「フルサイズピックアップトラックでドリフトして遊ぶ!」という豪快すぎるコンセプトを引っ提げ、今年夏にサーキットデビューを果たしたジャパンレーストラックトレンズの黒いダッジラム。4カ月の歳月を経て再び、福島エビスサーキットに姿を現した。
その走りを外から見ただけでも、大幅な進化の度合いをうかがい知ることができる。ドリフトコースとは思えない程にアップダウンの激しいエビスサーキットだが、以前は終始揺さぶられていたラムの走りが非常に落ち着いていたのだ。
ドリフトのスタートもスムーズで、しかも舵角を当ててからの姿勢も安定している。夏の段階では、ドリフトが始まってからも何とか横滑りの姿勢を保とうという森久保氏の苦闘が、外からでもうかがえたのだが、今回はそうした気配は一切ナシ。このサーキットでの見せ場でもある、長い1コーナーの始まりから終わりまでを見事にドリフトで駆け抜けて見せたのである。
なによりマシンの進化を雄弁に語っていたのが「白煙」だった。ドリフトの醍醐味たる後輪からのスモークの量が、夏とはけた違いだったのだ!
迫力満点だった前回をも上回るパフォーマンスを披露した森久保氏とダッジラム。今回マシンには、足回りとパワートレインの双方からのアップデートが施されていた。
まず足回りでは、リアサスのショックにカヤバのモノマックスを採用したほか、フリップキットで若干のローダウン&強化。これはドリフトに必須となるマシンのフットワークを高めるのはもちろん、前回破損してしまったプロペラシャフトのトラブル対策という意味合いもあるのだとか。
というのも、プロペラシャフト破損の原因のひとつとして、アシが激しく動き過ぎたことが挙げられるため。アシの強化は、それを抑えることにもつながるのである。
またドライブトレインではデフのイニシャルも変えられており、クラッチには競技用のものが採用されていた。
一方パワートレインでは、姿勢制御のキモとなるエンジンレスポンスを追求するため、スロットルコントローラーを採用。「勝手にシフトアップ&ダウンしてしまう」ことが懸案だったATについては、強制的に2速ホールド状態を保つためのスイッチが追加されていた。
レーストラック代表の高橋氏曰く、「エビスサーキットをラムで走る場合は、2速ホールドがベスト」とのこと。改造を施したATの様子を見るため、コックピットにはATのオイルテンプ(油温計)も追加されていた。
「目標は1コーナーをつなげること」と言っていたが、森久保氏とラムのコンビは、コースイン早々にそれをやってのけてしまった。それほどまでに、今回のラムの完成度は高まっていたのである。
このラムの仕上がりについて、同車のオーナーであり、ドライバーを務める森久保慎氏は「格段に乗りやすくなった」と評価。
「まずはエンジンのレスポンスアップが利いていますね。サイドブレーキからアクセルに踏みかえた時(ラムのパーキングは足踏み式なのだ)のパワーの立ち上がりが素早いので、振り出しの姿勢を維持しやすい。今までに(ドリフトが)できなかったコーナーでも、挑戦できる感じです。
またリアのアーム類動きや、デフの効き方の違いも良く分かります。アシがダメなクルマって、(エビスサーキットの)ストレート前のバンプで舵角をあてると、壁の方に吹っ飛んじゃうんですよね。でも、もうこのラムではそうはならない。ストレートの姿勢がきれいなんです。それにとにかくクルマが振られない。前にあった揺さぶられる感じが無いのが、とくに2コーナーで分かりますよ。
あと、意外かもしれないんですが、このラムってハンドリングが良いんですよ。出来の悪いシルビアなんかより、ノーズの入りがイイ。フロントにスタビを入れるんで、それが利いているのは間違いないですね」
クルマの出来について高橋さんと話しながら、「このラムで、一度茂原サーキットを走ってみたいですね。全コーナーをドリフトでつなげますよ!」と楽しげに話していた森久保氏。このダッジラムはドリフトもやれるスポーツトラックとして、かなり高い領域に達しているのである。
このダッジラムは、フットワークを煮詰めた段階で一度本庄サーキットでテストを実施している。プロペラシャフトの課題がクリアになったことと足回りの完成度を確かめてから、ここエビスにカムバックしてきた。そして順調にコースインし、確実なドリフトを決めていたのだが…。
……、またも突然のトラブル発生! 残念ながら、今回も車軸関係のトラブルが発生し最後まで走ることができなかった。
エビスの南コースは、サーキットのコースのアップダウンがかなり激しいのだが、今回はこのコースにやられた感じだった。右に左に激しく振られ、そして上下にバンプするコースレイアウトに耐えられなかった部分が発生したのである。
前回のトラブルを克服し、快調に走っていたのだが、今度は快調すぎたことが災いしてか、縦横無尽に走ることが可能になっただけに、次なる試練にぶち当たってしまった。
ただ、当日一緒に走っていたC1500は何事もなかったようにクリアしただけに、最初は落胆の色が隠せなかったが、瞬時に切り替えて、次なる対応を考えることになった。
C1500はレギュラーキャブのV6&ローダウン仕様である。一方ラムはクワッドキャブのV8ベースで、車重の違いやホイールベースの違い、また車高の違いなどの物理的な差が、アップダウンの激しいコースレイアウトと相まってラムに襲いかかったようである。
「戻ってから再度原因を分析しますが、次はリアの軽量化、とにかくトラクションを抜く等、またまたいろいろ対応してみますよ」と、すでに高橋さんの頭の中には次回への挑戦が描かれている様子だった。
こうしたデータは、実際にフルサイズピックアップでドリフトした森久保氏とレーストラックでしか培うことができないもの。バンやSUVでもスポーティな走りを実践する同社ならではの、貴重なノウハウとなるはずである。
ちなみにこのトライは、ドリフト大会にて優勝するためとか、レースに出て勝つとか、速いラップタイムを出そうとか、そういった目的にために行われているのではない。ただ単純に「ピックアップトラックでドリフトを決めたらカッコいいだろうなぁ」という男たちの熱い想い、ただそれだけである。
これも大人のクルマ遊びの一種なのだろう。今後の更なる進化に、ぜひ期待したい。
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