TEST RIDE

[試乗記]

コルベットとしての味を持って世界に羽ばたく

シボレーコルベット C7 クーペ

ノーマルのアシに6ATの素を試す

数あるC7の中でも一番安価な素のクーペ試乗した。マグネティックライドも付かないありのままのC7とはいかに?

更新日:2014.07.14

文/椙内洋介 写真/古閑章郎

取材協力/ベルエアー TEL 0436-40-1212 [ホームページ] [詳細情報]

まるでドイツ車のように…

 例えば「打倒ドイツ車」という目標を掲げたとする。するとほとんどのメーカー(日本を含む)がニュルといわれる世界一の難所(一周するのに8分近くかかる)サーキットにクルマを持込み、車両テストを繰り返す。するとヤワなボディは一発でヒビ割れを起こし、追従性の低いサスペンションはコントロールを失い、効かないブレーキだと一周すら走ることがままならない。

 すなわち、それこそが10年近く前のアメ車だった(笑)

 だがそこで、鍛えて鍛えて鍛えまくって、補強して補強して補強しまくれば、そこそこ素早く走れるようになる。ニュルは、アメ車にとっての大リーグ養成ギブスのようなもんだった。

 ちなみに、この頃のドイツ車といえば、ニュルを最終テストの調整の場として使っていたわけである。アメ車は必死の形相でラップタイムを刻んでいたが、ドイツ車は鼻歌交じりの余裕の走りで、確認作業を行っていたのである。

 それから数年経ってニュルを走るアメ車はかなりの数になった。まるで「ドイツ車になりたくて…」のように。だからボディは岩のように硬くなり、サスペンション制御にも長けて、コントロール性高く、まさにドイツ車のごとき走りが可能になった。

 しかしエンジンがV6だったり直4だったりするのだから…、「それってアメ車ですか?」

C6コルベットから8年後のフルモデルチェンジで登場したC7コルベット。歴代モデルから引き継いだアイデンティティは感じさせるものの、C6から引き継いだパーツは2つしかないという。まさに徹底的に新しくなったコルベットである。

全長×全幅×全高:4510×1880×1230ミリ、ホイールベース:2710ミリ、車重:1540キロというミドル級スポーツカーである。リアデザインは賛否両論あるものの、筆者的には◎。カマロには悪いけど。

装着されるタイヤはミシュラン・パイロットスーパースポーツ。フロント245/40ZR18インチ、リア285/35ZR19インチ。これらのタイヤを見事履きこなすC7のサスペンション能力はかなり高い。ただ、タイヤ依存度も同時にかなり高いから、摩耗と交換時期はシビアに検討すべし。

メイン画像もそうだが、見方よるとC3コルベットのようなフェンダーの盛り上がりが感じられ、ファンにはたまらないデザインとなっている。

自らの理想を貫き通す

 だが、コルベット。仮想敵をポルシェとし、50年という長き歴史の集大成としてC7という最強スポーツカーを作り出した。そしてまた再びニュルを走り切りセットアップを繰り返したのである。だが、素晴らしいのは、仮想敵を置きつつもそれを模倣するだけにとどまらず、自らの理想を貫き通していることだった。

 たとえばフレームボディにFRPパネルを貼り付けるという初代以来のボディ構造は、今回も継承されている。LT1V8エンジンは新設計だが、排気量が6.2リッターでOHVのままだし、サスペンションも、あいかわらずコイルではなくて横置きリーフスプリングを使っている(いずれもが自動車技術としては過去の産物とされるものだ)。

 すなわち、単なるドイツ車に成り下がらず、それらが一体となり、コルベットとしての「味」を間違いなく作りだしているのである。

 今回試乗したコルベットは、クーペのATモデル。Z51のようなハイパフォーマンスモデルではなく、いわゆる普通のノーマルクーペとなり、販売的にも一番スタンダードなモデルとなる。もう少し詳しく説明すると、搭載されるエンジンは同じV8だが、最高出力はZ51よりも6ps低い460ps、最大トルク63.6kg-mを発生させる。さらに電子制御サスペンション「マグネティックライドコントロール」が装着されていない。ちなみに、6速ATは、ステアリングにパドルがついているATゆえに、実にフツーに、安楽にドライブできる。

 もう何度も乗っているのでさすがに慣れた印象もあるのだが、じつはATモデルは初めてだったりするから、「毎日乗るならこれでいいかも」とも思わなくはない。主に街中を中心に走りまわったが、乗り心地の良さは絶品だった。さほど硬過ぎず、適度なしなやかさを感じさせる。路面が荒れていても、段差があっても、巨大な偏平タイヤの存在を少々意識させる程度のことで、前245/40ZR18、後285/35ZR19という超ロープロファイルタイヤの割に最高の洗練度を示す。

 エンジンも、低中速トルクがたっぷりしているから街中でも十分速く、高速では100km/h巡航で1200rpmという、超ハイギアードがアメ車らしい。

搭載されるエンジンは、オールアルミニウム製V8で460ps、最大トルク63.6kg-mを発生させる。OHVかつ直噴となる。さらに可変バルブタイミング機構に加えて、クルージング中はV8からV4となる「アクティブフューエルマネジメント」を装備する。

質感が激変したインテリア。各種パーツの質感や工作精度はかなり高く、グラフィカルなメーター類と相まって、華やかな雰囲気が漂う。各種スイッチ類の操作感にも安っぽさはなく、総じて世界レベルにやっと追いついたといった感じだろう。

ステアリング裏にある変速用のパドルの操作性はかなり高い。別にパドルを使用しなくても抜群に速いから、6ATに任せてのんびりドライブすることも可能だ。

ロングノーズ、ショートデッキのプロポーションのため、ドライバーはリアアクスルの上に座っているようなコルベット特有の感覚が常にある。だが思った以上にボディが小さく感じられるから毎日でも乗れるスポーツカーである。

あとは感覚的な満足度が加味すれば…

 極めつけは、ハンドリングである。ほとんどロールを感じさせないのである。マグネティックライドが装備されていないが、シャシーのバランスに変わりはなく、動きの素早さは特筆ものである。電動パワステは非常に軽く、だが動きのインフォメーションが明確にあり舵の効きが素晴らしく、それは街中でも十分に感じられる。また思った以上にボディが小さく感じられ、感覚的にはポルシェ911のように毎日の移動に積極的に使いたいスポーツカーであると感じた。

 ただし、惜しむらくは、LT1V8エンジンのサウンドである。かのフェラーリ大好き自動車評論家・S氏曰く「旧コルベットから100倍良くなったと思うし、俄然速くなったしカッコ良くもなったけど、フェラーリV8にはサウンドの点でまったくかなわない。ということで、フェラーリ様の弟分には認定する」との発言を聞いたのだが、筆者的にも「若干アメ車的なV8サウンドっぽさが少ないかな」と思わなくもない(慣らしを終えて距離を重ねれば変わっていくかもしれないが)。まあサウンドに関しては、感覚的なものだけに個人差はあると思うが…。

 とはいえ、フェラーリ458イタリアは2900万円する超高級スポーツカーである。900万円弱のコルベットが立ち向かえる相手ではないが、動的質感は十分に立ち向かえるという世界的な評価を得ているから、今後C7に感覚的な満足度がフェラーリ的に高まれば、それこそ鬼に金棒だろう。

 ちなみにポルシェ911は1300万弱であり、日産がGTRが930万円だから、コルベットの能力的な立ち位置からして安価と言っても過言ではないだろう。

 イタリアのフェラーリ、ドイツのポルシェ、日本のGTR、イギリスのアストンマーチン、そしてアメリカのコルベット。各国を代表するスポーツカーの中で一人立ち遅れていた感があったコルベットだが、C7になりついに同じ土俵に登ることが可能になったわけである。

シートは二種類あり、ノーマルクーペにはGTバケットシートが、そしてZ51にはコンペティションバケットシートが装備される。赤いレザーに包まれたGTバケットタイプは、質感、ホールド性、剛性、すべてにおてい高いレベルを維持しており、普段使いには何一つ不満のないレベル。

すでに当たり前の感さえある、ブレンボの大径ブレーキ。これまた当たり前のようにめちゃめちゃ良く効くブレーキに仕上がっている。

リアハッチを開けると大きな開口部を持つラゲッジスペースが現れる。荷物の露出を防ぐカバーも備わる。取り外したタルガのルーフパネルも、ここに収納することになる。

クーペと言いながらもタルガボディであるC7コルベット。にもかかわらずここまでの剛性を確保したのはフレームボディならでは。もはやポルシェとだってタメ張れる運動性能は高いボディ剛性あってこそだ。

<関連記事>
>> シボレーコルベットC7の試乗記 を見る
>> GG佐藤のコルベットに乗る を見る
>> 古賀琢麻が語るC7コルベット を見る
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