更新日:2015.05.27
文/石山英次 写真/内藤敬仁
ファストバックの復活、伝統のロングノーズ&ショートデッキが強調されたプロポーション、逆スラントのフロントマスク、3連のリアコンビネーションランプなど、マスタングの象徴的なディテールを継承しながらも、よりモダンに生まれ変わったボディ。
そのボディは旧型と比較して、低くワイドなプロポーションとして進化し(旧型モデルとの比較:全長 -25ミリ、全高 -35ミリ、全幅 +40ミリ)、力強い存在感を醸し出す逆スラント形状のフロントマスクと融合する。
一方、ハイライトとなるリアスタイルは、ウインドシールドからリアガラスへのデザインをより傾斜させ流れるようなサイドラインを形成。視覚的な美しさだけでなく、空力性能も向上させている等、過去のデザイン的遺産を使いつつ、見事モダナイズされた最新デザインを作り上げたのである。
搭載されるエンジンは、新開発の2.3リッター直4エコブーストエンジン。FRモデルに初採用された同エンジンは、314ps、最大トルク44.3kg-mを発生させる。それに6速ATが組み合わされ、マニュアルモード走行が楽しめるパドルシフトが採用されている。
足回りは、フロント、リア共に新設計のサスペンションが採用され、フロントはマクファーソンストラット式で、新たに軽量かつ高剛性のペリメーター型のサブフレームを装着。リアには新たにインテグラルリンク式独立サスペンションが採用される。
さらに日本仕様には、パフォーマンスパッケージが標準装備。専用チューニングされたサスペンションと大型のブレーキローター&キャリパーが装備される等、硬質な走りが体感できる仕様となっている。
インテリアは、航空機のコックピットからインスピレーション得た伝統の左右対称&水平基調のインパネが採用され、伝統を生かしつつ最新マテリアルを使用することで操作性に優れた空間を実現。フォード最新のドライバーコネクトテクノロジー、MyFord Touchも進化し、今回はセンターコンソール内のタッチパネルにオプションでナビゲーションを組み込みことが可能になっている。運転席、助手席にシートヒーター&クーラーが装備され等、まさに至れり尽くせりの装備感である。
まずもって実物のスタイリングが見事である。ロングノーズ&ショートデッキの古典的なプロポーションながら、全高を低め、ヘッドライト回りのデザインを薄型デザインとすることで、モダンなイメージを作り出している。旧型に感じた真横から見た際のボディの厚み感が、新型には全くなく非常に流麗であるのも嬉しい。
フルモデルチェンジとはいえ「旧型と似ている」とずっと思っていたが…、実際には旧型とは「似て非なる存在」であると言っていい。
気になる走りだが、まずシートに座った感じが最高である。ダッシュボードが低くなったような印象があり、だから着座位置からの視界も良くなり、見切りがわかりやすいから運転に気を使う割合が確実に減っている。
さらに手を伸ばすシフトの位置や触れたときの感触の良さ、シフトを動かしたときの動作感は、確実に最新車両のそれであり、もはや「アメ車だから」と粗雑さを嘆く必要はまったくない。加えてステアリングの剛性感が非常に高く、新たに採用された電動パワーアシストのフィーリングも違和感なく、自然な切れ味が好ましい。
気になるエンジンだが、唯一残念だったのが、外から聞いたエンジン始動音。まあ、それも今どきといえばそうなのかもしれないが、正直、マスタングなのか、フォーカスなのか、はたまたフィエスタなのか、旧型V8で響く「ゴォ~」という特有のものがまったくなく、聞きなれないと違いがわからないほど無個性だった(汗)。
とはいえ、実際に乗ってみると非常に小気味よく、さらに思っていた以上にパワフルであり、想像以上のパフォーマンスに驚きを隠せなかった。
考えてみれば、車重2トンを越えるエクスプローラーに搭載されている直4エコブーストでさえかなり走っただけに、それ以上の排気量を備え、かつ車重がこのクラスでは異様に軽い1660kgであるだけに(普通に考えても十分以上のパフォーマンスであることがわかるが)、実際に乗ると予想以上のトルク感があって、一般道ではあっという間に他車をおいていく強烈な加速感を放つ。
低速域からのピックアップが良好なターボエンジンだけに、瞬間的な加速では旧型5リッターV8よりも鋭いレスポンスを披露することもあるくらいだった。
今回マスタングでは初めてステアリング裏にパドルシフトが装備され、マニュアルモードでパドルシフトを使うためにはシフトレバーを「D」から「S」に切り替える必要があるのだが、こちらのレスポンスもかなり良く、エンジンとのマッチングも良好であり、スポーティカーとしての楽しみがまた一つ増えた感じであった。
マスタング初となる4輪独立懸架サスペンションと屈強なモノコックボディの組み合わせは、正直、これまでのマスタングとは別次元の乗り心地を示す。筆者的にはこの部分が一番感動したところ。
シャシーは硬めながらちゃんと動いてショックを吸収する今風のフィーリングであり、まさにヨーロッパ車的な味付けを感じさせる部分がたくさんある。とはいえ、直進安定性は高いのだが、どこか大らかな部分も確実にあって、ダラッとのんびり走らせてくれる部分も持ち合わせているのが、さすがマスタング。
ただ硬めただけのスポーティカーとは決定的に違い、鷹揚としたアメリカンな雰囲気がまだ随所にに感じられるのである(だからこそ乗る意味が感じられる)。
新世代シャシーとエンジンを採用していながらも、伝統的なデザインとアメリカンな乗り味が楽しめる最新マスタング。今まで以上の切れ味を見せることから、幅広いユーザー層にアピール可能だろう。
もちろん、大排気量V8やV6エンジンに比べれば、圧倒されるようなエンジンサウンドの迫力は薄れるし、マッスルカーとは程遠い存在になったかもしれないが、絶対的なパフォーマンスの高さではまったく不足はないし、新種のアメリカンスポーツモデルとして、新たなファンを生む可能性は非常に高い。
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