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[試乗記]

デビュー当時「路上の帝王」として君臨

クライスラー300C (CHRYSLER 300C)

新しい時代の「アメ車」を予感させた第一人者

一時代を築いたアメ車の4ドアセダン、クライスラー300に改めて乗ってみた。これまで知っている仮装された300とは違いフルノーマルのそれは、中古車でありながらも円熟味が増したように感じられ、一段と魅力的だった。

更新日:2014.04.03

文/椙内洋輔 写真/古閑章郎

取材協力/ガレージダイバン TEL 0356073344 [ホームページ] [詳細情報]

アメ車の新時代が幕開け

 私事で恐縮だが、ジャガーXJに乗っている知人を知っている。すでに10年以上前の中古車なのだが、まだまだ状態良く、ボディカラーはブラックで内装がアイボリーなのだが、その組み合わせのセンス良く、フルノーマルではあるのだが、ホイールのみをブラックにペイントして個性を出しており、ただそれだけなのだが今となってもひと目を惹く、非常にファッショナブルな1台である。いまだにフォーマルにも使え、もちろんカジュアルにも使える希有なクルマである。

 ある程度年齢を重ねると、ふと「落ち着いたセダンに乗りたい…」なんて思うから不思議である。そんな時はいつもこのジャガーを思い出すのだが、果てさて…、アメ車にこんな洒落たセダンがありましたっけ?

 もちろん、そういった選択肢の第一候補として上がるのは、間違いなくキャデラックであろうと思う。だが正直、今現在10数年前の中古キャデラックに安易に乗れるとは思い難い。それなりに費用をかければもちろん乗れるだろうが、そういった出物に会うこと自体、稀であろう…。

 そんな状況下で個人的に考える、今もっともオススメなセダンこそ、旧300であると思う。

 2005年に登場したそれは、そのクラシカルなキャラクターとマッスルカー的な爆発力を兼ね備えた理想のスーパーセダンとして注目された。アメ車特有のボックス的なスタイルを基本とし、ウエストラインよりも上部を切り詰めたチョップドルーフ的なプロポーションがクライスラーのデザイン的技量を示し、「重厚かつワイルド」なアメ車をモロに具現化した1台だった(旧300にあって現行300にないのはこのワイルドさ。これがなくなったために現行は苦戦しているのだろう)。

 ちなみに、コイツをベースにしたカスタムカーのカッコ良さといったら、それは見事なものだった。

搭載されるエンジンは、5.7リッターV8HEMI。340hpに5速ATが組み合わされる。スポーティセダンとして使うなら今でも十分な性能だと思う。

2006年型の新車並行車ということで左ハンドル仕様となっている。この時代ディーラー車の右ハンドル仕様もあるから、好みで選んでも良いだろう。ただし、D車の場合、主にV6メインとなるためにV8を探すは困難かもしれないが。

メーターの質感もいいし、吹け上がりの良さやサウンドに感嘆する。

巌のごとき走行性能に驚愕

 当時搭載されたエンジンは、3.5リッターV6、5.7リッターV8HEMI、そして6.1リッターV8HEMIの3種類。中でも印象的だったのが5.7リッターで、低回転から湧き出るような大トルク感がウリであり、6000回転近くまで引っ張ればまるでナスカーマシンのような高速V8のビート感で室内が満たされる。

 HEMIヘッドOHVエンジンが発生させる340ps、最大トルク53.8kg-mのパワーは圧倒的であり、その音色と言ったら紛れもないアメ車である。分厚いトルクとATとのマッチングも良好で、望むだけのパワーが瞬時に得られるような印象であった。さらにステアリングとブレーキが格段にシッカリしているからどこでも速い。直線もコーナーも何事もなかったようにクリアしてしまう。

 デビュー当時、ベンツのベースを使ったモデルとして、巌のごとき走行性能をもってわれわれを驚愕させた。極めて硬質に引き締められたボディとアシ、そして豪快なエンジンパワーで高速域まで走らせる300は、凡庸なスーパーカーやスポーツカーを凌駕して、新しい路上の帝王として一気に名乗りを上げたのである。

室内はクリーンな空間を維持し、若干レザーシートにシワが入っている以外、年式や走行距離を感じさせる部分はほとんどない。左ハンドル仕様は、ペダル位置にも違和感がないから、断然お勧め。

6万キロ弱の距離を刻むが、リアシートには使用した形跡がまったくないと言っていいほどの状態だった。

フルノーマルの300自体が稀だから、最初見た時は正直驚いた。しかも人気カラーのクールバニラ。ホイールまでノーマルである。

300の登場前と後ではアメ車は全くの別物になったと言っても過言ではない。

「もう昔のアメ車じゃない」

 試乗させてもらった300Cは、2006年型で約6万3000キロ走行車。クールバニラのボディカラーにフルノーマルが自慢の1台。

 登場して以来、300Cには何度も乗ったが、乗ればいつも「凄い」と思うことがいっぱいだった。特にひと昔前までのようなボディのチリに関する甘さは微塵もなく、乗り込んだ感触もドイツ車のごとく堅牢であり、直線的なインパネやATシフトの剛性感にも驚かされる。今回改めて中古車に触れてみて、その当時の感触がまだまだ残っていることが発見できたのである。

 シートの座り心地は意外に硬く、ステアリング操作や各種ペダルフィーリングにも同じく硬質感が漂っている。走り出せば、ボディはかなりシッカリしており、足回りは当たりの強さというか角が取れてまろやかになったというか、程よく引き締まった印象であり、普通に走っている分にはなんら不満は感じさせない。

 「アメ車史」というものがあるかどうかはわからないが、この300が登場した2005年前後はアメ車の歴史が明らかに変わった瞬間である。

 「もう昔のアメ車じゃない」。それまでのプラスチック然としたアメ車の安っぽさはほとんどなくなり、質感および性能が格段に上がった時代。その先頭を突っ走っていたのが300であった。

ひと昔前までのようなボディのチリに関する甘さは微塵もなく、デザインも過去のリバイバルではなく、完全オリジナルの作品。今でも十分人気だが、この先必ずや再び人気沸騰するはずである。その前に入手すべし。

アメ車特有のボックス的なスタイルを基本とし、ウエストラインよりも上部を切り詰めたチョップドルーフ的なプロポーションは、近代のクルマにおいては、この300をおいて他にない。歴史に残る名車の予感である。

円熟味を増して一段と魅力的

 300の中古車を前に、改めてこのデザイン的な魅力に圧倒される。「もう二度と出ないだろうな…」。300には、前述したジャガーのような洗練性はかけらもないが、「アメリカ」が詰まっている。そのデザインにはひと目見て人を圧倒する迫力が備わっている。昔のデザインを焼き直したリメイクではない。過去の伝統は引き継ぐものの、新たに起こしたオリジナルである。

 そこには、クルマなんてどれも同じだろうから燃費で、などというシラケた心を吹き飛ばそうとするエネルギーがある。 

 こんなセダンと過ごしてみたい…。アメ車好きならそう思わずにはいられないだろう。時が経って見た素顔の300は、円熟味を増して一段と魅力的だった。

 ちなみに兄弟車として同じベースを使ったダッジチャージャーも4ドアセダンだが、気品というか伝統というか…、キラキラ輝くメッキグリルを含めて、さらに程度の良い個体の数も考慮して、今は300を是非にとお勧めしたい。

元がシッカリしているせいか、中古車となってもその味わいは目減りしない。まだまだ十分に300を楽しむことが可能である。ベース車は過度なカスタムが施されていなかったことも、程度良好な理由であろう。

過去のクライスラー300の伝統を受け継ぎながらも、新たにデザインしなおし、まったく新しいカタチとして誕生させたこの時代のクライスラーの力量こそ素晴らしい。

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