ、これまたみなさん同様に、かなりのチューニングマシンを製作していたのである。ここで紹介する1台もそんなマシンである。

 Nさん(オーナーさん)のマシンは1997年型のコブラ。やはりコブラのエンジンサウンド音に魅了されてしまい、即買い。それ以来自分でもビックリするほどの入れ込みようだったという。

 もともと右ハンドルのMT車乗りのNさんではあったが、左ハンドルMT車でもすぐに慣れ、その後はワンオフパーツを駆使しながら、オンリーワンを目指してカスタムしてきた。

せり上がったボンネットフードやフロントフォグを潰して製作した自作のエアダクトが、コブラの迫力を増長させる。車高もベストバランスという。

トミークラフトのオリジナルリアウイングを装着している。個人的にはやり過ぎ感が強いと思うが、オーナーさんは超お気に入りという。ただ、ボンネットとの前後バランスは取れていると思う。

タワーバーを赤くペイントし、吸排気系をチューニングしているエンジンルーム。エンジン自体は基本的にノーマルだが、格段に気持ちいいエンジンサウンドと排気音が、コブラの特徴であるという。

オリジナルコブラのコーナリングフォースはあまり高くはないが(笑)、足回りを変更したこのコブラ改のコーナリングはかなりのもの。V8エンジンをMTで操りながら、ワインディングを一人走り抜ける気持ち良さは格別である。

国産走り屋系カスタムが主流だった!?

 せり上がったボンネットフードは本国から取り寄せ、迫力重視のリアウイングを装着し、足回りにはコニの調整式ショックをインストール。またホイールはワークをセレクトしツライチを実現すると共にブレーキキャリパーをレッドにペイントする。

 エンジンルーム関係では、エアクリ等の吸気系を交換し、もともとあったフォグを潰し、そこにワンオフのエアダクトを設けた。排気系には、ワンオフのマフラーを製作し、足回りの構造上無理と言われた社外マフラーだったが、見事違和感のない仕上がりと4000回転を越えた辺りから激変する、超刺激的なサウンドを手に入れた。

 Nさんいわく「アメ車の大胆さと、エンジン開けたら日本のチューニングカーの融合」を目指したとか。

 インテリアも同様に、当時の国産車のような仕様である。ホールド性の低いシートを赤いスパルコのバケットシートに換え、ステアリングはmomo。またアルミ製のシフトノブとヒール&トゥ用のアルミ製ABCペダルを配置させ、追加メーターをプラスするなど、コブラの雰囲気も一気に高まった。

 今であれば、レーシングストライプ等を入れてシェルビー風カスタム、なんてことも考えたりするのだろうけど、このコブラ登場当時は、こういった国産走り屋系カスタム全盛期であり、またそれが唯一似合ったアメ車でもあったのだ。筆者も当時はかなり共感していたカスタムスタイルだったし。

 このコブラも、もうすでに16年レベルの中古車となってしまったが、現行マスタングとはまた違った魅力を備えたコイツは、今の時代でも一見の価値ありだと思う。90年代アメ車、リボーン! 今乗っても十分に楽しい1台だと思う。

ホワイト&レッドというコンセプトで仕上げた内外装。ステアリングはmomo製に交換し、アルミ製のシフトノブとヒール&トゥ用のアルミ製ABCペダルを配置することで、ステアリングの操作性向上と素早いシフトチェンジ&ペダル操作を可能としている。また追加メーターも雰囲気を高めるアイテムだ。

ノーマルはレザーシートだったが、ホールド性が低く、体が左右に振られるために、スパルコのバケットシートに交換。これまたレッドのカラーチョイス。コブラというネーニングにもかかわらず、意外にも地味だったインテリアが、かなり刺激的なものに変化した。

リアバンパー回りもレッド&ホワイトで統一。またワンオフのマフラーも、まるでノーマルのような収まり具合。だがサウンドは超刺激的。

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