フォードのプレミアムディビジョンを担い、本場アメリカではキャデラックと双璧をなす位置にあるリンカーン。日本では長年近鉄モータースによる輸入販売が行われていたが、2008年5月からは本家フォードの日本法人、フォード・ジャパン・リミテッドが取り扱いを開始。他のインポーターの撤退後も、フルサイズSUVの「ナビゲーター」とミドルサイズ・クロスオーバーの「MKX」を販売している。
今回紹介するのは、そんな日本向けラインアップのエントリーモデルを担う「MKX」。兄弟車「フォード・エッジ」の高級仕様にあたり、ブランド初のミドルサイズ・クロスオーバーとして2006年にリリースされたものだ。昨年(2010年1月)のデトロイトショーでお披露目された2011年モデルでは、デビューから4年を機に全面刷新。エンジンは従来の3.5リッターからTi‐VCT搭載の3.7リッターDOHCに進化し、スタイリングも2分割グリルのフロントマスクを筆頭に、リンカーンに共通のデザインに改められた。もうひとつ注目すべきなのが、オーディオやエアコン、Bluetooth通話などの機能を統合した「My Lincoln Touch(マイ・リンカーン・タッチ)」。8インチのタッチパネルスクリーンを中心とした操作方法も含めて、今日におけるアメ車の最新インターフェイスと言えるだろう。
本国ではFFもラインアップされるが、日本に導入されるのは4WDのモノグレード。価格は従来より20万円ほどお手頃な630万円からとなっている。
このクルマのライバルと言えば、もちろん筆頭に挙げられるのがキャデラック「SRXクロスオーバー」。また2011年モデルがデトロイトショーで発表された際、NVH(騒音・振動・ハーシュネスなどから勘案した乗員の快適性)の比較対象として「アウディQ5」や「レクサスRX」の名が挙げられていた。実際、現地での競合車種はこのクラスとみて間違いないだろう。
日本市場でのライバルもおおむねこの辺りで、フォード・ジャパンの設定した630万円と言う値付けは、「アウディQ5」で言えば2リッターターボの上級グレード、また「フォルクスワーゲン・トゥアレグ」のV6モデルとも正面からぶつかる。一方国産勢では、「レクサスRX」のハイブリッド車と価格がオーバーラップ。ドイツ勢に対してはエンジンや装備でお買い得感を示しつつ、国産車よりはプレミアムと言う塩梅である。
肝心のキャデラックと比較した場合は、サンルーフやHDDナビなどを標準装備した「SRXクロスオーバー・プレミアム」よりおよそ30万円高。この辺はプラス700ccの排気量と、より充実したオーディオ(キャデラックの10スピーカーに対しこちらは14スピーカー)、日本市場でのリンカーン・ブランドの希少性などを加味したものだろう。
何にしてもこの価格は、先日紹介した「ジープ・グランドチェロキー」のエアサス+サンルーフ装着車より100万円も高額なもの。このクルマが「値段も性能の内」というプレミアムセグメントのど真ん中に位置することは間違いない。
実車を目前にすると、誰もがそのフロントマスクに目を奪われるはずだ。「スプリット・ウイング・グリル」と呼ばれるこのデザインは、本国で販売される他のリンカーンたちとも共通のものだが、車体のボリュームもあってか、やはりMKXがもっとも大胆に見える。
もうひとつ特徴と言えるのが、新しいインテリアのクオリティ。黒で統一された内装色に、ウォールナットの加飾パネル、サテンブロンズのコンソールの組み合わせが驚くほどモダンで、四角張った従来のデザインとは隔世の差を感じさせる。もちろんシートのステッチやウッドパネルの角の処理など、仕立ての良さも折り紙つき。装備も充実しており、2分割のサンルーフやパワーテールゲート、先進のインフォティメントシステム「マイ・リンカーン・タッチ」なども全車に装備される。
この「マイ・リンカーン・タッチ」とは、センターコンソールのタッチスクリーンで、エアコンやオーディオなどの機能をコントロールするというもの。機能ごとに画面を切り替えることで、モニターひとつで複数の装備を使いこなすことができるのだ。またブラインド操作についても考慮しており、ステアリングスイッチや音声認証機能も装備。世界的に見ても、もっとも意欲的なインターフェイスのひとつと言えるだろう。ただし問題もあり、それはアメリカ仕様をそのまま日本に持ってきたものであること。なんと文字表示、音声認証ともに日本語には全く非対応なのだ。しかもカーナビ機能も用意されない。アメ車の“最先端”を感じさせるシステムだけに、導入に踏み切ったフォード・ジャパンの意欲は素晴らしいのだが、果てさて今後普及するか否かは微妙である。
今回、劇的な改良を受けたMKXだが、シャシーそのものは従来モデルから踏襲。兄弟車のエッジともども、マツダCX‐9などと同系統の「フォードCD3プラットフォーム」を採用している。エッジにもCX‐9にも乗ったことがない身分としては、事前にその乗り味を予想することはできなかったが、実際に走らせてみると、MKXは今時珍しいほどに鷹揚で、アメリカンテイストを感じさせる1台だった。
アクセルレスポンスは最近流行の欧州テイストとは一味違い、踏みしろを探るような繊細なコントロールには反応が薄い。「加速したけりゃ踏んでください」という、ちょっと懐かしい感覚のものだ。その分、深く踏み込んだ時のエンジンは元気そのもの。普段は低回転域を使いたがるギアも、その時だけは5000rpmぐらいまでシフトアップをガマン。マスタングにも搭載する3.7リッターV6の野太い声をしっかりと堪能できる。さらにエンジンを積極的に回したければ、6速ATに追加されたセレクトシフトでマニュアル操作を楽しめばいい。シフトレバー横の「+/-」スイッチに最初は戸惑うものの、慣れれば違和感なく操作できるようになるはずだ。
身のこなしもおおらかで、ハンドリングもセンターの遊びがかなり大きめ。峠道などでは舵の効き始めるタイミングを計算に入れてハンドルを切らないと、こまめな切り足し、切り戻しを繰り返すハメになる。とはいえフットワークそのものはしっかりしたもので、よほど攻め込んだりしなければワインディングでも不安はなかった。
今回の試乗コースは、本格的なワインディングステージの芦ノ湖スカイライン。しかも山陰の道には雪が残っている有様で、MKXはもちろん、ミドルサイズSUVの試乗に向いたシチュエーションとは到底言えなかった。はっきり言って、撮影をサボって東名高速を延々とドライブしたかったというのが正直な感想だ。おおらかなキャラクターのこのクルマなら、さぞや気持ち良いツーリングが満喫できたに違いない。
MKXは、まさにそうしたシチュエーションを本懐とするクルマだろう。せわしない峠道では操作をミスしがちだった件のインフォティメントシステムも、そうしたシーンなら「スマートフォン感覚」を謳うインターフェイスがもっと楽しめたはずだ。
もっとも、MKXは峠道がまったくダメというわけでもなかった。前後輪はもちろん、必要に応じて左右輪の間でもトルクを配分する4WDシステムのおかげで、多少飛ばし気味にワインディングを駆けても恐いという印象はない。また減速時には燃料をカットするなど、燃費改善の工夫もしっかり施されている。今や多くのアメ車が失いつつある「アメ車らしさ」を残しながら、かつてアメ車が苦手としたカ所を丁寧につぶしている。それが新しいMKXと言えるだろう。
同じプレミアムブランドでありながら、欧州志向に傾倒するキャデラックとはまったく異なる路線を進むリンカーン。もしあなたがグローバル化に邁進する現代のアメ車に違和感を覚えているなら、一度MKXに乗ることをオススメしたい。
330,000円
AUDIO&VISUAL
あとづけ屋
283,800円
AUDIO&VISUAL
あとづけ屋
183,250円
AUDIO&VISUAL
あとづけ屋
272,800円
AUDIO&VISUAL
あとづけ屋