一般的に、いわゆる営業フェイスと普段の自分との二面性は誰もが持つところだろう。だが本多さんにはそれがまったくない。いつ何時連絡しても、もしくはいつ話しかけても、常に物腰低く、丁寧に輪をかけての丁寧さである。
だから本多さんの愛車について知ると誰もが驚くことだろう。想像するに、ベンツやBMWといった欧州車が似合うかもしれないし、アメ車でも、どちらかといえばピックアップやSUVが思い浮かぶかもしれない。
だが、彼の愛車は97年型のダッジバイパーGTSである。そのギャップが面白い。バイパーとの出会いを本多さんに聞いてみた。
96年に現ショップ・「コレクションズ」を法人化した翌97年に仕入れ車としてRT/10の話が持ち上がる。おぼろげにあったバイパーに対する憧れ。スーパーカーという意識もあり、喜び勇んで受け取りに行くが…。
初めて乗ったRT/10は予想以上の難敵だったという。どちらかというと当時は失望の方がおおきかったかもしれない。
RT/10は、クーペボディのないタルガトップ。初走行はルーフを外しての走行で、場所は第三京浜。まずは風の巻き込みの激しさに萎え、速度を挙げると落ち着かないステアリング、轍に一車線くらい横っ飛びしそうな過敏な反応、それに硬いブレーキフィールに衝撃を受ける。
一方で、ルーフを付けての走行にも難アリだった。彼の地では幌は簡易的なものらしく、まずは走行中の幌のバタつき。そしてその音。たしかに雨風は凌げるが、決して心地良い空間ではなかったことは否めない。
ただ、今考えればRT/10はコンセプトカーからそのまま市販されたようなクルマだけに、当時の状況は仕方ないとは思えるという。なんせ、初めてのバイパーである。おぼろげなイメージだけではRT/10には太刀打ちできなかったのだろう(笑)。だが、「バイパーたるもの」を知った後では逆にそういう難ありな部分を含め「初代バイパーだからこその魅力と思っている」とも付け加えてくれた。
そんなこんなで半年後に、RT/10は販売された。
で、それからしばらくしてクーペとなったGTSの話が舞い込む。「初代がオープントップだったからこその悪条件だったかもしれない。だからクーペなら違っているかも」とまたも舞い上がる。
だが一方で、RT/10の走りのネガもいろいろと思い出され、二の足を踏む自分もいる。とはいえ一応、試乗はしてみた。
実際に走らせてみるとGTSはまったくの別物に進化していた。初代のネガがほとんど消えている。基本ベースは同じでも、サスペンションの取り付け位置やブッシュ類、さらには剛性等がまるで別物。カタチは同じでもフルモデルチェンジといっても過言ではないほど進化していたのである。
のちに気づくのだが、バイパーにおける全進化の過程(一世代目から五世代目までのなか)で、初代から二世代目への進化が一番劇的なものとなっていたという。
余談だが、バイパーにおける全進化は、コルベットの進化ほどのそれぞれの進化には敵わないという。すなわち、バイパーは初代誕生時から、高性能化はされているが、ベースとなる根本の土台部分に大きな変化は起きていないというのである(乗りやすや快適性能を含む)。
そういう意味では、コルベットこそ実用的乗用車としても使える幅広いユーザー層が想定できるが、バイパーの根本にある思想は、ただ走るためのレーシングカーとしての姿。
だからバイパーをもって、「あんな危ないクルマはない」「雑で危険だわ」etcといったように、端から合わない、もしくは拒絶してしまう方がいるもの理解できるというのである。
一方でそれとは逆に、走らせ方や付き合い方がわかるまでには時間がかかるが、そういったことを克服しバイパーの本筋に近づくと、もう離れなれない(笑)。充実感が半端ではないと。
本多さんは、この97年型ブルー&ホワイトのGTSの走りに感動し、そのクルマを売り物としてではなく、自分の愛車として維持するようになったのである。
「7、8年乗ったでしょうか。そのバイパーは実は事故で潰してしまったんです。ですが、すぐに同じ色のブルー&ホワイトのGTSを入手。今現在のカラーであるブラック&シルバーにオールペイントし、そのクルマは今でも持っていますね」
その後、バイパーは第三世代、第四世代モデルが登場し一度生産終了となる。そして2013年に第五世代として復活するも、2017年モデルを最後に再度生産終了が発表されている。
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